第3話 久江の作戦
◇◇◇とある事務所にて◇◇◇
「柊社長! このデータを見てください!」
「なんだね?」
私は秘書から渡されたタブレット端末を眺めた。そこには前回のライブデータ。観覧数は右肩下がりになっていた。
私の子供である寿が無断欠席をしたことで、途中退場が続出。最終動員数は過去最低を記録している。
「やっぱり、寿さんの存在を最優先にしている人が多いんですよ! 中でも一般配信者に入るはずだった池田死音さんの登録者数は約1万人。彼女を排除しなければもっと――」
「ファンが獲得できるとでも? あんな不幸・不運・悪運満載の名前の配信者は必要ない。だからデータを消した」
「ですが! 寿さんは彼女のファンで……」
「そんなもの知らん。寿には良い交際相手がいるじゃない」
「それが……」
秘書はタブレット端末を操作して、とある動画を出した。まず目を疑ったのは、そのチャンネル名に『池田死音』と書かれていたことだ。
動画の中盤を見てみると、そこにはたしかに寿の姿。さらには、死音と寿が入籍したことまで流れてくる。
「あの女め……。寿を潰すつもりか!」
「そこなんですが……」
――『元交際相手とは円満に別れることができ。俺の推しである死音と暮らせることがとても嬉しいんだよな……』
――『も。もう、寿ったら……。は、恥ずかしい……』
寿は営業スマイルとは違う。とても柔らかい笑顔を作って、カメラ目線で語っている。
すると、事務所のドアをノックする音が響いた。『どうぞ』と言うと、寿の弟の功が入ってくる。
「お母さん。動画見ましたか?」
「見たわ。ほんと、不吉な人が好きよね……。呆れしかない……」
「そうかな? ボクは寿お兄ちゃんに合ってると思うけど……」
「そんなわけないじゃない。寿からも何度も見せて貰ってたけど、不幸、不幸、不幸の連続。どこを気に入ってるのか想像もつかないわよ」
「そ、それは……そうですけど……」
「アイシス・ラグナロクには不幸を呼ぶ人を入れない。そう決めたのも私。そのおかげでお金が入ってきてるのに、寿……」
怒りが込み上げてくるのがわかる。だけど、それをどこにぶつけようか悩んでいた。
功や次男の幸にぶつけるのはダメね。そもそも功は死音を気に入っている。味方になってくれる保証はどこにもない。
幸は比較的私と似た思考を持ってるけど、私に八つ当たりしかしてこないバカで、ものすごく頭が硬い。
しかも、ちょっと捻くれた現実主義者なのが厄介。現代社会に馴染みすぎてて私とも仲は悪い。
でも、相談してみる価値はあるわ。ひとまず幸がくるのを待ってみる。数秒後、思った通り幸がやってきた。
「母上。話とは?」
「私が与えた魔法は上手く使えてるかしら?」
「いや、オレが持つ圧縮魔法は兄上にしか使えない。それが今の難点だ。功の方はよく友達と遊ぶことに使ってるらしいが……?」
「そう。まあ、悪用さえしなければ問題ないわ。ところでこの動画を見てちょうだい」
とりあえず、幸に例の動画を見せた。それを見た彼は、不満顔どころかニンマリ笑って、数秒後不機嫌顔に戻る。
「池田死音……か……。オレはあんま好きではないが、兄上が幸せなら口出しはしないな……。こんな自然な笑顔の兄上の方がオレは好きかもしれない」
「アナタまで私の敵になるのね。使えない我が子だわ……」
「使えない? 使い方を知らない母上の方が悪い。母上が持つ考え自体がそもそも古い。お見合い結婚? 知ったことか。たしかにお見合いは効率と聞こえはいいが、本人が本当に幸せになるとは限らない。そこを知らない母上が悪い」
幸に論破され、さすがに頭に来た。タブレット端末を破壊しようと、床に叩きつけたが、目の前で消える。
これは功が持つ能力。机には転移したタブレット端末が置かれていた。動画は再び再生され、寿の笑顔がイラつかせる。
