第7話 配信中にそれはダメー!!
「じゃ、配信頑張ってねぇー!」
功が画角から外れると、私はタブレット端末で収録を開始した。もちろん今回も生放送だ。
昼食は夕食にも回すらしいので、今から作るとのこと。それでも寿の体調が気になるけど、本人が問題ないのならいい。
「皆さん、『柊死音のネガティブ配信』へようこそ。本日は私の夫である寿の希望で、料理配信をしようと思います」
「今日はちょー簡単に豚肉炒めを作るぞー。こっちではブロック肉を使うが、一般の人は細切れ肉を使うようにしろよ!」
何その普通な情報。通常はブロックで買う人いないでしょ! まあ、寿がブロック買いに慣れてるならいいけど……。
スマホでコメントを確認すると、そこにはもう既に400人以上の視聴者が来ていた。なんか、嬉しい。
「死音。野菜室からキャベツ取って20枚くらい剥いてくれないか?」
「わ、わかった……」
――『お! 新婚夫婦で料理するのか。面白そう』
――『キャベツを取った瞬間にコケたら面白い気がする。死音ちゃんコケないように気をつけて……』
「あ、ありが……ひゃあ!?」
冷蔵庫へと向かう途中。足元に何も無いのにつまづいた……。視聴者の皆さんご期待に添えずすみま……。
「死音大丈夫か?」
「ふぇ?」
いつの間に移動していた寿に抱えられ、ゆっくりと上体を起こされる。そのとても甘いマスクに、顔が熱くなった。
推しとして好きなのに、寿といるといつもと違うドキドキに襲われる。誰もが経験したことのないような、燃えるようななにか。
――『寿と死音ちゃんになにかあったの?』
――『死音ちゃんの吐息が早くなってない?』
誰が追加したのか分からない、読み上げ機能。それを聞いてるとさらに胸が苦しくなる。そろそろ離れて欲しいんだけど……。
「死音お姉ちゃん。コメント盛り上がってるよ!」
「ちょっと功……」
「配信の盛り上げ上手。母上が気に入らないことが非常にもったいないな……」
「幸まで便乗しないで……」
私は再びキャベツを取りにいく。その後は滑ることなく、まな板の前へ立つことができた。
「じゃあ、剥いてくれ」
「はい!」
キャベツを剥くと、それをタワーのように重ねていった。実家のキッチンが広くて良かった。置ける場所はたくさんある。
剥き終わると、今度はざく切りにするとのこと。包丁を使わずに手で千切ると歯ごたえがよくなることを教えてくれた。
「兄上。ちょっと面白いことを考えたんだが……」
「ん?」
「部分圧縮。寿の両手首に固定。起動」
すると、寿の両手首がぎゅっと細くなった。なんか腕がアンバランスでやりづらそうに感じるが余裕で包丁を動かしている。
ただのイタズラでも、普通に受け入れてしまうメンタルバカ! こんな夫理想なのかすら不明だ。
コメントを見ると、『柊兄弟揃い組ってマジ?』やら『今日の寿氏手首ほっそ!』やら。
さらには『死音ちゃんのあたふたぶり最高!』などなど、たくさん寄せられている。喜んでいいのかさっぱりだ。
ネガティブ配信というよりは、サービスだらけ配信になっている。SNSでの評判も上々。なんかヤバいことなってない?
「じゃあ、このタイミングで取り分けたあれ出すねー」
「いや、あれはグロいから、視聴者に失礼だから!」
「でもいいでしょー。お兄ちゃんのあれは栄養価も高いからー。ボクたちにとってはだけどね」
全然理由になってない。あのうにょうにょ動く肉なんか見たくない。あとで捨てておこう。
幸王子はと言うと……。寿から削ぎとったものをおやつに読書中。それスナック代わりにしないで! この兄弟癖強すぎるんですけど!
