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その6.ハイ・グローバの昼と夜(2)

 けど、その日は結局、俺とセイルがほんとうのフウフになることは出来なかった。

 俺がセイルを抱き締めた直後、俺の身体は急激に力を失い始めた。いや、俺の力が無くなったんじゃない、セイルの身体が、クッションみたいに柔らかくなったんだ。


『そろそろ、召還が解けるようだな』


 ナイトロードの呟きを聞きながら、俺は、腕の中のセイルがどんどん希薄になってくのを感じた。


 くっそーっ!! こんなんでお別れかよっ!!!!


 周りの部屋も、だんだんぼやけて来た。魔導師長が、何か言った。けど、もう聞こえない。


「セイルっ!!!」


 最後に叫んだ俺の声に、セイルが心話で返してきた。


『絶対、戻って来てくれ――』


 ******


 ……気が付くと、俺は緑色の絨毯の上にあぐらで座っていた。


 やけに薄暗ぇなーと思ったら、周囲には大木がニョキニョキ生えてる。俺は、座っている絨毯に手をついて、思いっ切り仰向いた。

 掌にざらっとした感触がした。絨毯だとばっかり思っていた緑色の敷物は、苔だった。大木の下は、一面苔広場。


「……へ?」


 てっきり俺の居た日本の景色に変わるんだろうと思っていたのに、ぜんっぜん、まっっったく見たこともねー場所に出ちまって、拍子抜けする。


 いやいや。


 俺が見たことねぇだけで、ここはニッポン、ってコトもある。

 これぞ巨木ってのが生え揃ってる場所っていうと、屋久島とか。

 日本のセカイイサン。それくらい、俺だって知ってる。

 んがっ。


『どうやら、ハイ・グローバに来たようだな』


 ――なんだってーっ!!!?


「いまなんつったっ、ナイトロードっ!?」


 俺は、声に出さなくてもいいのをきっちり忘れて、思わず怒鳴った。

 ナイトロードは本当に申し訳ない、という気持ちを、俺に伝えて来た。


『すまんな、一輝。私と一輝の気力の在りようだと、間違いなく一輝の故郷に還ると思っていたのだが』


 ……がっびーんっ!!!!

 てっきり直帰だと思っていたのに。まさかまさかの、相棒の故郷への直帰だったとわっ!!


 ――おふくろ、兄貴……、すまないっ。


 がっくり項垂れた俺の頭上に、やけに涼やかな声が降り注いだ。


「もしかして……、黒のお方ですか?」


 クロノオカタ?

 妙な呼ばれ方に、俺は顔を上げた。と、そこには、白いロングドレスを着た、緑色の長髪の超絶美少女が立っていたっ!!

 年齢は、ぜってー俺より下だ。十四、五ってとこ? ストレートのロングヘアはセイルと似てっけど、この娘の方が毛が細そうだ。ちょっとの風にもフワフワしてる。

 変わってんのは、髪の毛の色ばっかじゃねえ。よく見ると、眼の色も変わってる。ピンク色の目って、アリ?


「あ、あのー……、どちらさまっすか?」ピンクの大きな目で、じいっと俺を見詰めている美少女に、俺はおずおずと尋ねる。


 そりゃ、きれーでかわいいけど、何となく威圧感があるんだよなー。

 セイルも威圧感あっけど、セイルのは《女王》としての貫録っつーか、もっと鷹揚っつか。

 この娘のは、そーじゃなくって、人をバリ警戒してる、ハリネズミみたいな威圧感だ。

 それがどうしてなのか、すぐに分かった。


「……あなたこそ、誰です? 気配こそ黒のお方なのに、姿が全く違う。何の用で、この里へ来たのですか?」


 あ。もしかして、クロノ……、違う、黒のお方って、ナイトロードのことか。

 俺は、意識を自分の内側へと向けた。

 ナイトロードは、ちょっと困ったような、笑ってるよーな気配を寄越した。

 あ、この娘知ってるんだなっ。


『知り合いなら早く代われよっ!!』


『すまん。しかし、ここはあんまり会いたくない者も居るんでな、一輝と俺が違うということにして、ここから立ち去れればと』


「じゃ、どーすんだよっ!?」


 口で文句を言っちまった俺に、娘ははっとした顔をした。


「やはり、あなたは黒のお方なのですね。――どうしてそんなお姿に?」


 そんなお姿って……。これでも、センドランドの女王陛下は「好きだ」って言ってくれたんだぜ?

