第5話 スーパーでの追っ手
スーパーの搬入口から回り込むようにして、入口まで移動した私たち。寿と幸王子がそれぞれでカートを手に取る。
直後『ポンッ!』という音とともに、カゴが乗っかる。功王子が持ってきてくれたようで、かなりスムーズだ。
商品売場に行くと、スナック売り場と鮮魚売り場担当の幸王子・功王子と別れて、寿と一緒に野菜売り場へと向かった。
寿と2人きり。周囲から視線を感じるけど、なんとなく楽しい。すると、私の手のひらに違和感が出てくる。
手には紙屑が握られていた。優しく開くと、私と寿が担当する買い物リスト。ちゃんとスナック系と鮮魚系が省かれている。
それを見ながら、人参や長ネギ。玉ねぎなどをカゴに入れていく。次に向かうのは精肉売り場。リストには鶏肉と豚肉と書かれていた。
「幸王子ってすごい……。寿もこんな感じの使えるの?」
寿はその言葉には答えず、キリキリした表情で周囲を見回している。なんか変なのでも見つけたのかな?
そのことは置いといて。鶏肉のパックを8つと、豚肉をブロックで買った。今日も寿が料理をしてくれるらしい。
どうやら今日は豚肉を使って炒め物を作ってくれるとのことで、楽しみで仕方ない。
――ポロン。
誰かのスマホが鳴った。寿がスマホを取り出すと、素早い操作で返していく。覗き込むと幸王子からのチャットメールだった。
どれどれ? 『追っ手が来ている。狙いはきっと死音だ』。え? 私狙われてるの!?
「死音。ブーストかけるぞ」
「ぶ、ブースト!? ブーストって何!?」
「つまりは……〝――走る〟!」
瞬間寿が消えるのと同時に私の身体が引っ張られる。ただ『走る』と言っただけなのにここまで速度が出るとは思わない。
風を切るように店内を駆け巡り、寿はどんどん商品をカゴに入れていった。どうしてこんな速度を出して正確に入れられるの!
寿が止まったタイミングでカゴを見ると、無駄なものは一切入ってなかった。これが寿の能力。
「寿……。これどういうこと……? 全部購入予定のものしか入ってないし」
「俺なりの買い物の仕方だ。気にするな」
「いや、さっき幸王子からのメッセージで、私が狙われてるって書いてあったよね?」
「ん? 気のせいだろ。キョドり猫」
〝タコ〟の次は〝猫〟ですかーい! 生き物に喩えるのやめて欲しいんだけど……。でも、カッコイイからいいや……。
少しして、幸王子と功王子が戻ってきた。レジで会計を済ませると、功が商品を消していく。たったこれだけで、私の自宅に移動するらしい。
荷物の移動が終わると、私を残して寿たちが移動を開始した。どこに向かってるのかわからない。
すると、私のスマホが鳴る。そうだ、寿と連絡先を交換したんだった。スマホのチャットアプリを開くと、彼からのメッセージ。
『追っ手を見つけた。今からそっちに幸が向かう。俺と功のことは気にするな』
「いや気になりますって!」
やっぱり、寿の様子がおかしい。ここに出発する前も幸が護衛と言っていた。それと関係があるってこと?
オロオロと歩き回り幸と合流するのを待つと、すぐに来てくれた。赤髪がたなびく姿はカッコイイ。
幸王子は天井を見るように言ってくるので、見上げると、功がぷかぷかと浮いていた。さらに目を凝らすと、指差しをしている。
『寿お兄ちゃん。排除完了したよ』
『サンキュ。下ろすぞ!』
『お願い』
二人の掛け合いが聞こえてくると背中に気配を感じた。振り返ると、寿と功が立っている。この兄弟なんでもありじゃん……。
「移動するぞ!」
「い、移動!?」
「邪魔者は完全排除が基本。オレなら一瞬で排除できる」
幸王子の自信わけわからないんだけど! 排除! 排除って何を排除するの!? すると、功が突然私の手を握ってくる。
身体が熱くなると、薄暗い空間にやってきた。ここは路地裏? かなり広い空間で、周囲を大きな建物に囲まれている。
前を向くと大柄でガタイのいい男性が20人ほど。この人たちが私を狙ってたってこと?
