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その4.デイト、だよな?(2)

 オットセイが引っ込んだ後、俺はセイルに店の品物を使って、センドランドの貨幣や流通について教えて貰った。

 ナイトロードも、ある程度知ってたけど、知識が古かったみたいで、お金の単位なんかはちっとずつ違ってた。

 センドランドで今使われているのは、リルド、っていう単位。

 ナイトロードが知ってた単位は、リルドの下のレーンまでで、今は切り上げてリルドだけになったらしい。


 結構高そうなランプシェードやら、ふっかふかの羽根枕なんかを見ながらそんな話をしてるうちに、俺は突然、この目の前の寝具にセイルとふたりで横になっている図を、思い浮かべてしまった。

 俺が赤くなるのと同時に、ナイトロードが頭の中で苦笑する。


 ――ったく、うっせえよおっさんっ!!! チェリーの妄想なめんなっ。


 ますます笑われて憤然とした俺を、セイルが不思議そうな顔で見ている。


 どうしたのだ? と聞かれても、「おまえとのいけない想像をしていた」とは答えられない。


「な……、なんでも、ねえ」俺はわざと拗ねた顔になって、セイルから目を逸らせた。


 セイルは、何か勘付いた感じで、微かにきれいな形の口の端を上げると、さり気なく俺の手を掴んで来た。


おっ、およよ……? バレてんのか?

 そーいや、セイルってば、元は男だもんなー。ヤローのこーいう時の気持ちなんか、お見通し……バレてら。

 ばつが悪くなって思わず俯いちまった俺に、セイルは、「では、次の店へ行こう」と、優しく手を引き寄せた。


 うわあぁ、でかいけど細くて、柔らかい指っ!! もうっ、心臓はバックバクだっ!!

 ずらっと並んだ店員と、慌てて出てきたオットセイに見送られつつガレストの店を出た途端。

「まあまあっ。これは女王陛下様。並びに竜王陛下」


 出口の向こう側にでん、と立っていたのは、レジーナ・シェイクロッドだった。

 ******

 

 赤と黄色に染められた、ドでかい羽のくっついたぐにゃっとした形の妙な帽子を冠り、七色のチュニックに真っ赤っかなホッとパンツ、紫色のロングブーツを履いたレジーナは、昨日タイマン張った時とはまるで別人みたいににこやかに笑いながら俺らに近付いて来た。


「なんだてめーっ!! また喧嘩売りにきたのか?!」


「ばっかじゃないの? 竜王陛下」


 口の悪さはそのまんまだ。やっぱケンカ売ってんじゃねーか。

 ガルルルっ、と唸った俺の頭の中で、ナイトロードがのんびりと否定した。


『どうやら、ハイ・エルフの姫君は、こちら側の魔導師に召還し直されたらしいな』


「分かってんじゃない、竜王陛下」レジーナが、にぃっ、と、赤い口を釣り上げて笑った。


 げっ。こいつ俺の頭の中が読める?

 そー言や、セイルも魔力は弱いけど魔導師と心話は出来るっつってたもんなぁ。


 あからさまに気持が出ちまってたんだろーな。レジーナはケタケタと笑った。

 ちっくしょー。


「竜王陛下は、どうやら二人が一人にくっついちゃったって感じなんだろ? だから、頭の中で二人が会話してんのは、魔力が動くからあたしでも聞けるんだよ」


「なるほど。そういうことか」と納得したしたのは、セイル。


「私では到底無理だが、竜の次に位が高いと言われるハイ・エルフなら可能なんだな」


 ちょっと悔しそうな表情で、セイルはレジーナを見る。 レジーナは「まあね」と肩を竦めた。

 

「あんた達の世界みたいに偉いさんの称号なんてもんは、ハイ・グローバには無いけどね。強いて言うなら、竜は王か公爵クラス、あたし達ハイ・エルフは侯爵から伯爵ってとこかもね」


「短期での再召還をしたのは、大老ヘンリー卿か」と、セイル。


「そ。また間隙をついて、あたしをサンクセイの魔導師に取られちゃ不味いって。あたしゃ別に、あのじーさんと《服従》の契約をしてるわけじゃないんだけどねっ」


 ぷいっと、膨れっ面で横を向いたレジーナに、「ふむ」とセイルは細い顎に手を当てる。


『《服従》の契約って、何だよ?』


 俺は、聞き取られると分かってても、頭の中のナイトロードに質問した。


『召還した魔獣や魔法生物を、ずっと自分の配下として従わせる契約魔法だ。もっとも、魔力の強い魔法生物にはあまり効果は無いが』


「あたしは、魔力を思う存分使わせてくれるんなら、国王派だろーがサンクセイ派だろーが、関係ないねっ」


 にいっ、と、柄の悪い猫のようにレジーナが笑った。


「そりゃ、戦えりゃあとはどーでもいいってコトかっ?」俺はむっとして訊いた。


「ハイ・グローバじゃ、ハイ・エルフのじじい達が、魔力の放出制限なんてアホな条件を作ってるから、暴れられないんだよっ。せっかく力が有り余ってんのに、使えなきゃ意味ないじゃん?」


