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その5.知略謀略火事の元(3)

 当然だけど、食堂は上を下への大騒ぎになった。

 倒れた侯爵は、すぐに食堂から担ぎ出される。毒味役の魔導師が呼ばれ、侍従長にいろいろ聞かれる。

 セイルはもちろん、俺らムコライバルも危ないってんで夕食を中断、お預けを食らった。


 あっちだこっちだ家来達が駆けずり回り、果てはヘンリー魔導師長がお出ましと来た。


「じい。ウォール候の容態はどうだ?」セイルの問いに、魔導師長は「大事ありません」と返した。


「隣室にて、解毒の術を施しました。あと1時間もすれば、お目覚めになるでしょう」



「そうか……。で、誰の仕業かは、まだ?」


「はい。そちらはこれから調べますゆえ。陛下と、竜王陛下ならびに諸候には、一旦お部屋へお戻りになられますよう」


 魔導師長の言葉に従って、俺らとセイルは食堂から出た。

 部屋へ戻ってすぐに、セイルが一人でやって来た。


「うおっ、侍従なしで出歩いていいんかよっ?!」っていう俺のツッコミに、セイルは普段の表情で、「巻いて来た」としれっと言った。


「……ったく。あとで魔導師長に叱られても知らねえぞ」

「覚悟している。——それより、一輝。申し訳ないのだが、《竜王陛下》と話がしたい」


 一瞬、俺の頭の中が「?」に占領された。

 えーと……。《竜王陛下》って、俺のことだよな? でも、セイルは今

「申し訳ないのだが」って、前置きしたよな? ってコトは、竜王陛下は、俺じゃなくって……


『済まないな。暫し入れ替わるぞ』と、考え込んでいた俺を押し退けて、ナイトロードの意識が《俺》を支配した。


「で? 私となんの話がしたいと?」


 ナイトロードは正真正銘の王様だ。俺みたいに、だだっ広い寝室やら応接間やらにビビったりしない。

 俺の身体でソファにゆったりかっこ良く座るナイトロードに、セイルの頬がほんのり赤くなる。


 ――ちっ。悔しいけどしょーがねえよな。オトコやってる年数が違い過ぎるし。


 貫禄負けして俺がイジケてる間に、セイルが話し出した。


「夕食の一件のことなんだが……。竜王陛下は、なにかお気付きになられなかったか?」


 セイルの、俺の意識が表にいる時とは全然違った態度に、ナイトロードは苦笑した。


「ナイトロード、でいい。私の魔力が、毒を盛った者の気配を察知しなかったか、という質問だろうが、生憎、全く引っ掛からなかったな」


「そうか……」セイルは、ほっ、と息を吐いて、肩を落とした。


 ソファの脇に置かれたスタンドの、魔法で灯された光がセイルの白い横顔を神秘的に照らしている。

 ドキッとするくらいいい女なセイルに、ナイトロードは大人の余裕で笑いかける。


「慌てることはないと思う。賊は、魔法を使わないことで誰かを推測出来ないようにしたのかもしれないが、逆に、毒、という物証がある限り、早晩に突き止められるだろう」


 ほー。そうなんだ。魔法の《毒》とブツの《毒》って、違うんだ。

 俺がふんふん、と感心していると、ナイトロードが先を続けた。


「魔法で作り出した毒は、発動した時点で誰がその術を掛けたか、分かってしまう。が、物理的な毒は、飲み物や食べ物、あるいは本人に直接投与するところを見られない限り、表面上は誰の仕業かは分からない。だが、時に関する魔法を使える者が探索すれば、誰がその毒を持ち込んだのか、探ることが出来る」


「初めて聞いた」と、セイルは目を丸くした。


 あり? 魔法がドンドン使える世界にいて、知らない魔法ってのがあるんだ。

 俺の疑問に答えるように、セイルが続ける。


「センドランドの魔導師は、治癒や心話のような日常的な魔法の他は、大きな術としてはほぼ召還魔法しか使用出来ないのだ。りゅ……、ナイトロードは、その、時の魔法は使えないのか?」


 やや前のめりになって問う女王陛下に、ナイトロードは、横に首を振った。


「残念ながら。我等竜族でも、時空時間魔法に精通している者はごく僅かだ。だが、ハイ・エルフならば殆どの者が使用出来る筈だ」


 その種族で知ってるヤツはたった一人。

 思い出した容姿に、おぞけが走る。

 ハイ・エルフっつったら、あの……


「ド派手な跳ねっ返り女か……」


 俺が言おうとしていた言葉が、セイルのきれいな唇から漏れた。

 おんなじコトを考えてるっ、って思った途端、俺はまた頭に血が上る感じがした。

 ……いや、実際には、感じ、なだけで、ナイトロードが俺の身体を使ってるから、俺の感情は反映されず、顔は真っ赤にはなってないんだがよ。

 俺とセイルの両方のツブヤキを聞いたナイトロードが、小さく吹き出した。

「多分、今頃魔導師長は、レジーナ・シェイクロッドからの報告を受けているのではないか?」


 噂をすれば、ナントカ。

 ナイトロードが指摘した通り、レジーナに時の魔法での調査を依頼していた魔導師長からの結果報告を、若い魔導師見習いが伝えに来た。


 ******


 捕まったのは、ウォール侯爵に恨みを持ってたヤローだった。

 なんでも、そいつの妹がウォール侯爵の屋敷にメイドとして奉公してて、ウォール侯爵が気に入って愛人にしたんだと。

 んが、セイルのムコ候補になった途端、居たら都合が悪いからと、妹を屋敷から追い出した。

 そんで、追い出されたそいつの妹は、泣く泣く実家へ帰って来たんだが、ウォール候に追い出されたんがよっぽどショックだったようで、ウツになって家に引き蘢っちまったんだと。

 そんな妹を見るに見兼ねて、兄貴が敵討ちとばかりに、王宮の厨房に潜り込んで、ウォール侯爵に毒を盛る機会を狙っていたんだと。


『ちっと、出来過ぎじゃね? その話?』


 俺の突っ込みに、俺の身体を支配したまんまのナイトロードが頷く。


「然り。いとも簡単に王城の厨房に潜り込めた辺り、いかにもうさんくさい」


「別な誰かが、また動いていたと?」俺とナイトロードの話を察したセイルが、ナイトロードに尋ねる。


「恐らくそうだろう。魔導師長はきっと、もうその《誰か》は掴んでいると思うが」


 ふん、と、セイルは腕組みして、背凭れに背を預けた。


「女王陛下には、お心当たりがおありのようだな?」


「無い、とは言えんな。……だが、もしその人物なら、簡単に尻尾は出さないだろう。じいといい勝負のバケモノだからな」


『うーん、色んなヤツがいんだな、ここのお城って』


 俺のソッチョクな感想に、


『どこもそうだが、権力の集まるところ、魑魅魍魎の棲みかだ』


 城がキショクわりいとこってのは分かったけどよ、なんだよナイトロード、そのチミモウリョウって?

 ナイトロードは心の中で失笑しながら、


『あっちへ戻れたら、辞書とやらで調べることだな』って、返して来やがった。


 日本に帰れる目算があんのかよ? ほんとに?

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