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その8.タマシイノイチブ(1)

 ナイトロードは黒竜らしく、人間の姿になっても黒ずくめだ。

 癖っ毛の長髪も黒、目も黒。着てる服も黒。

 ちょっとだけ色があるのは、背に背負ってるでっかい剣の柄だけだ。柄の部分だけが、何故か金色だった。

 男前の相方に、こっぱずかしくもちいっと見惚れてしまった俺に、流離人が言った。


「アルシオン異界の御仁と竜王は、どうやら、ある意味では分離されてはいないな」


 は? なんだそれ?


「どーゆーイミだよ?」


 俺は、何やら難しい顔をした流離人を睨んだ。


「こうやって、お互いの顔が見えてんのにか?」


 ワケがわかんねー、と、噛み付いた俺に、ナイトロードが至極真面目な顔で答えた。


「私と一輝は、長く同化していた。そのために、互いの魂の一部が完全に癒着してしまっているのだ。――彼は、そのことを言っているのだ」


 タマシイノ、イチブ?

 なんだそれ? と、またもや分からん言葉に首を傾げた俺に、流離人が説明した。


「アルシオン異界では、《結合双生児》という、身体の一部または殆どが結合したまま誕生する子供がいる、と聞いた。それの逆だな。あなたと竜王は、魔術で混ぜられたことにより、身体ではなく、魂が、癒着してしまっていたのだ」


 ――ユチャクって……。それ、ヤバいんじゃねーのか?


 ちょっと不安になった俺を、ナイトロードが「大丈夫だ」と宥めた。


 あれ? どーして俺のキモチが判るんだよ? 分離したのに?


「魂が完全に離れていないからだ。未だに、私には、一輝の考えていることが、以前と変わらず分かる」


「え? じゃあ、俺も、ナイトロードがナニ考えてるのか、分かるってコトか?」


「多分」


 ……ええと。

 これが、いいことなのか悪い事なのか?

 判断つかねー。


「一輝にしてみれば、本当は迷惑な話なのかもしれない。しかし、私にすれば、あの時、あの双子の誤った魔法で一輝と融合出来たのは、僥倖としか言いようがない。あの魔法がなければ、間違いなく私は死んでいた」


 ほんの少し、悲しそうな顔をしたナイトロードの気持が、俺に伝わって来た。

 ラッキーだった、って言いながら、ほんとは死んでも良かったって、思ってやがる。

 俺の体力と魂を半分使って生き返ったってことに、ナイトロードは俺に済まないって思ってるのだ。


「そんなこと、ねえ」俺は言った。


 言ってから、はっ、とした。


 もしかしたら、俺も、ナイトロードと混ざらなかったら死んでいたのかもしれない。

 軽トラと真っ向勝負でガチ負けしたんだ。いくらなんでも、軽傷じゃ済まない。

 俺が今、生きてんのは、あのバカ犬コンビのデタラメ魔法陣のお陰なんだ。

 そう考えると、バカ犬コンビをもうバカに出来ない気になってくる。


「フクザツ、だよなぁ……」


 思わず漏らした俺に、ナイトロードが失笑した。


「ルルドニア魔界へ入るのに、お二人の繋がりは上手く働くのかもしれない」


 流離人の言葉で、俺とナイトロードは現実に引き戻された。


「て?」首を傾げた俺に、ナイトロードが、


「ああ、そうか。一輝を送ったあと、帰還の際に、苦労して魔法で居場所を探さなくも済むな」


「それだけじゃあない。アルシオン異界の御仁の動向が、竜王陛下に逐一伝われば、戦況に合わせてこちらで手も打てる」


 ってコトは、俺がマオーとタイマン張って、ヤバくなったら、どっちかが助っ人に入って来るってのか?