 ブサイクになっちゃって、かわいそーって目で見んなよっ。


 ヘンに傷ついた俺に、『そういう意味ではないと思うぞ』と、とぼけた慰めをくれてから、ナイトロードが表へ出た。


「驚かせて済まなかったな、エイミー」


「いいえ。ですが、一体何が?」


 エイミーっていう美少女は、立ち上がった俺、ってかナイトロードを、ますますかわいそうって顔で見上げてきた。

 だーからっ。これでもセイルにはいい男なんだってばっ。

 ナイトロードは、エイミーに(多分俺にも)苦笑しながら、「話せば長くなる」と、説明をやんわり断った。


「ここへ来たのも運命だろう。――長老どのはおられるか?」


 ここでちゃんと話して欲しいって顔で、エイミーは一瞬口を真一文字に結んだ。

 でも、てこでも話さないって思ってるナイトロードに諦めたらしい。


「……いらっしゃいます。どうぞ」むっつりした表情で、くるりと俺らに背を向けた。


 ナイトロードは、大きく頷くと、ゆっくり歩き出したエイミーの後に続いた。


 ******


 ここは、住民が全員大木の上に住んでいた。大木ってったって、生半可な大きさじゃねえ。3LDKの一戸建てが横に二つは絶対並ぶだろうって直系の大木だ。

 その枝に、ほんとに3LDKの家が建っている。


 ――ぶっっっったまげーっ!!!!


 別な木の枝同士に、ツタだかなんだかの植物で吊り橋が渡されていて、その橋を渡って更に別な木に続く橋を渡って上へ昇って……。

 相当なキョリ行ったどん詰まりの巨木に、長老の家があった。

 高さも、ハンパなく高え。コウショキョーフショーだったら、ぜってー身動き出来ねえってカンジだ。


 俺は、ここまでの道々に、ナイトロードがこの里について話してくれた内容を思い出した。


《忘れられた里》って、中の連中は呼んでて、《捨て子の里》って、外の連中は言ってる。


 ここに住んでるのは、全員が二形を持ってる。

 二形持ちは、ハイ・クローバでは、俺達の世界で言うところのシンタイショーガイシャなんだと。

 でも、ハイ・グローバの住人は俺ら地球人みたいに、シンタイショーガイシャに優しくねーんだと。

 なんでなんだよ? って俺が訊いたら、ナイトロードも「分からん」って返してきた。


 とにかく、どんな種族の連中だろーと、二形が生まれたらこの里に置いて行く、らしい。

 エイミーが、ドアをノックして中へ声を掛けた。


「長老さま、黒のお方がおみえです」


「お入り」って声は、俺が小学一年の時に死んだばーちゃんに似てた。


 家の中は明るかった。そんで、すっげー広かった。

 木の胴体がそっくりフロアになってるってのに、俺は結構入ってから気が付いた。

 ドアからまっすぐ突き当たった場所に、でっかい床の間みたいな空間があった。そこに、椅子が置かれてあって、誰かが座っている。

 この人が、長老らしい。

 エイミーが、部屋の真ん中辺で立ち止まると、床の間の長老に向かって膝をついて頭を下げた。

 でも、ナイトロードは頭を下げない。

 なんでた? と思った俺に、竜王は、


『私は、ハイ・グローバの元支配者だからな』って笑った。


 長老は、「ご苦労さまじゃった」と、美少女をねぎらった。


 エイミーが立ち去ると、長老は椅子から立ち上がった。

 ゆっくりと、ほんとにおばあさんの動きで、俺らの側へ来た。

 長老は、ちっさかった。ナイトロードの背丈の半分もない。真っ白な長い髪に、エイミーが着てたのより更に長い、ズルズルした薄いワンピースを着ている。色は深緑。

 でもその色が、なんとも、どーも、すっげえ優しい。


「さても。竜王陛下にはお珍しいお越しじゃ」長老は、でっかい木を見上げるように、俺の顔を見上げた。


 あれ? エイミーみたいに俺の外見に全く驚いてない? なんでだ?


「長老。私は今は王ではない。――ご存じと思うが?」


 あ。

 ナイトロードと俺がごちゃまぜになっちまったコト、長老は知ってるんだ?

 それが証拠みたいに、苦笑するナイトロードに、長老も、困ったように顔のしわを歪ませた。


「ふむ。レジーナから聞きましたわ。あれは竜王陛下のご尊顔を拝謁したことは無かったので、すぐに陛下と気付かなんだと申しておりましたがな……。飛んだ事態に遭われたもので」


 長老がほほ笑んだのに合わせるみたいに、部屋の中が柔らかい明りに包まれた。

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