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あっちがわシリーズ(仮)  作者: 七瀬みる


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4/4

あっちがわの二人

シリーズ四作目。

三作目の直接のつづき。

本格的な冒険にそなえて、年長組の登場です。

メインプロットはこの年代でたどっていくことになりそう?

(といっても、長編ではなく、あくまで連作短編形式なので、年少組メインのエピソードもまぜていくことはできるかも?)

今回も、「時計塔」はじめ設定開示が徐々に進行。その場のノリでつくった単語とかがあとで破綻しないことを祈るばかりです(汗)

とりあえず、トカゲは今後もわりと重要人物になりそうな気配……?


 おばあちゃんは、やっぱり《あっち》の人でした。

 そのうえトキモリか何かいうイチゾクでした。

 それだけ、教えてもらいました。

 でもそうすると、また、わからないことがでてきます。

 おばあちゃん、どうして《こっち》にきたの? どうやって? 《こっち》で何してるの? 《あっち》に行くこともあるの? 自由に行き来できる?

「さあてねえ……」

 結局、教えてくれませんでした。

「まあ、そのうちにね」

 そういって、ため息をついたおばあちゃんは、なんだか、ずいぶん、疲れているみたいに見えました。

 なので、みっちゃんも、とりあえずその場はひきさがりました。

 でも、納得したわけではありません。

 帰り道。からっぽのランドセルしょって、腕をくんで、

「うーん」

 あるきながら、まだ、考えていました。

 その途中で、ケンタロに会ったのです。


 ケンタロは幼稚園いちばんのいたずらっ子。ひらたくいえばワルガキです。

 白いイモムシなんかほりだしてきて、いやがる女の子に見せつけたり。ナンテンの実を根こそぎちぎってきてバラまいたり。ひとのお絵かきに横からラクガキしてきたり。そんなことばかりやっています。

 せっかくの春休みなのに、こんなところで会うなんて、ついてません。

「ちっ」

 みっちゃんはかるく舌うちしました。

 するとかえってケンタロはからんできます。

「なんだよ、その顔」

「うるさいわね。もとからよ」

 ムカッとしたケンタロの顔が、でも、つぎの瞬間、おもちゃを見つけたみたいに、かがやきました。

「あー、こいつ、ランドセルなんか、しょってらあ」

 まだ学校なんてはじまってないのにぃ、よろこんじゃってえ、お子ちゃまだなあ――なんて、はやしたててきます。

 みっちゃんは、無視無視。聞こえないふり。そのままさっさと歩いていきました。

 でも、そうすると、ケンタロはかえってしつこくくいさがってくるのでした。

「ようよう、返事しろよー」

 みっちゃん、イライラ。こめかみがぴくぴく動いて、お口をぎゅっとむすんで、すたすたすたすた。思わず、お家もとおりすぎてしまいました。

「おいおい、どこいくんだよ。おまえんちここだろ」

 なんていいながら、ケンタロはついてきます。

 みっちゃんのー、ランドセルのー、中身はなになになあにー、なんだろなー、なんて、へんな節回しがきこえてきます。が、無視無視。相手なんかしていられません。みっちゃんはずんずん歩いていきました。

 するとそのうち、そのケンタロの声が、すうっと遠ざかっていったのです。

「あれ?」

 みっちゃんは立ちどまりました。

 ケンタロがそんなアッサリしてるはずありません。

 でも、ふりかえってみても、やっぱり、ケンタロの姿はどこにも見えないのでした。

「へんねえ」

 首をかしげた、そのときでした。

 ポケットのなかから、音がきこえてきました。

 もう何度もきいたことのある、耳慣れた音です。

 ついさっきも、おばあちゃんちの和室できいたばかりです。

 みっちゃんはポケットをがさごそ――懐中時計をとりだしました。


 チッチッチッチッ

 チッチッチッチッ


 小さな音をたてて時計の針が動いています。

「えー、またなのお」

 みっちゃん、ちょっとげんなり。

 でも……

「へんね?」

 見まわしても、あたりは、いつもと同じ住宅街。しばらくは曲がり角もありません。《あっち》への入口なんて、どこにも見あたらないのです。

 なのに、手にした懐中時計は――チッチッチッチッ――動きつづけています。

 それは、おばあちゃんにもらった懐中時計。《あっち》とつながるタンマツです。ふだんはぴくとも動かないけれど、《あっち》への道があらわれたときだけ、こうして動きだす――はずなのです。

