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貧しい母子家庭で育った里藤華絵は、彼女の勤める会社の上司の紹介で知り合ったエリート社員 華形満夫と、この夏に半年間の付き合いが実を結んでゴールインした。
満夫の家庭は両親とまだ独身の妹四人の七人家族で、父の満太郎は国内に約千五百拠点、国外に百を優に超える関係子会社を傘下にする大手ソフトウェア企業の専務取締役であり、華形家は東京都世田谷区の一等地に三百坪を超える豪邸を構えている。二人が付き合いを重ねていた頃は何らの問題もなかったが、結婚後、『華形華絵』となった彼女は、その名前の違和感と同様に、育て上げられてきた家庭環境での違和感が日増しに露呈してきて、夫の救いの手もないまま家庭内で完全に孤立の一途を辿っていくようになっていった。
華絵の家庭は貧乏ながらも、母の熱意と努力の甲斐あって彼女は大学院まで進学させてもらい、満夫の勤める上場企業の秘書室に採用され彼と知り合うことになった。それまで精神的に目一杯の背伸びをしてきた華絵にとって満夫との出会いは、ぎりぎりの背伸びであって、彼女は結婚により、もうこれ以上の背伸びはできないことを自らようやく知らされる羽目になった。
華絵に対する姑の露骨な意地悪もさることながら、特に彼女にとって耐え難かったことは、一歳年下の長女、恵を頭とする四人の妹たちであった。彼女らは母に倣って執拗に華絵に対する嫌がらせを繰り返した。
「ねえ、恵さん。洗濯機に入れた私の肌着、どこへいったか知らない?」
「知らないわよ」
「今朝一緒に入れて洗濯機回してたんだけど、終わったら見当たらないの」
「ええ? あれって下着だったの? てっきり雑巾が入ってると思って捨てたわ」
ゴミ箱を見ると、生ゴミの下に華絵のショーツとブラが埋もれている。しかも、イカのワタが破け散って華絵のショーツにシミとなって広がってしまっている。
「やだあ。捨てないで。はくものなくなっちゃうじゃない」
「あら。お義姉さん。まさかそんなシミパンまた洗ってはくワケ? そんな訳ないわよね。それとも、お兄さんにそのままプレゼントしようっての? お下品ね……」
「何てこと言うの!? いくらなんでもそんな言い方ってないと思うわ」華絵の精一杯の抵抗だ。
「何よ。喧嘩ふっかける気? 私なんかね、リグビー・ペラーか、ラ・ペルラ以外、下着と思ってないのよ。お義姉さんとは全然違うのよ。一緒に住んでるからってつけ上がらないでね。ああそうだ、お義姉さん。あなたお尻おっきいからステテコの方が似合うんじゃないかしら? はは」
「!!…………」