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その7.異界と魔界と別界と(4)

『これから、その、ルルドニア魔界ってトコに乗り込む気か?』


 俺の質問に、ナイトロードは困惑した様子を伝えて来た。


「いや……。こちらから行く、というのは、どうなのだろうか?」


「あちらは、魔力の海だ」流離人が、さっきまでの、人を食ったような感じではなく、厳しい表情で答えた。


「私達がルルドニア魔界へ一歩でも入れば、己が取り込む魔力量の多さで、恐らく自己崩壊してしまうだろう」


 ――ジコ、ほーかい?


 めんどくせー四文字熟語らしいコトバに、俺は首を捻った。


『なんだ? そりゃ?』


「魔導師は、常に自分の《意識》で魔力を操っている。体外の魔力を取り込み物理現象に変換するのにも、《意識》が術を介して、意図を明確化して魔力を変質させる。だが、体外の魔力が、その魔導師の取り込める限界以上が強制的に流入してくれば、《意識》は多量の魔力をコントロール出来ず、飲み込まれてしまうだろう」


 ――う~~ん? わからん??


 口をへの字に曲げた(つもりだっつの)俺に、ナイトロードが苦笑する。


「コップの中に水を入れる。すりきり一杯なら、水は零れない。がそれ以上注げば、水はコップから溢れ出る。魔導師はコップと同じだ。そして、コップには、大きいものも小さなものもある。その大きさに見合った水量でなければ、たちまち溢れ出てしまう」


『なるほど。けどよ、それとジコホーカイと、どーいう関係があんだよ?』


「今のたとえは、自分の周囲に多すぎる魔力があった場合の話だ。ただ魔力が多すぎるだけなら、魔導師は、自分が受け取れるだけの魔力を取り入れればそれで済む。

 しかし、それだけでは済まないのが魔力の厄介なところだ。魔力は、入り込んだ入れ物、つまり魔導師を、勝手に膨張させしてしまうのだ。だから、魔導師は多く入り過ぎた分を、必ず自力で外へ排除しなければならない。ここが《コントロール》する、という意味だ」


『ってコトは、入れ過ぎた水をコップから出すには、自分の手でコップを傾けなきゃなんねーってコトで、いいのか?』


 ナイトロードは、大きく頷いた。


「その通り。しかし、ルルドニア魔界では、自分でコップを傾ける前に、膨大な魔力が更にコップを押し広げてしまうのだ」


 へー。

 勝手に広がっちまうコップ、ってのが、いまいちピンとこねーけどよ。

 けど、ナイトロードと流離人が心配しているコトってのは、なんとなくわかった。

 ルルドニア魔界ってトコに入ったら、自分が処理しきれないホドの魔力に襲われて、気が狂っちまうってワケか。


 あ、それで、ジコホーカイ。


『でもよ、それじゃどーやって、マオーってヤツを倒すんだよ?』


 俺のごもっともな質問に、流離人は、


「なので、倒せない、のだ。封じるしか手が無い」と、真面目に言った。


「ルルドニア魔界に、封じる?」


 ちょっと何かに引っ掛かったらしいナイトロードが、訊き返した。


「それは……、逆に危険ではないのか? あれだけの魔力の中に《封じて》しまうと、却って暴走するのでは――」


「その可能性は高い。だが、膨張するだけして、完全に崩壊してしまう可能性もある」


「なるほど……。うまくすれば、ルルドニア魔界だけで被害は済む、か」


 ナイトロードは、流離人が見ていた窓の外を、自分も見た。

 空は、ますます真っ黒になっている。

 なんつーか、ホシの1コも出てねぇ。


「これでも、真昼なんだか……」流離人が、飛んでもね―コトを、さらっと言った。


 ――へ?


 これで真昼?


 どー見たって、この景色は真夜中だろーがっ!?


「魔王が活性化してから、ルルドニア異界は昼が無くなってしまったのだ。切り離せない双子のように隣接した魔界から吹き上がる強力な魔力と瘴気で――植物と言わず動物と言わず、殆どが死んだ。人間も例外ではない」


『マジかよっ!? じゃあ、マオーのせいで、ここの住人はみぃんな死に絶えたってのか!?』

 

 ――ゆっっっるせねえぇぇぇっ!!!!