 そのタンマツが、どこにも《道》が見あたらないのに、動きだすなんて……そんなの、これまでにはなかったことでした。

「こわれたかしら?」

 みっちゃんは首をひねりながら、そのまま歩いていきました。

 するとばったり、見おぼえのある男の子に、出会ったのです。


「あ、トカゲ」

「だれがトカゲだ、だれが」


 みっちゃんが指さすと、その男の子はこぶしをふりあげておどしました。

 小学生くらいの男の子です。三年生? 四年生? もっと上? その顔は、さっきわかれてきたばかりの砂山の男の子に、そっくりです。

 でも、むこうはサッパリみっちゃんに見おぼえがないみたい。

「……トカゲじゃないの?」

「ちげーよ、だれだよ、ひでーあだ名だな、おい」

 男の子はすごみながら顔を近づけてきます。

 みっちゃんが、ちょっとタジタジとなった、そのとき――

「あんたのことでしょ」

 だれかが、男の子の後頭部にツッコミを入れました。


 そこにいたのは、男の子と同じくらいの年ごろの、おねえさんでした。みっちゃんに手をふって、「はあい」かなにかいっています。はじめて会うのに、ずいぶんと親しげです。

 でも、ゆっくり話をきくことはできませんでした。

 後頭部をおさえた男の子が、こんどはそのおねえさんにくってかかっています。

「ってーな、なにしやがる」

「なによ、ちょっとなでてあげただけでしょ」

「ウソつけ、サツイを感じたぞ、サツイを」

「……じょうぶな頭よねえ」

 中身はカラッポなのに、とかなんとか……これはおねえさんは横をむいて小声でぼそっとつぶやきました。

「きこえたぞ」

「きこえるようにいってんのよ」

「おま――」

 絶句する男の子に、にやにやわらうおねえさん。

 それまで黙って二人を見ていたみっちゃんが、首をかしげて、

「……なかよしさん?」

 と、ききました。

 二人は同時にみっちゃんを見て、同時に叫びました。

「ちげえーよ!」

「ちがうわよ!」

 息がピッタリでした。


「あー、もう、さっさといきなさいよ」

 おねえさんは、男の子にむかって、しっしっと手をふりました。

 そして、みっちゃんの手をとって、歩きだしたのです。

「いくわよ」

 みっちゃんはとまどいました。でも、いつものことといえば、いつものことです。とりあえず、ついていくことにしました。

 でも、邪険にされるとかえってつきまとってくるのは、その男の子もケンタロといっしょでした。

「なんだよ、ごあいさつだな」

 いいながら、ついてきます。「ようよう、どこいくんだよー」なんて、いってることまで、さっきのケンタロそっくりです。

 男の子って、みんなこんな感じなのでしょうか?

「あーもう、ついてくんな」

「いいじゃねえか、ひまなんだし。っていうか、おまえら、知り合いかよ」

「うるさいわね。どうでもいいでしょ」

 おねえさんは本気でうるさそうですが、男の子は知らん顔。「ふむふむ」とかいいながら、みっちゃんの顔をのぞきこんできます。

「そういや、おまえら、へんに、似てね? 似てるっていうか、どこかで……ん? んー?」

 男の子は眉間にしわをよせると、さらにぐっとみっちゃんに顔を近づけてきました。

「はいはい、じろじろ見ない」

 おねえさんは、男の子の顔を手でおしのけました。

「まきこまれてもしらないわよ」

「お、なんだよ、事件か、事件なのか」

 男の子はかえっておもしろがっています。

 結局、さいごまで、くっついてきてしまいました。


 さいご――というのは、なんのことはない、さっきまでみっちゃんがいた、おばあちゃんのお家でした。

 でも、ふしぎです。

 時計は、まだ、あいかわらず――チッチッチッチッ――動きつづけています。

 しかも、おねえさんは、ポケットからカギをとりだすと、なれた手つきで、玄関をあけたのです。

 おねえさんがおばあちゃんちのカギをもっていることもふしぎなら、おばあちゃんちの玄関にカギがかかっていることもふしぎでした。

 だって、さっきおばあちゃんちから帰るとき、みっちゃんは、カギなんてかけてきませんでした。

 あのあと、おばあちゃんが、かけたのでしょうか? おでかけでもしているのでしょうか?