 平然と言って退けたレジーナに、セイルが僅かに顔を顰めた。


「厄介なクラッシャーだな」


 女王陛下の感想に、レジーナ・シェイクロッドはゲラゲラと笑う。


「お褒めに預かり恐悦至極」


 七色のヒラヒラした袖を翻して胸に手を当て、レジーナが芝居みたいなお辞儀をした。

 なんか、やっぱ、めっちゃムカつく女だぜっ!!


「そーいうコトなんで、しばらくはファゼ=ミルラに居るわ。ま、召還期限が過ぎたら分かんないけどね」


 そんで、またサンクセイの魔導師に召還されたら、暴れに来るってか。


『いっそ、本気で魔導師長がこの女に《服従》の契約とやらを無理矢理かけてくれりゃあめんどくさくねーのにっ』


 俺は、わざとナイトロードに向かって愚痴った。


「冗談じゃないよ? 竜王陛下」 


 聞き取ったレジーナが、きっ、と両目を釣り上げた。


「変種変種ってバカにはされるけど、あたしだっていっぱしのハイ・エルフだ。人間ごときに《服従》なんて、まっぴらご免さね」


「変種……って、なんでだよ?」


 そりゃ確かに、格好は完全にぶっ飛んでるからなぁ。それのことか?

 首を傾げた俺に、レジーナは「ああもうっ!!」と、苛立って頭を掻きむしった。


「普通の人間との二形なんて、ハイ・エルフにしてみりゃ出来損ないの変種でしかないんだってのっ!! 竜だっておんなじだろーがっ!!」


 あー……。どうやら俺、レジーナが本気で触って欲しくねーとこ、つついちまったみたいだこりゃ。

「わり」と、小さく謝った。


 レジーナ・シェイクロッドは、ふうっ、って感じで息をつくと、俺に向かってまたあの柄の悪い猫みたいな笑顔を見せた。


「まあ、竜王陛下も気の毒だもんね。ヘンリーじいさんに聞いたわ。犯人はあの魔法陣ヘッタクソな2匹のチビガキなんでしょ? ご愁傷様」


 そーだったっ!!!

 あンの小生意気なバカ犬2匹に、俺はいきなりこっちへ引っ張られて……兄貴が入院したっていう病院に行き損ねたんだっ。


 ……いや、違うな。俺、その前に車とケンカしてんだ。ってコトは、そのままだったら、俺も病院行きか?

 でもよ、俺は轢かれたショックでこっちへ来ちまったワケだから、轢いた車の前には、俺の血とかしか残ってない訳で……死体はどこ? になってんのか?


《ヤンキー高校生、車に轢かれていきなり蒸発!?》とか《コーコーセーの事故遺体、突如瞬間移動!!》とか、テレビとかネットとか週刊誌なんかに書かれてたりしてっ!?


 それ、ぜってー不味いじゃんよっ!!!


 焦った俺に、ナイトロードが『多分、それはない』と囁いた。


『あとで詳細は伝えるが、恐らく、一輝の身体は向こうにもあるはずだ』


 その声は、どーなってんのか、レジーナには聞き取れなかったみたいだった。

 聞かれたら、またどーのこーの言いそうだもんなー、この女。よかったぜ。

 それはともかく。ナイトロードが言うんだ、信用出来るぜ。

 騒ぎになってないって知って、俺がほっと胸を撫で下ろしている隣で、セイルがくすっ、と笑った。


「出来損ない……か。私と同じだな。ということは、ここで話している私達は、皆同じ変種同士ということか」


「おっもしろいこと、仰られること、女王陛下」レジーナは、半分楽しそうに、半分は呆れてる風に、セイルをまじまじと見やがった。


「確かに。考えようによってはそうとも言えるね。――ま、人間の女王陛下と同族ってのは、ちょっと楽しいわね」


 レジーナは、また例の気色わりいニンマリ笑いをすると、「それでは、ご免遊ばせ」とか気取って、すたすたと通りを右方向に歩いて行った。


 ――ん? あいつこの店に用があって来たんじゃねーのかよ?


『恐らく、私達の魔力を察知してやってきたのだろう』ナイトロードが、苦笑しつつ俺の疑問に答えてくれた。


『なんだよっ。んじゃ、俺らをからかいに来ただけかよっ』

『そうとも言えるな』

 ナイトロードの、いやに冷静な返事に、俺はがっくり肩を落とした。

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