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その4.デイト、だよな?(3)

 レジーナが行っちまったすぐ後で、護衛の若い魔導師に魔導師長から連絡が来たらしい。

 どうやら急ぎの用ってヤツで、魔導師は俺らを呼び止めると深々と頭を下げた。


「女王陛下、まことに申し訳ありません。魔導師館に戻らせて頂きたいのですが」


「構わない。竜王陛下もいらっしゃる故な」


 太っ腹に頷いたセイルに魔導師はもう一度頭を下げて、城の方へと戻ってった。


「魔導師って、忙しいのな?」


「うむ」とセイルが頷く。


「ここのところ、頻繁にサンクセイが仕掛けてくるのでな。じいも気が抜けないのだ」


『女王陛下に伴侶が決まって、王家に魔力のある男子が生まれるのを、早い段階で阻止しようと躍起になっているのだろう』


 ナイトロードの言葉に、あーなるホドと、俺は首をこくこくした。


「どうした?」と、怪訝な顔で、セイルに訊かれちまった。


「あー、いや……。ところで、次、どこへ行くんだ?」


 俺は自分じゃ一番かっこいいと思ってるにっこり笑いで、セイルの肩に、思い切って、さりげなく手を回した。

 セイルが、はっ、とした顔で俺を見上げる。白い頬に微かに赤みが出たその時。


「あー!! いたいたっ!!」


「セイルさまっ、黒竜っ!!」


 聞き覚えのある、っつーか、聞きたくねーキンキン声が背後から聞こえて来た。

 振り向いたセイルが、俺とおんなじよーに面倒くさそうな顔をする。


「……お前たち、何しに来た?」


 女にしちゃ、ってか、元は男だからか、凄むと迫力がある低い声で、イヌッコロ2匹を睨む。

 子犬どもは、びっくりした顔でその場に硬直した。


「ごっ……、護衛だよっ。ルイスが急用だっていうんで、僕達が代わりに来たんだよっ」


「ルシウス、アレクサンダー」険しい顔のまま、セイルは2匹の方へずいっと近付く。


「大伯父さまは、お前たちに護衛を頼んだ憶えはない、と仰っているが?」


「そっ、それはぁ……」大汗ダラダラって雰囲気で、右の1匹が口ごもる。


「ずっ……、ずるいよセイルさまっ。ヘンリー伯父さんにもう確認しちゃうなんてっ」


「当たり前だろう」

 

左の1匹の抗議に、セイルは腕を組んで背をそらせた。……黒髪がなびいて、大迫力っ!! でも、きれーだぜ……


「半人前のお前たちが、いくら人手が足りないといえ、市中に出る私の護衛になるはずがない」


「もう僕達半人前じゃないよっ!!」


 右の、アレクサンダーとかいう子犬が、キャン、と吠えた。


「15になったんだよっ!? 一応、魔導師としては成人したんだからっ。宮廷魔導師資格だって、ちゃんと貰ったんだからっ」


「ほう?」セイルは、宝石みたいな黒い瞳で冷たく2匹を見詰めている。かっけー。


「その、成人した一人前の宮廷魔導師が、魔導師長の許可も得ず召還魔法を発動させた挙げ句、間違った魔法陣で、ハイ・グローバの竜王陛下に多大なご迷惑をお掛けした訳だな?」


 昨日の——あ、そうか。俺とナイトロードが混ざっちまってから、まだ1日しか経ってないんだ。

 セイルと出会ったのは、ってコトは、まだ半日とちょっと……


 ——うっ、うおっ!! 遅蒔きだけど、俺ってば、ほとんどセイルに一目惚れしたんかっ!!


 ひゃーっ!!! 自分で気が付かなかったとは、不覚っ!!!


 どっと、顔面に血が集まってくる。思わず顔を両手で覆った俺に、子犬2匹が、セイルに怒られてんのも忘れて、「何やってんの? 黒竜」って、突っ込んできた。

 う……


「おっ、おまえらに言われる筋合いじゃねえしっ!! 大体、人のこと『黒竜』って呼び捨てにしやがってっ。竜王陛下と呼べっ」


「黒竜は黒竜じゃないか」左の、ルシウスっていうイヌが、ちっちゃい胸を張りやがった。


「僕達は、おまえを召還したんだぞ。召還者の命令は聞くっていう盟約が、魔法陣の中の呪文にちゃんとあるんだ。だから、おまえがこっちにいる間は、僕達がおまえの主なんだぞっ」


「ばか者がっ」


 セイルが、子犬2匹を低い声で叱りつけた。


「召還獣には位がある。召還者より位の低いものについては、《服従》の契約で主従契約を結び、こちらの都合でいつでも召還出来るようにもなる。が、竜王陛下のような最高位の召還獣に対しては、お前たちのような駆け出しの召還者の方が下。こちらの要求を『お願い』する形となる。——と、王立魔導師学校で学ばなかったか?」


 さあっ、と、子イヌ2匹の顔色が青ざめる。

 どうやら、完全にセイルの不興を買ったのに気が付いた、らしい。


「なっ、習ったよっ。でっ、でも、通常は召還者の方が……」


「帰れ」セイルは、横で聞いてる俺まで背筋が凍りそうなくらい、冷たい声で命令した。


「とっくに習った事柄もまだ理解していないような半人前の魔導師に、私は護衛なぞ頼まない」


「セ、セイルさまぁ」さっきまでの威勢はどこへやら。2匹は、今にも泣きそうなツラでセイルを見上げてる。


「ましても、私の伴侶となるべき方に向かって自分が主だなどと。許し難い。——オリバー教授」


 セイルは上に向かって、オリバーおっさんを呼んだ。……そんなんで話ができるんか?


「このばか者2匹を引き戻してくれ」


「きゃーっ!! ごめんなさいぃっ!!」


「どーかお許しをっ、女王陛下っ!!」


 本当に連れ戻されるのが嫌なんだろう、マメイヌ2匹は、その場に膝を付いてセイルに土下座をした。


「このまま連れ返されたら、完全におしおきです。あれだけはイヤですうぅっ!!」


「どっ、どうかお助けをーっ!!」


「ならぬ」


 セイルの一言に、2匹はヒッ、と息を詰まらせて顔を上げる。その途端、竜巻きみたいな風が、2匹の周りを囲んだ。


「ぎゃーっ!!!」


「イヤーっ!!!」


 竜巻きに巻かれた2匹は、あっという間に空に舞い上がったと思ったら、城の方へとさらわれて行った。

あ、あれ? 予定と違っちゃった。

この後、子イヌ2匹に、一輝とセイルが引っ張り回されるはずたったのに・・・

セイルの《邪魔するなっ》剣幕の方が強かったよーです。

むぅ、恋する乙女(?)恐るべし。

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