『それがほんとなら、俺はっ、ぜってぇ、マオーをぶん殴るっ!!!!』


 喚いた俺に、ナイトロードが、


「全くだ」と頷いた。


「殴りに行けるなら、私も殴りたい気分だ」


 おっ、気が合うじゃねーか、相棒。

 ってか、ナイトロードって、割と直情型なのな。ホントは。

 俺らの会話を聞いてて、吹き出してた流離人が、はっとした顔でナイトロードを見た。


「……そうか。魔力の無い人間なら、ルルドニア魔界へ入っても問題ないのかもしれん」


 けど、ナイトロードが否定した。


「いや。多量の魔力は、魔導師の資質が無い人間にも、ある程度被害を及ぼす危険がある」


「だが、魔導師ほどには影響は受けないのでは?」


 流離人が、ナニを考えてるんだか、食い下がった。


「もし……、あなたと、アルシオン異界の御仁を、分離することが出来たなら――?」


「一輝を、ルルドニア魔界へ行かせる、というのか?」


 言い終わった途端。

 ナイトロードの怒りレベルが、どーん、と上に跳ね上がるのを感じた。

 そいつは流離人にも分かったらしい。赤い目に、ちっと焦ってるって雰囲気が出た。


「いや……。ひとつの可能性の話、だ。魔法で魔王を倒せないなら、物理的攻撃で倒せないかと――」


「無理だ」と、ナイトロードは切って捨てた。こっええっ!! マジ切れてるぜっ、相棒っ。


「膨大な魔力量が、魔王に近付く前に、一輝を阻む。魔導師でない者が、どうやって攻撃魔法の雨を防ぐ?」


 ふうむ、と唸って、流離人は自分の顎を撫でた。


「……魔法は、ある意味では幻でしかない。私は、魔力の無い人間が、魔法具を使いこなすのを見たことがある。その方法は、気力だ」


 ナイトロードが『何を言いたいのだ、この男は』って、腹の中で唸った。


 俺もそう思う。けど、流離人が言わんとしているコトが、俺にはちっとだけど、分かって来た。

 つまり、こうだ。

 俺が気合いで、マオーの攻撃を全部跳ね返しつつ、マオーを殴りに行きゃいいってコトだ。

 そんなんで、隣の異界の人間を全滅させたヤローが負けるのかどーかは、わかんねぇけど。


 でも、俺の拳一発で、バカヤローをノックアウト出来るんなら、キモチいいかもな。


 ……うん、やってみる価値、あるかもしんねー。


『相棒』と、俺はナイトロードに呼び掛けた。


『確かによ、ムボーかもだけど、なんもしねぇよりやってみるってのは、どーだよ?』


 ナイトロードは、迷いながら腕組みした。


「……しかし、一輝。もし、ルルドニア魔界で君が倒れても、私も流離人も、助けに行くことが出来ないのだ。私が危惧しているのは、君のことだけではない。セイル女王の心情も心配なのだ」


 ――あ。


 そーだった。俺はセイルのダンナになったんだった。

 う~~っ。悪いっ、セイル。

 喧嘩ってぇとつい夢中になっちまって、俺。大事なヒトのことを忘れてた。

 ダンナ失格だ……


 けどよ。俺のそーいうトコだって、セイルは「好き」って言ってくれたんだよな? 多分。


『ホネを拾ってもらえねーのは、心残りだけどよ』


 俺は、ナイトロードにきっぱりと言った。


『俺、どーしてもそのマオーってヤツを、許せねえわ。一発殴りに行かせてくれ』


「しかし……」


 うんと言わないナイトロードの心根が嬉しいぜっ。


 でも、誰かがマオーを倒さねえと、みぃんなメーワク受けちまうんだろ?

 セイルの世界も、俺の故郷も。

 だったら、ここは一番、やれるんなら俺がやる。


『申し訳ねーけど、もし万が一俺が負けちまったら、俺の闘いっぷりを、ニョーボのセイルに話してやってくれ』


 くーっっ!!!! 決めたぜっ、俺。

 だけど。相棒はあくまでクールだった。


「格好良く決めたつもりだろうが、負ければ犬死にだ。――それでも行くか?」


 キツイぜ竜王陛下。

 確かにそーとも言うけどよっ。


『行く』と言った俺に、ナイトロードは、少し間を置いて一言。


「分かった」


 俺らの会話を、傍で興味深そうに聞いていた流離人は、ナイトロードと俺のハラが決まったのを見て、言った。


「では、お二人を分離しよう。――絡んだ魔力の流れを読ませてもらう」


 流離人が、ナイトロードに右手の掌を向けた。

 白っぽい光が、掌から出てくる。

 光は、どーいうワケか、身体が(今はナイトロードに貸してるんで)無い筈の俺の身体にも、触ってくる感じがする。

 しばらく、流離人は掌を俺らに向けていた。


「――なるほど」何か分かったらしい顔で、流離人が頷く。


 と、次に。

 白かった掌からの光が、急に紫色に変わった。って、見てる間に、赤になり、青になり、緑になり、黄色になり……10回ぐらい、ぐるぐる色が変わった辺りで、俺とナイトロードに変化が起きた。

 一瞬、身体が、びろーん、って引っ張られるような気がした、と思ったら――


「? あっ……、れ……?」


 俺は、自分の身体に戻っていた。

 で、ナイトロードの気配が、俺の中から消えていた。


「相棒?」って呼び掛けた俺の肩を、でかい手が叩いた。


「私は、ここだ」


 振り返った俺の右隣に、すんげー男前のナイトロードが居た。

うよよっ


一輝とナイトロード、分離っ!!!!

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