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「あの、あとどのくらい待ちますか?」と運転手。
「もう少し待っててね」と華絵。今の彼女にとってはタクシーをどうするか、など二の次である。
華絵が再び主人の家へ戻ると、そこでは目の前でとんでもない光景が展開されていた。
麻酔が切れて意識を取り戻した主人が、ピロミクンに似たロボット人形を先の鋭いステッキでずたずたに刺していたのである。
「やめて――!」
慌てて止めに入る華絵。ステッキを掴み、力いっぱい引いてそれを取り上げようとした。しかし主人は足が悪いだけで、むしろ毎日車椅子を手で転がしているため、腕の力は華絵と比べ格段に強かった。あっという間に華絵の手はステッキから引き離され、主人はそれを大きく後ろへ引いた。
「洋子。おまえいつから私に逆らうようになった! 上等だ! ほれ、お仕置きだ!」
ビシッ!!
ステッキは物凄い勢いで華絵の尻にヒットした。
ビシッ! バシッ! ビシッ!! バシッ!!
「きゃあ、ひい!」
ビシッ! バシッ! ビシッ!! バシッ!!
「ぎゃあああ!」
そこにいた執事たち三人。誰も止めるものはいない。辛そうな顔をしながらも皆俯いたままだ。
正確に同じ場所ばかり叩くので、華絵のスカートは擦り切れてぼろぼろになった。しかしそれでも主人はその場にうつぶせに倒れこんだ華絵の尻を、今度は真上から勢いをつけて叩き続ける。
ビシッ! バシッ! ビシッ!! バシッ!!
「ぎゃああああああ!!」
そのときである。
突然ステッキの動きが止まった。ステッキの先の方ががっちりと握られている。その手はピロミクンに似たロボット人形のものだった。
「!!」
「ぐうう!」主人は力一杯ステッキを引くが、ロボット人形の手はぴくりともしない。物凄い力である。
ロボット人形は既にずたずたに刺されていて、中の配線やそれを保護しているビニールやらゴムやらがとび出ていて、動いていること自体信じられないような状態である。
華絵は痛さのあまり涙でくしゃくしゃになった目で、ロボット人形の方を見上げた。
それは、今まで彼女が人間のピロミクンにも一度も見たことのない、悲しそうな顔をしていた。そしてその目からはついに涙が流れ出た。主人は信じられないものを見るように唖然としている。そして諦めてステッキを持っている手を離した。
ロボット人形は、ステッキを木製の壁に向かって投げつけた。
ビシッ! それは大きな音をたてて壁に深く刺さった。