第8話 激甘展開許さん!
配信が終わり、コメント欄を確認すると『もっと見たい』や『新婚おしどり夫婦爆誕』などなど、嬉しさ迷惑な話が流れていた。
「今日の配信も大成功だったな」
「だだ、大成功どころじゃありません! 大事件です!」
いや大事件どころじゃない。もっと、ずっと危険な配信だった。寿が楽しく料理しているのにも関わらず、功がイタズラをして。
そんなこんなで終わった配信も、思った以上に大盛り上がり。より視聴者が求めてる内容を理解できなくなった。
どこからかムニィという音が聞こえてくる。テーブルを見ると、また例の肉が並んでいて……。
「死音お姉ちゃん。お兄ちゃんのお肉食べる?」
「だから要りません!」
「ふむ。意外と美味なんだがな……」
「幸も便乗しないで!」
何気にハチャメチャになってきた我が家。寿が私の茶碗を持つと、出来たての豚肉炒めを入れてくれた。
ホカホカで美味しそうだ。一口食べてみると、胡椒と塩のバランスがちょうどいい。
「死音お姉ちゃんは普通が好きなんだね。ボクたちは寿お兄ちゃんの一部を削るけど……」
「まあね……。でも、少し興味は湧いてきたかも……。寿が幸や功の能力を維持してるってこと」
「そうか……。変なもん見せちまってごめんな……」
「いや、いいんだよ。だけど、今はちょっと怖いかも。弟たちがなぜ、寿にあんなことをするのか……」
まさか寿のことを食べるなんて思わなかった。私は豚肉炒めを食べながら、今日起きたことを思い出す。
スーパーでの追っ手。からの人殺しアイドル。私を守ろうとしてくれたのだろうけど、かなりやりすぎな気がした。
自己防衛。自分の不幸に左右されやすい私。幸王子は豚肉炒めの薄い肉で、ご飯を器用に包んで食べていた。
功王子も可愛らしい顔とは真逆のガッツキ具合で食べていく。今日の夕食分が残るか心配になる速度で減っていって、最終的になくなった。
「さて、今日の夕食分のおかずが無くなったな……」
「寿お兄ちゃんの作る料理はお腹いっぱいでも食べられるからねー」
功王子は、どこから盛ってきたのかわからないご飯を食べている。ご飯をよそることもショートカットできるなんてズルいよ……。
それだけでもすごいのに、幸は2杯目へと突入していた。こんなに食べても太らないなんて羨ましい。
「ありがとな。功」
「兄上は料理の天才。どんな料理でも作れてしまう」
弟からの信頼が熱い寿。その寿の柔らかな表情は、混じり気を含んでいた。どこか我慢をしているような強ばった顔。
「お兄ちゃん?」
「いや、なんでもない。おかわり作ろうか?」
「大丈夫。じゃあボクは見回りに行ってくるね!」
「見回り?」
私が問いかける前に功王子は消えていた。逃げ足が早すぎで困った人だ……。私でも追いつかなさそうな気がしてきた。
幸王子はご飯3杯目突入。寿に関してはもう5杯目に到達している。本当に食べる量が違いすぎる。
私は急いでご飯を炊きに向かうが、米びつを倒してしまい、夕食分のお米が消える。すると、幸王子が行動を開始した。
「距離圧縮。死音宅を実家と接近。以下略」
「もしかして、寿たちの実家?」
「うむ……」
その後、寿が外に出て大きな米袋を持ってきた。それ柊家のものだとしても、普通に持ってくる。
『これを使えばいい』でも、私は『そういう問題じゃない』と答える。米袋の数からして3袋。それを、寿は一度に持ち上げていた。
「まあ、使えって。母ちゃんには怒られないからさ」
「でも……。こんなに必要?」
まだ未使用の米袋。使い道がわからないくらい量がある。これを全部食べられるわけが無い。
でも貰っていいというのなら、返すこともできない。だったら貰っておいた方がいいかもしれない……。
「まあ。今度俺の得意料理を食わせてやるからさ」
「得意料理?」
「ま、何が出るかはお楽しみだ。そいつを作るにも大量の米が必要でさ……」
「兄上の得意料理は、ここにある大皿には乗り切らない。もっと大きな皿が必要だ」
「あはは、毎回作りすぎちまうんだよな。けど、1日で消えるもんだから、個人的にも嬉しい」
――ポロン。
突然寿のスマホが鳴る。彼がソファーに座り直すと、チャットアプリの画面を表示させた。
どうやら寿の母親からのようだ。寿は薄曇りの顔をして、流れてきた長文に目を通す。
そこには、次のドラマに出演するために減量をして欲しいとの内容。これ以上寿が減量したら死んでしまう。
「寿の母親って結構スパルタ?」
「スパルタ以上だ。俺が完璧を目指すっていう男だからさ。母ちゃんが減量しろというなら、絶食でもして無理やり下げるさ」
「ぜ、絶食……」
やっぱり死ぬ気だ……。寿は失いたくない。推し活が完全に終了してしまう。そんなことする母親は許さん!
