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 華形家の居間は畳に換算すると約五十畳ほどの大きな部屋である。天井は中二階の天井まで吹き抜けになっていて、居間にあるテレビの音声は映画館のような迫力を創り出す。テレビといっても備え付けられたプロジェクターがスクリーンに映し出すもので、型で言えば三百インチほど、とでもいったところであろうか。

 そのテレビではスポーツチャンネルでサッカーの一コマが実況中継されていた。

 実況「スペインのコーナーキックです」

 実況「シュパーン、ぴっぴ、シュバー、ブーン、ばーん、ズバーン」

 実況「ライオンみたいな男のシュート決まったあ!」

 解説「スペインのライオンみたいな男。やりましたね」

 実況「頭、もじゃもじゃのライオン、ライオン、すっごい!」

 実況「以上、現地より中継でお送り致しました」


「…………ライオンみたいな男? いったいどこの誰なんだ。まったく実況アナウンサーのレベルも落ちたな」

 華形満太郎が、「消す!」と言うと、テレビのスイッチがぷつんと切れた。音声認識である。

「華絵はまだ帰らんのか」

 夕食後に出掛けること、すなわち奥様の夜遊びは、かつて満太郎の妻もまだ若かりし頃、頻繁に行っていたことなので、華絵が夜遅くに外出することに対して華形家として特に禁止する理由はなかった。 

昨夜金曜日の夕食後、華絵が外出したことを満太郎は承知していたが、無断で外泊した上に丸一日経っても夫の満夫へ電話の一本もないのは異常なことである。

「お父さん。警察はまずいから、専属の探偵社を総動員して捜索しましょうか」

「いや待て。華絵は腐っても華形家の嫁だ。変な趣味でも暴露されたら家系にきずが付く。探偵の調査員だって所詮人の子だ。信用ならん」

「お父さん! 変な趣味って、まさか。母さんが若いとき夜遊びしたっていうのも、お父さんが変な趣味を覚えさせたからだっていうじゃないですか。そういえば最近の華絵はどうもおかしい。お父さん。変な趣味は外で金払ってやってくださいよ!」

「俺は知らないよ。もともと華絵になんか興味の欠片もない。華絵の尻がでかかろうが、胸がどうであろうが、唇が色っぽかろうが、うなじにほつれ髪がどうのこうの、そんなこと俺にはどうでもいいことだ」

「……それって、ホントに興味ないのかなあ」

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