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その4.デイト、だよな?(4)

 邪魔者はいなくなった。

 セイルはチビガキが城の上から見えなくなると、俺の腕を素早く取って、右方向へと歩き出した。

 ちなみに、ニンマリ笑いのケダモノ魔女レジーナが歩いて行った方は、城の大門に向かって右側で、若干登り坂になっている。セイルが行こうとしている道は左で、緩く下りになっていた。

 左の方が、見た感じ店屋が多い。


「次は、わが国の国民が日常食べているものなどだな」


 セイルが、俺だけが分かる? 嬉々とした様子で歩き出そうとした時。


「あいや陛下、そちらはなりません」


 護衛の騎士が俺らを止めた。


「なぜだ?」セイルが、仏頂面で振り返る。


「そちらは目抜き通りです。人も多く、何事が起こるとも限りません」


 やや遠慮がちに訴える騎士に、セイルはふん、と鼻を鳴らした。


「そのための護衛であろうが。——心配には及ばぬ。竜王陛下がご一緒なのだ、暴漢が来ようとも、大事ない」


 で、あろう? とセイルに顔を覗き込まれ、俺は「おっ、おうっ!!」とどもり気味に頷いた。

 セイル、ずいぶん俺に頼ってくれるなあ、嬉しいぜっ!!

 まあ実際、ただの暴漢なら俺だけでもなんとかなるかも。男安曇一輝、ダテにヤンキーやってたワケじゃあねーぜっ!


『中々、頼り甲斐があるな』笑い含みに、ナイトロードが言った。


『ならば、ただの暴漢は一輝に任せよう。魔法を使用しそうな輩なら、私が入れ替わろう』


『おうっ、頼むぜ相棒っ』


 俺はナイトロードにそう返した。


『……相棒、か』俺の頭の中で呟いたナイトロードの気配からは、何となく楽しげな気分が伝わってきた。


 ******


 セイルは、端から見てもうきうきしているのが分かる様子で、俺を連れて目抜き通りを歩く。

 店が多い分人も多いんだが、なぜかみいんな、セイルの事を気にしない。

 自分とこの女王陛下がお忍びで散策してるってのに、ここの国民って、結構のん気なんだなー。


『そうではなく、君主の顔を知らぬ者が多いのだろう』と、ナイトロード。

 

 俺の思考から、テレビのニュース映像や、新聞の写真、雑誌なんかに、イギリスの女王サマとかかいっぱい映っているのを確認したらしい。


『一輝の世界には、優れていて面白いものが大層あるな』


『まあよ。その代わり、魔法なんてベンリなもんは、ねーけど』


「そうなのか」俺とナイトロードの脳内やり取りを偶然読んだらしいセイルが、相づちを返してきた。


 読まれるのは分かってるんだけど、不意打ちで返事されるとちょっくらびっくりする。

 そういう顔を、俺がしていたんだろう、セイルは「あ、すまない」と、ほんのり頬を染めた。


「こっ……、この店の料理が旨いと、兵士達の間では評判らしい。入ってみよう」


 俺を驚かせたのが気まずかったらしい。セイルはさっさと内開きの木戸を押して、中へと入っていった。


 玄関木戸は、使い古された感じで、把っ手も、人の手が当たる部分は変色していたが、店の中は広くて、こざっぱりした感じだった。

 店主は、女王陛下がお出でになったというのにいち早く気付いて、中二階の、1テーブルだけ窓辺に面して置かれた席に俺らを座らせた。


「今、仕切り布を用意させます」という店主に、「それには及ばない」と、セイルは断った。


「内密で出て来ているのだ。隠せば一般の客が興味をそそられるだろう。それは本意ではない」


 なるほどな。確かにそーだ。

 天幕張ってりゃ、他の客は、ぜってー偉いさんが来てるって勘ぐるもんよ。


 セイルの言に「かしこまりました」と、店主は頭を下げた。


 料理は店主のオススメにすると決めた。


「そう言えば、竜王陛下は好き嫌いはお有りだったか?」


 セイルが、俺に顔をくっつけんばかりにして、聞いてくる。俺は、またまた頬やデコが熱くなるのを感じながら、「いっ、いやっ!!」と首を振った。


「大体、人間が食えるもんなら、何でも食えるっ」


『私は、なるべくなら肉がいいが』


「ああ、そうか。竜体のお方は、完全に肉食なのだったな」頷いたセイルに、ナイトロードの意識が、ぼそっ、と呟いた。


『考えてみると、不可思議だな』


『何が?』


 俺とナイトロードが喋っているのに気が付いたセイルが、また俺を覗き込む。


『魔導師長や他の魔導師達には、私と一輝の会話は聞こえていない。最も、魔導師長は、聞こえない振りをしていたのかもしれないが。レジーナというあのハイ・エルフは、完全に我等の会話を聞き取っていた。彼の者は魔力が強いので、聞き取れるのはある程度想像出来る。しかし、女王陛下は……』


『魔法って、そういうもんなん?』


 俺には、魔法の方程式はさっぱ分からねえ。けど、訳が分かっているらしいセイルは、はっとした顔をした。


「それは、私にそれなりの魔力がある、ということか?」


『結果から言えば、ない、とは言えないな。ただ、心話だけ突出しているのが、どうも気にかかる』


『どーゆーイミだよ?』


 俺は首を捻る。ナイトロードは真面目な口調で、


『仮説だが、女王陛下は、何者かの魔法によって、魔力の放出を制限されているのではないか?』と答えた。


「……もしかすると、私だけではなく、祖父リンゼルからずっと、その魔法で魔力を——」


 セイルが言い掛けた時。

 本日4人目のおじゃまムシが現れやがった。

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