そんなの困る。困りますって! 幸王子と寿は一歩前に出る。すると、幸王子が手のひらを外側に、真っ直ぐ伸ばした。
「オマエたちは死音嬢を狙う追っ手で合ってるか?」
『それがどうした! アイラグの柊家で最下位の次男坊さんよー』
「む。気に入らん。オマエたちの墓場はここだ。死ね」
幸王子普通に怖いこと言ってるんだけど。私まだ状況掴めてないし! っというか、新婚生活には――たしかに邪魔かも。
寿がさらに数歩前に出る。幸王子の前に立つと、一回頷いた。これから何が始まるの!
「対象者固定。心臓圧縮。対象者視界範囲内数十名。起動」
すると、ガタイの大きな敵たちが左胸を抑えて喘ぎ始めた。苦しんでない? 苦しんでるよね? 容赦ないんだけど!
だけどここで気がついた。幸王子の視界には寿も入っていることに。だけど、寿は普通に立っている。
「幸王子……」
「兄上も心臓圧縮の対象者に含まれている。それがどうした」
「どうしたじゃなくて。寿は――」
「俺のは追加で倍にしてくれ。刺激あった方が楽しいだろ?」
そういう問題じゃなーーい!! どうして普通でいられるの! 不自然すぎるんだけど!!!!
「承知した。何倍がいい」
「んー。今は通常のどれくらいだ?」
「今は標準くらい……。そうか、わかった。対象者を寿のみに固定。心臓圧縮を4倍に変更」
「ッ!?」
寿が膝をつく。だけど、顔は笑っていた。とても嬉しそうな顔。こんなのありえない。
「寿ー!! だだだ、大丈夫!?」
その時、後方から誰かに掴まれた。怖くなって後ろを向くと、大柄な男性が私をガッチリホールドしている。
「俺の妻に手を出すな!」
『アンタの妻だと? アンタの母親から聞いたが、この女世界一不吉な名前っていうじゃねぇか……。有名になり始めたアイドルさんには不似合いってよォ!』
「不似合い? 他人から見たら不似合いかもな。けど、そいつは俺が心から好きで選んだ女だ。今更お付き合い撤回なんかしない!」
『ふーん。けど、そっちも弟さんの攻撃を受けてるじゃねぇか。おれらの仲間同様動き鈍るよなァ? 立ち上がれねぇよなァ? 痛くて堪らねぇよなァ?』
「ふ、痛いのも追い込まれるのも大歓迎に決まってんだろ! 俺はそこいらのヤツらとは違う。こんくらいまだ軽傷の範疇だっての! 死音から離れろ! ――〝吹っ飛べ〟!」
直後、ホールドが解けて男性がノックバックを喰らう。寿。強い……。心臓をやられているのに、ヘラヘラモードになっている。
その後も寿は敵に手を触れることなく排除していく。『吹っ飛べ』『落ちろ』『くっつけ』『伏せろ』と命令が飛び交う。
『な、なんだコイツ……。つ、強すぎ……』
「アァン? オマエらはオレたちの敵じゃねぇんだよ! 心臓圧縮最大値設定。対象者視界範囲内数十名及び寿。これでチェックメイトだ。兄上以外死ね!」
幸王子挑発しちゃダメ……。挑発したら大変なことになる。男たちの喘ぎ声は悲鳴に変わり、絶叫に変わり、言葉として成立しない絶命をした。
『ひ、ヒィィィィ!?』
「これが俺とお前らの。耐久値の違いだ。幸今回も楽しませてくれてありがとな」
「お安い御用だ。イタズラ希望なら何度でも相手しよう」
一人取り残された男性は焦りながらも退散していく。功が倒れた人たちの脈を測ると、首を横に振った。
「この人たちもう死んだよ。ここは見つかると危険だから、コンクリートに埋めておくねー」
「こ、コンクリート……」
「だって証拠隠滅した方がいいでしょ? ボクたちお母さんに内緒で犯罪者とかの始末をしているんだ。正規の処罰だから犯罪にはならないよ」
いやそういう問題じゃないでしょ! 人殺し! でも、私を助けてくれたから、結果オーライ?
柊兄弟は『責務を全うした』って言うかのようにハイタッチをしている。だけど、私はまだ知らなかった。
彼らがなぜこのようなことをしたのかということを――。
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次回。『柊兄弟プレゼンツ!寿の○○を食す!?』
柊兄弟はまさかの悪食!?注)カニバリズムシーンあり




