第2話 柊死音のネガティブ配信!
「なあ、死音。そろそろ配信の時間じゃないか?」
「え?」
「ほら、ネガティブ配信」
時間を見ると、午後6時。外を見ると薄明るい空が広がってて、オレンジと群青が混ざりあっていた。
「日。長くなったな……」
「う、うん……」
私の気持ちを逸らすためか、関係ないことを言ってくる寿。その表情はとてもスッキリしていて、アイドルスマイルとはまた違う一面を見せていた。
にしても近い! 近すぎる! さっきの抱きつき直後だったので、身体が目と鼻の先なんだけど。このままフォーリンラブしちゃう?
というよりも、毎度言うけどこのビジュよ。年齢不詳でいくつかは知らないけど、かっこよさが勝って、心臓死にかけてますから!
「俺お前の配信好きでさ。お前の動画を拡散したのは俺なんだぜ?」
「ふええええええええええええええええ!!!!」
「な、なんだよ……急に奇声あげやがって……。仕方ねぇなぁ。今日は俺も参加してやる」
そ、そんなの無理ですー! 絶対無理。無理無理無理無理。尊い推しが私と共演。マジでありえない状況なんですけど!
って待って、寿も参加!? それ事件になりそうな予感しかしないんだけど……。それでもいいなら……。
「んじゃ。さっさと準備しろ」
「は、はいいいいいいいいいいい!!!!」
私は慌ててパソコンとスマホを用意した、テーブルの上にセッティングを開始。スマホを何度も滑らして、タブレットを倒して。
ドタバタな準備が始まった。対して寿は床に散乱したポテチをつまみ食いしながら、片付けをしている。
それ私が食べる予定だったやつだからねムッキー! 今度やったらその特殊能力封じこんでやる!
こっちは準備で忙しいのに! そう思いながら超高速で歯磨きと洗顔。ぐちゃぐちゃの髪を整えて、用意完了!
部屋に戻ると床はピカピカ。だと思ったのだが……。寿がポテチの油を落とすために中性洗剤を撒いていて、そこで滑って転ぶ私。なんと滑稽な!
オートでカウントダウンをしていたので、もう既に配信はスタートしており……。
「みみ、皆さん……! こんにちは……。池口死音のネガティブ配信……にようこそ……!」
――『今日の死音挙動不審だけど大丈夫?』
――『また怖いことでも起こったのかな?』
視聴者からの心配の声。人数はどんどん増えていき、惨めな姿の私が拡散されていく。
スマホでSNSを見ると、もう既に私の配信タグがトレンド入りをしていた。
「さっき……大胆に転んでしまいました……」
そりゃそうだよ。まさか床に洗剤が撒かれているとは思わなかったもん。せっかくセットした髪はボサボサに逆戻り。
後ろ髪なんてテッカテカに光ってる。配信が終わったら即お風呂に入ろう。そう思った時、気になるコメントが飛んできた
――『そういえば、『アイシス・ラグナロク』の配信中止になったらしいぜ? どうも無許可で配信しそうになったんだってよ! 不幸神現るってな!』
――『それわかる。死音さんの不幸度は誰にも負けないくらい大胆で面白いからね!』
「わわ、悪口……ですか……。そ、そう……ですよね……。私。絶対的不幸持ちだから……。可愛くないし……超絶ブスだし……」
自分のネガティブオーラが充満していくのがわかる。その都度。自分を落ち着かせるために寿を見る。
だけど、余計に緊張してしまい。どうしようもなくなってきた。今回の配信は爆死確定必至の事故配信だ……。
そんなの嫌。成人年齢超えて収益化できるようになったのに、収益化可能配信一発目で事故ってるとかマジで残念賞なんだけど!
すると寿が私を指差し『そろそろ画面映っていいか?』と聞いてきた。思わず『うんうん』と首を振る。
「きょ……。今日は……。重大な……は、発表が……あります……」
――『なになに? 重大な発表?』
――『なんか嫌な予感しかしないんだけど……』
一人の視聴者が興味を持ってくれたが、他の視聴者は事件を求めているらしい。まあこれから発表することが、まさに事件なのだが……。
「――死音?」
「ちょっ!」
――『うわっ! さっきなんか甘い声聞こえて来なかった?』
――『聞こえた聞こえた! どこかで聞いたことのある声だよね』
寿が登場する前に彼の声が流れてしまった。こうなったらと、私は画面から外れて寿をまるで物を引き摺るかのように引っ張ってくる。
すると、コメント欄が高速で動き出した。ハッシュタグでのコメントも暴走を開始する。こんな勢いは今まで見たこともない。
寿は嫌味たっぷりな顔をしていた。ちょっと怒り気味? それだったらマジでゴメンなんだけど。でも、私が彼の右頬を引っ張ると機嫌を取り戻す。
「紹介します! 柊寿さんです!」
「どうも……」
――『柊寿!? なんで死音の家にいるんだよ!』
――『不幸の神と幸運の神が同時に見られるなんて神回確定じゃね?』
――『いやいやいや。絶対似合わないって。けど、寿王子って婚約者いるって言ってたよな。まさかの不倫か!?』
ここで、『#寿不倫疑惑』というタグがトレンド入りを果たす。このままでは寿が悪者扱いされてしまう。
「つい先日元交際相手とは円満に別れました。その後彼女、死音と即結婚し――」
「寿ー。早まりすぎだって!」
「だって事実だろ?」
「そうだけどー」
このタイミングで今度は『#ネガティブ配信者死音アイラグ(アイシス・ラグナロクの略)寿と結婚』というタグが秒速で上がってトレンド1位にのし上がった。
バスってるの? 炎上してるの? タグをタップしてみると、嬉しいメッセージとは裏腹に、寿への批判と不倫タグの併用がたくさん流れていた。
これ絶対アウトじゃね? 寿事務所残れるの? このままアイラグ卒業して芸能界引退待ったなしなんだけど!
大丈夫なのかな? 問題ないのかな? スキャンダルにならなければ――むしろもうスキャンダル確定だよね?
「今日の配信は大成功だな」
「大成功どころじゃありません! 大大大事件です!」
――『なんか喧嘩してない?』
――『こんな存在感ある死音初めてかも』
――『ネガってちゃん配信終了の兆しか?』
視聴者の考察は止まらない。タグを量産していって、トレンドの10位までが全て私と寿に関連した内容で埋まっていた。
「ってことで、俺の妻になった死音です」
「よ、よろしく……お願いします……。そして、もう一つ重要なお知らせが……。寿」
「明日より本チャンネル名を、『池田死音のネガティブチャンネル』から、『柊死音のネガティブチャンネル』に改名します。俺もちょくちょくおじゃまするので、よろしく」
そうして、今日の配信が終わった。床をもう一度濡らして水拭きをしたあと、私はお風呂に入る。
寿はIHなら料理ができると言うので、夕食の準備をお願いした。今日はイケメン旦那の手作りメニューだ。
ただなぜ寿はIHじゃないと料理ができないのだろうか? そこだけが疑問なんだけど……。
「死音。早く風呂出ろー。料理できたぞー」
「はーい」
浴室から出て身体を拭き始めると、ひょこっと寿が顔を出した。なんか監視されてる? ストーカー気質?
そんなのマジ勘弁なんだけど! そんなこんなで着替え終わって、リビングに向かうと、サラダや肉。魚などのバランスのいい食事が並んでいる。
寿の料理はどれも美味しそうで、いつも真っ茶色なものしかたべない私とは、全然レベルが違った。
同棲生活1日目。これにて終了。明日は2人で買い出しだ。
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次回。『久江の作戦』
死音をよく思わない寿の母親は……。




