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その1.神様仏様、黒竜さま(3)

 ……また、変な場所へ飛ばされちまったっ。


 どーすんだよ、こんなとこへ俺を寄越しやがってっ!!!


 つーか、俺マジで病院行かなきゃヤバいんだってばっ!! びょーいんっ!!!


 俺はギャアギャア騒ぎながら、ばたばたと手足を振り回した。

 と、さっきの子犬どもとはケタ違いの大騒ぎが、足下で沸き起こった。

 下を見る。


 わー……、ちっこい人間が、いっぱい。


 じゃ、ねえ。俺が竜になったんで、人間がちっこく見えちまうんだ。

 俺が暴れたんで恐怖を感じたんだろう。騒ぎまくる人間たちに後ろから怒鳴り声が飛んで来た。


「静まれっ!!」


 どでかい声に驚いた人間たちが、一斉に動くのを止めた。

 俺もびっくりして、後ろを振り返る。と、そこには、でっかい石壁がどどーんと建っていた。


 石壁の上には、さっき居た部屋の数倍は広いベランダがあり、そこに、ハゲオヤジ魔導師長と、バカ子犬2匹(あれでも魔導師、らしい)、他に、さっき部屋にご注進に来たにーちゃんら、おっさん達がわらわら立っていた。


 何してんの、そこで?


「アギャ?」と首を傾げた俺に、魔導師長は、超絶おっかねー表情を向けて来た。


 うっわーっ、青筋が10本くらい立っていそーだ。俺より、このハゲオヤジのほうがモンスター顔だって。

 けど、俺の言いたいことは伝わったらしい。ハゲオヤジは、モンスター顔のまま頷くと、またでっかい声で、言った。


「ここはアッシュ砦。我が国センドランドと隣国サンクセイの国境を護る砦である。我々は、これからサンクセイと一戦交えねばならない。——黒竜どの、正面を御覧あれ」


 とっても時代劇っぽい言い方のハゲオヤジの台詞を俺が理解できたのは、多分、っていうか、間違いなく俺の育ての親のじいちゃんのお陰だ。

 時代劇をテレビで観るのが大好きだったじいちゃんと一緒に、俺は、小2の頃から、夜メシ食べながら時代劇を観てた。

 御覧あれ、なんつー言い方、俺のダチ連中はぜってー「ナニソレ?」になる。


 一応、ハゲオヤジは俺に気ぃ使って、ていねいに言ってくれてる。俺も、ハゲ……、じゃねえ、魔導師長に、気ぃ使わねえとな。

 んだけど、俺は魔導師長にどう答えていいのか、やり方が分からねえ。まいったな、こりゃ……。


 俺は戸惑いながら、魔導師長に言われた通り正面を振り返った。


 俺が立っている砦は、牧草みたいな草が一面に生えた丘で、俺の目の前はだらだらと下がっていく地形だった。目で辿ると、大して下がらない辺りでまた上りになり、つまり、もうひとつ先に丘がある。その上に、人間がびっしり乗っかっていた。

 びっしりな人間たちの中に埋まるように、背中の砦とは断然差のある、ついさっきちゃちゃっと組み立てましたっていう、ハッキリ言ってお粗末な木の砦らしいのが3コ、置かれている。


 砦、っつーより、朝礼台だな、どー見ても。


 真ん中の朝礼台の上に、何だかもンのすごーくハデハデな格好の女が、立っていた。

 俺のいるところから、木製朝礼台の上まで、多分1キロくらいか? でも、俺の目には、はっきりと女の服の色や柄やメイクまで、見えた。


 ……竜って、人間より遥かに目も耳もいいみてーだ。


 女は、金色のレオタードみたいなものを着ていた。胸の辺りにはピンクのラメのヒラヒラが何重にもくっついている。腰の後ろからもやっぱり銀とピンクの、これはクジャクの尻尾みたいに長いビラビラがついている。

 それだけでもなんつー派手と思うのだが、女の髪の毛がそれ以上に凄い。七色に染めた、ストレート・ヘアだ。それが、肩の辺から横へばっ、と、扇子みたいに広がっている。


 トドメに、メイクは、右目の周りは赤い星柄、左のほっぺたにはピンクのハートが2コ。


 ヘビメタかって!!


 真っ青な空の下で、女の真っ赤なルージュの口が、くわっ、と開いた。


「よーやく出てきたねっ!! センドランドの臆病魔導師どもっ!!! しかもっ、随分とおっきな獲物を引っ張って来たじゃないのっ!!」


 怒鳴ってきた声は、やや低めのハスキーボイス。


 キンキンじゃねえけど、それでも、でかきゃ耳が痛いってんだよっ!!!!


 そもそも人間が、こんな大声出せるわきゃねえ。ぜってー、魔法ってやつだ。拡声器魔法?

 さっきのこっちの魔導師長の声も、きっとこの拡声器魔法を使ってたんだ。


 魔法って、便利だなーー。

 なんて、のんきなこと考えてる場合じゃねえっ。女がまた、怒鳴った。


「ま、デカ物が来たって、あたしのやることはおんなじだけどねっ!!」


 女が、10センチはありそーな、真っ赤なネイルのくっついた右手の人さし指を、こっちへ振り向けた。


「行けーーっ!! 炎の精霊っ!!!」


 途端。


 大きさが1メートルはぜってーにある、と思われる火の玉が、俺に向かってすっ飛んで来た。しかも3コもっ!!!