――『あの皿に乗ってるのなに? なんかペコペコ動いてない?』
――『わからない。なにかの活き造りとか?』
――『見た目からしてタコっぽいけど、なんかレバーにも見えてくる』
功王子の悪行を止める前に、披露してしまった寿の肉。コメント欄は様々な考察が流れ始める。
だんだんカオスになってきた。寿怒って……。怒っていいから……。その願いは届かない。
「じゃ、今度は炒め始めるぞー。豚肉は数ミリ幅にスライスをして……。先に茎がしっかりしているキャベツから炒める」
「普通に! しかも何事も無かったように調理進めないで!」
「これやっぱり美味しいね。お兄ちゃんのお肉。軽食だから胃にはたまらないけど」
功王子そこ言います? そこ言っちゃいます? 何この配信。何がメインなのかわからなくなってきた。
料理に夢中の寿は、功王子に調味料を要求した。すると、功王子は普通に胡椒や塩様々なアイテムを召喚する。
これで視聴者の視線を移動できる。と思いきや、幸王子がひょっこりとカメラレンズに顔を出した。完全に幸王子オンリー画面。
――『幸がいるんだけど! ってことは、功もいるってこと?』
「いるよー! んーー。やっぱりお兄ちゃんのお肉は美味しいね」
――『お兄ちゃんのお肉?』
「うん。お兄ちゃんの○○のお肉」
タブレットが自動で禁止用語判定したー!! ありがとうー。ありがとうー私のタブレットたんま――。
「お兄ちゃんの心の臓の肉」
普通に禁止用語回避されたんだけど! そこも禁止用語判定してよ……。私悲しい。マジで悔しい……。功王子……完敗です……。
――『寿の心臓のお肉だって!?』
――『柊長男は食用だったのか……。共食いアイドルってなんか怖い……』
――『よく生きていられるよね……#寿氏』
「寿の○○は非売品です! どこにも販売しません! 絶対に! 絶対に販売しません!」
「じゃあ、死音お姉ちゃんも食べてよ」
「要りません!」
私は蠢く肉が乗った皿を片付けた。だけど、何かがおかしい。ここにある冷蔵庫は1つだけだったはずなのに、もう1台置かれていた。
すると功王子が一言『お兄ちゃんのお肉専用冷蔵庫だよ。自分の家から運んできた』と普通に言ってきた。功王子だからできる荒業じゃん……。
「寿もなんか言ってよー。自分の身体の一部を削られて嫌味とかないの?」
「全く」
「そんな……」
「んなことよりも、早く豚肉入れなよ……。キャベツが焦げるぞ」
「は、はい!」
言われるがまま寿の指示に従う。寿がスライスした豚肉の厚さは均等になっていて、すぐに溶けそうなくらい薄い。
私が豚肉をフライパンに入れると、寿が接近してきた。『このままだとこぼれるぞ』と注意され、手と手が触れる。
こんな展開望んでない! コメント欄を見ると『これぞ新婚夫婦!』と、大好評。寿の肉の話題はなくなっていた。
ようやく解決。かと思いきや、寿が『フライパンの振り方を教えてやる』と言ってきた。
寿がフライパンの前から離れると、気付かぬうちに私が目の前へ。後ろに気配を感じ振り向くと、私を包み込むように寿が立っている。
「ここをこうやって……。力は入れる必要は無い。俺は感覚でやってるけど、簡単な動きで上手く振れる」
「いや、触れてるのはそっちでしょ! 寿の手が毛布級に温かいんですけどー!!」
「そうか? おっと、フライパンを見てないと巻き散らかすぞ? 集中集中」
集中できるわけあるかー! 今心拍数はハイテンポ級にドクンドクン言ってるんだけど! この展開神級!
もう手を洗いたくない。ずっとこの手のままでいたい。功王子と幸王子は今も心臓の肉を食べている。
温度差ヤバすぎる。寿は『もう少しで盛り付けするぞ』と言って、功王子に行動開始するよう指示した。
功王子は魔法を使わず、キッチンの方へとやってくる。そして、下の大きな引き出しから大皿を取り出した。
「完成した豚肉炒めを盛り付けて――っと。これが本日の昼食兼夕食メニュー。ちょっと作りすぎちまったな……」
「全くのその通りです! でも、寿が作る料理って美味しそうなんだよね……」
「ありがとな。死音」
「2日目にして、寿の料理が大好きです!」
私の発言で、コメント欄が暴走を開始する。読み上げ機能も大混乱をしていて、音声崩壊した。
「んじゃ、本日の配信はここまで。みんな料理する時は包丁や火に気をつけなよ!」
「ご視聴ありがとうございました!」
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次回。『激甘展開許さん!!①』