「まあ兄上ならなんとかなるだろう」
「そういう問題じゃない!」
なんで柊兄弟はこんなにも呑気にしていられるの……。それこそ謎なんだけど……。そうしているうちに、寿と幸が同時に完食した。
寿は『今の体重を測ってくるから体重計を貸してくれ』と言ってリビングから離れる。
その間、私は一人で皿をシンクに運んだ。さすがに3人分(功王子が自分で片付けてくれた)を一人で運ぶのは、行き来が大変だった。
「幸ー。自分で運んでよー」
「ん。オレは今忙しい……」
「そういう問題じゃないー」
「兄上から現在の体重データが届いた。かなり厳しい状況。計算開始……」
「ちょっとー。機械的にならないでよー」
その後幸王子からの応答が無くなった。脱衣所から寿が戻ってくる。どこか暗い表情はやはり難しい状況なのだろう。
だから寿の親はスパルタ? って言ったんだよぉー。自覚あるなら反対ぐらいしてよー。でも寿は完璧主義者っぽいからなぁ。
「幸。データどうなった?」
「ちょうど解析が終わった。チャットでデータ送る」
「サンキュ。死音洗いもん手伝うわ」
「ありがとう。寿」
「ではオレはこの場から離れるとしよう。2人だけの方が絵がいい」
そう言って幸王子はリビングから出ていく。私と寿が2人きり。配信中のバック指導には胸が高鳴ったが、それ以上にドキドキしている。
シンクも大きくてよかった。一つのシンクに対して2人並んで立てる。私の親は大金持ちだったらしいけど、たしかに私一人じゃ大きすぎたかもしれない。
加えてこのキッチンは子供用の台所付きだ。小学4年生を対象にした低い台とミニシンク。子供用包丁をしまえる施錠付き扉。
こんな家はどこにもないくらい凄いと思っている。交通事故に遭うまでは……。
私の不運のせいと多くの人から暴言を吐かれたことは、嫌でもフラッシュバックしてくる。
「死音顔真っ青だぞ?」
「ちょっと……。家族のこと思い出してたら……つらくな――」
直後、寿の顔が私に近付いた。至近距離から発せられる吐息に、私は混乱する。これが寿流の……。
「つらいならすぐに言えよ……。今のお前にとって、一番近くにいるのは誰だ? 俺だろ? んなら俺のことを考えるよりも自分の不満をぶつけてこい。なんでも聞いてやっからさ」
「でも……。寿。減量するんでしょ? もしそれで体調を崩したら、また私のせいになる……」
「ははっ! そんなことなら問題ないって。俺の場合ギリギリまで体重落としても大丈夫だから気にすんなって」
その寿の顔はどこか無理をしているようだった。寿こそ、自分のことを考えた方がいいのに、橋の上で会った時と何も変わらない。
なにもかも、私ファーストだ。それだけ、寿は私を愛してるってことなのだろう。だけど、私の好きは恋愛に発展しない。
私が好きと言っただけで、相手を殺してしまう。それが――怖かった……。
読んでくださりありがとうございます。
ぜひブクマしていってください。
いいねは賽銭箱に大事にしまっておきます。
リアクションも別の賽銭箱に入れておきます。
次回。『激甘展開許さん!②』