 ぎゃーーー!!!!


 どーすんだよっ!! 


 俺はアギャアギャ吼えながら、1コ目の火の玉を何とか避けた。大的の俺が躱したんで、火の玉は後ろの砦にもろ激突ーーと思ったら、魔導師長が消していた。


 俺をこんなとこへ呼び出しやがった子犬2匹が、甲高い悲鳴を上げたのも聞き取れた。

 んがっ。そんなコトに気を取られてたのがいけなかった。2コ目と3コ目は避け切れず、もろに背中に受けちまった。


 あちーーーっ!!!! なにすんだよこの蛇女っ!!!


 ……違った、ヘビメタ女っ!!


 背中が熱いぃっ!!!


 俺は、火が付いたんじゃないかと思われる背中と羽根を、地面に転がって必死に消火活動する。

 俺の足下にいた連中が、巨体の俺が転がったんで、わーわー叫びながら四方に散った。


 少しすると、熱かったのがとれた。


 うーん、竜の身体って、メッチャ丈夫だぜ。


 硬い鱗に覆われた背中には、ほとんど火傷なんかない、と、俺が首を回して確認した時。


「あっれー?」女が、素っ頓狂な声を上げた。


「その竜、変じゃナイの? なんで火精(サラマンダー)水精(ウンディーネ)で打ち消さないワケ?」


 は? 火精水精って、なんだ?

 それも、魔法か?


 俺は、意味が分からなくて、後ろの魔導師長を振り返った。

 魔導師長も、妙な顔をしている。


「……もしかして、その竜、魔法が使えないんじゃねーの?」


 女の言葉に、どきり、として前を向く。女は、ニイィ、と赤い口を三日月形に釣り上げて笑っていた。


 どー見ても、悪魔の笑い。


「ラッキーっ!! 1番厄介なヤツが、魔法使えないなんてっ!!!」


 女は再び、手を上げた。


「そんじゃ完全にこっちの勝ちってワケだーーっ!! いっけーっ!! 火精っ!!!」

 

 またも、女が火の玉を焚き付け(?)る。今度は5コいっぺんっ!!!

 

 アホかーっ!! 3コが横に並んで来るじゃねーかっ!!


 おまけに、女が乗ってた朝礼台の周りにいた連中も、わーわー言って突撃して来る。


 わー、手に槍なんか持ってる。


 俺がじーちゃんと見てた時代劇に出て来た槍より、ちょっぴり短いけど。

 

 じゃねーっ!!!

 

 ヤンキーの俺としては、甚だ不本意だが、相手が火の玉じゃあぶん殴れねー。

 熱いし。


 仕方ねーんで、最初の3コは、地面に思いっ切りベタッ、と伏せて、どーにかやり過ごした。

 けど、後ろの2コは、途中で急降下しやがった。


 頭と背中に火の玉が乗っかった俺は「アギャァアアッ!!!」と、情けない悲鳴を上げて、また地面に転がる。


 ぎゃはははっ!! と、朝礼台のほうから、女の笑い声が響いた。


「ヘンな竜ーーっ!! 図体でっかいだけに、めちゃくちゃ邪魔になってるねーっ!! っね? ヘンリーじいさん?」


 え?

 あの女、魔導師長の名前知ってるってか?


 なんで? と疑問符が浮かんだ俺の頭の上に、

「おのれっ、レジーナ・シェイクロッドっ!!」という、魔導師長の唸り声が落っこちて来た。


 魔導師長、あのヘビ女と知り合いだったんか?


 ぎりっ、と奥歯を噛み合わせて、悔しそうな顔をした魔導師長は、俺に向かって言った。


「なぜ、魔法を使われないっ?! 竜ならば、生まれもって精霊魔法を習得している筈っ!! それなのに、黒竜、あなたはなぜっ?!!」


「ばっかじゃないのぉっ?!」女が、ケタケタと笑った。


「その竜、絶対出来損ないだよ。たまに居るんだよ、竜のくせに全く魔法が使えないヤツ。ーーハズレ、引いたね、ヘンリーじいさんっ!!!」


 そーれっ!!!  と女はかけ声を出して、またまた右手を振った。今度は、でっかい雪だタルマが6コ、こっちへ飛んでくる。


 っていうか、地面を転がって来る。


 雪ダルマは、突撃を掛けていたセンドランドの兵隊を押し潰す。が、味方のサンクセイの兵隊たちも巻き添えで潰されていってた。


 マジ、この女、悪魔だっ!!!


 雪ダルマは、真っすぐに俺のほうへ向かってくる。それも、6コ全部いっぺんに。1コか2コなら、この竜の巨体で押さえられるかもだが、6コいっぺんはさすがにキツいっ!!


 ……いや待て。雪ダルマは殴れば壊れる、筈だ。


 閃いた答えが当たっているものと判断して、俺は、雪ダルマをぶん殴りに突進しようとした。


 と、突然。

 男の低い声が、俺に話し掛けてきた。


『無駄なことは、するな』


 魔導師長とは、声が違う。


 誰だ? てめーっ?!!! 

2話目からずいぶんと開いてしまい、すみません。


やっと3話目です。


いろいろあって、ほんとにもの凄い遅筆です。申し訳ありません(泣)

でも、ノロノロでずが、頑張って書いてますので、長い目で見てやって頂ければ、嬉しいです。

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