そういえば、死音の動画で思い出したことがあった。その動画は、前回のライブの際、会場の外で取られた謝罪動画だった。
『わ、私……。小さい時からいじめられてて……。両親も祖父母もいなくて……。小学校からずっと自分で料理して、自分なにやってるんだろ? 生きていていいのかな……って。だから、普段から自殺願望はあるから――』
「――ただ、推し活だけが……ライブだけが頼りで、生きがいの一つだった……。信用できないわね……。あんな不幸な人が推し活に走るはずがない。推し活は幸せな人がするもの。あんな女。気に入らない。柊プロダクションでは敵ね……」
秘書にタブレット端末を返すと、幸と功は部屋から出ていった。それもそうよね。私と意見が対立したのだから彼らも敵。
アイシス・ラグナロクは解散必須……。これも仕方ない。ブランドを守る為にも犠牲は必要。後日解散ライブを計画すると決めた。
私はスマホでSNSを開く。トレンドを確認すると、上位に『#アイラグ寿祝結婚』と書かれたタグが。
その下に連なるのは『#アイラグ寿不倫疑惑』『#寿不倫浮気疑惑判明』『#円満に別れました』『#寿死音入籍報告』と寿に関するタグで占領されている。
最初のタグを確認すると、完全に賛否分かれていた。祝福する者と批判する者。だけど、どちらかというと前者が多い印象だ。
「ほんと。小賢しい虫ね……。さすがに寿には暗殺などできない。ここは彼女が持つ自殺願望に任せるしかないわ……」
『柊社長。自殺願望に任せる――とは?』
秘書が私に問いかけてくる。そうね……。まずはどう自殺したい意欲を増幅させるか? それが重要になってくる。
窓を見る。ブラインドが下げられていて、そこから外の風景を眺めた。夕焼けが綺麗だ。こんな世界にこそ、あの女は似合わない。
死を案じる名前なのに、明るい世界を見ようとするのはなぜ? 理解不能ね。不幸には不幸がお似合い。それは生まれた瞬間から決まること。
寿が交際相手と別れてまで……。いいえ、そこを考えても、何も進まない。何年この業界で活躍しているの……。私の顔パスは自由に近いから余裕よ。
「秘書さん。スタッフを呼んできてちょうだい」
「かしこまりました」
秘書が部屋から出ると、スタッフが駆け込んできた。最後尾から秘書も戻ってくる。
「スタッフは全部で5人のはずだけど、一人足りないわね……」
「それでしたら、佐藤様は幸さんと功さんをご自宅に向かわせています」
「そう。わかったわ。このメンバーで進めましょ」
「承知しました」
私は引き出しからパソコンを取り出し、動画アプリを開く。別に秘書が持っているタブレット端末でも構わないが、この人数ではこっちの方がいい。
池田死音と検索すると、複数の動画が出てきた。そこからどれでもいいので、一つ再生する。
その動画を見たスタッフはみな爆笑していた。不幸を笑う。それが、彼らにとって受けたらしい。
「この方面白いですね……。死亡寸前のところで救われて、ハラハラドキドキが止まらないです」
若手の男性スタッフがそう言うと、ほかのスタッフもうんうんと頷いた。どうも反応がしっくり来ない。
「ふーん。そういうのがいいのね……。ならこうしましょ。彼女をよりリアルな死亡シーンにさせるため、計画を立ててきて貰えるかしら?」
「この方を殺されるのですか? なんともったいない。ぜひこの事務所に――」
「入れるわけがないじゃない。不幸配信なんて、ブランドを落とすだけよ。作戦は即日決行。次回配信が出ているわね……。近くのスーパーで買い物配信……。ここで決めるわよ」
「分かりました!」
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次回。『集合柊兄弟!』
寿の兄弟全員集合!!主人公尊死します