「助っ人、というより、救助だな」口に出さなかったのに、やっぱナイトロードは俺の意見を言い当てた。


「申し訳ないが、多分、あの魔力量では、先程も言ったが、私も流離人も、魔王に一太刀浴びせる前に倒れてしまう」


「ああ……、そう、だったんだよな」


 俺は、ちょっとだけ拍子抜けした。


 まあぶっちゃけ、勝算が無いのに突っ込むっつったのは俺だし。そんな状況で相棒の加勢を期待するほうが、喧嘩上等ヤローとしては、かっこわりぃよな。

 俺の顔を見ていたナイトロードの黒い目が、ふっ、と優しげに細められた。


 ――ああこれ。ずっと見れなかったけど、俺が感じてた、ナイトロードの大人の包容力がにじみ出た表情だ。


「しょーがねえよ。ホネ拾って貰えるだけ、上等ってもんだ」


 俺は、強がりじゃなく、にゃっと笑ってやった。

 と、流離人が、赤い目を済まなさそうに伏せた。


「せめて、私の知り合いが見つかりさえすれば、もう少し事は簡単になるのだが……。生憎、私が知っている何処の世界にも、彼の痕跡が無いのだ」


「あんたの知り合いって、やっぱ魔導師かよ?」


 訊いた俺に、流離人は頷いた。


「私とは真反対に近い性質の血筋の出でね。彼の魔法があれば、ルルドニア魔界の浄化も速いのだが」


「もしかして、ハイ・エルフか?」


 ナイトロードが流離人を見る。

 ナイトロードは、光の性質を持つハイ・エルフならば、確かに魔界という、闇の部分がでっかくなっちまった場所をどーにかするのは適任だろうって、思ったみたいだ。


 ――へー。ハイ・エルフって、そんなに力があんのか?


 俺の知ってるハイ・エルフってば、あのハデハデレジーナしかいねーし。


「私の知人は、ただのハイ・エルフではないんだ。彼は、ある異界で神の代行として闇の住民と闘ったハイ・エルフの子孫なのだ。恐らく、光の代行者としては、申し訳ないが、ハイ・グローバの竜族よりも魔力が強いかもしれない」


「それは、凄いな」ナイトロードは、本気で興味津々って感じで言った。


「もし会えるなら、是非とも会ってみたいものだ」


「すぐにでも。居場所が判れば」


 流離人が返事した途端。

 館の外で、どーんっ!! っていう、なんかでっかいものが落ちて来たんだかぶつかって来たんだかみたいな音がした。

 さっきの雷のより、かなりでかい。

 おまけに、外が燃えてるみたいに赤くなった。


 ――おいおいー、大丈夫かよ?


「やるなら、そろそろのようだな」ナイトロートが、厳しい表情で言った。


 窓を見に行った流離人は、すぐに引き返して来ると、


「魔界が、荒れ出した。これ以上荒れる前に、アルシオン異界の御仁を――」


「なあっ、その『アルシオン異界の御仁』っつー言い方、止めてくんねぇ? 俺にゃ安積一輝っつー、リッパな名前があんだぜ?」


 俺の抗議に、流離人は苦笑した。


「失敬。しかし、私もそれなりに魔力が強いので。うっかり人の名は呼べないのだ。特に、アルシオン異界の人は」


 なんで、と俺が訊くより早く、ナイトロードの思考が俺のアタマに流れ込んで来た。


『魔力が強い者は、自分の意思とは関係なく、魔力の弱い者を支配してしまう。一輝達アルシオン異界の人々は、特に通常、濃い魔力に接していないため、魔力を持つ者の支配を受け易いのだ。名前はその人間の全てだ。魔法を使う者が使わない者の名を口にすれば、それだけで、相手を己の支配下に置くことになってしまう』


 猛烈な勢いで入って来た思考だったけど、割と簡単に理解出来た。

 流離人が俺の名前を言わないのは、俺をアヤツリ人形にしないためだったんか。

 時間が無いんで口を使わなかったナイトロードの説明は、多分1分も掛からずに終わり、俺と相棒は流離人の案内で、館の3階部分の広間に行った。


 そこには、流離人が描いたという、ズイブン綺麗な魔法陣が床に貼り付いてた。

 細かい木組みの床の一面に敷かれた白い布の上に、極彩色で描かれた魔法陣は、セイルんとこのバカ犬コンビが描いたヤツとはぜんっぜん違う。

 なんかこう、理路整然として見えた。


「どうしても駄目なら、私が単独で行こうと思い描いたものだ。なので、帰還の呪文も描いてある。竜王陛下にはお分かりになると思うが」


「ああ」と頷いて、ナイトロードは魔法陣の上に足を乗せた。


「大丈夫だ。これだけの魔法陣が使えるなら、私が一輝を連れて行くのも、帰還させるのも、かなり安全だ」


 そんなに、信用出来るシロモノなのか。

 頷くナイトロードに、俺は笑って返して、同じように魔法陣の上に乗った。


「では、行ってこよう」


「頼む」深々と頭を下げた流離人に、俺は「任しとけって」と、手を上げた。

間が空きましたが、再開しました~

一輝とナイトロード、いよいよ魔界へ乗り込みます。

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