 みっちゃんは首をひねりました。でも、たずねるひまもありません。ガラガラ。すたすた。おねえさんは、みっちゃんの手をひいたまま、ずんずん、中に入っていきました。男の子も「ちーっす」かなにかいいながら、ついてきます。

 見慣れたいつものおばあちゃんのお家でした。

 でも、ずいぶん暗くて、ひっそりしています。

 やっぱり、おるす?

 みっちゃんは首をかしげました。

 男の子も、首をかしげていました。

「長え廊下だな」

 いわれてみれば、そうでした。

 両側にはいくつもドアがならんでいます。

 おばあちゃんの家には何度もきたことがありますが、こんなにたくさんドアがあるなんて、ちっとも知りませんでした。

 いったい、どこまでつづいているのでしょう。もうだいぶ歩きました。それでも、廊下にはまだまださきがあるのでした。

(ここ、やっぱり、《あっち》なのかしら?)

 いいかげん、不安になってきたころ……

 やっと、つきあたりに行きつきました。

 ついてしまえば、あっという間だった気もします。

 ふりかえれば、すぐそこに玄関があるような気もします。

 それとも、やっぱり廊下はほんとうに長くて、玄関なんてもう見えないくらい遠くなっているのでしょうか?

 ふりかえってみたいような、ふりかえるのがこわいような、両方の気がしました。

 そういえば、トキジクの木に行ったときだって、こんなことがあったような気がします。あれは「結界」のせいでした。

 この廊下にも、そんな結界か何か、はってあるのでしょうか?

 つきあたりのふすまを、みっちゃんは見つめました。

 ふしぎな道具だらけのおばあちゃんのお家。奥のほうには入っちゃだめって、ずっといわれていました。それが、ここなのでしょうか?

 のどがごくっと鳴りました。

 そんなみっちゃんの緊張をよそに、おねえさんは、何のためらいもなくふすまに手をかけ――あけました。

「なんだ、こりゃ?」

 男の子が声をあげました。

 みっちゃんも目をまるくしました。

 お部屋のなかには、にぎやかな音がじゅうまんしていました。


 コチコチ

 コチコチ

 チックタック

 チックタック

 チッチッチッチッ


 時計です。かぞえきれないくらいたくさんの時計が――置いたり、かけたり、吊るしたり――部屋いっぱい所せましとつめこんであって、そのどれもが、いっせいに、チクタクチクタク、音をたてているのでした。

 かけ時計がありました。

 おき時計がありました。

 柱時計がありました。

 腕時計がありました。

 時計、時計、時計――まるで時計屋さんです。

 ひとつひとつは小さい音ですが、これだけの数があわさると、はっきりと聞こえます。どこかに反響もしているのでしょうか。ちょっとした騒音といってもいいくらいです。

 はへー、と、男の子とみっちゃんは、口をあけて見まわしました。

 そのあいだにも、おねえさんは、時計でいっぱいの棚のすき間をぬうようにして、さらに奥へすすんでいきます。

 すき間をぬけると、すこしだけ広い、多少は部屋らしい空間にでました。

 その空間のまんなかにそびえたって、ひときわ目を引くのが、床から天井までとどきそうな、大きな柱時計でした。

 幼稚園でうたったおうたにでてくる「おおきなのっぽの古時計」をもっとうんとのっぽにしたみたいです。

 しかも、それは、ひとつだけではありませんでした。

「はーっ、へーっ」

 男の子が、柱時計のまわりをまわって、しゃがみこんだり、のびあがったり、あちこちのぞき込みました。

「三つもあるじゃん」

 そうです。柱時計は、三つ、背中合わせにくみあわせてあるのでした。上からみたら、きっと三角形になっているはずです。そうして三つの時計がひとつになって、ダイコク柱かなにかみたいに、そそりたっているのでした。

 三つの振り子が、ゆっくり、ゆっくり、同じタイミングで、右へ左へ、ゆれています。

 その動きをみているうちに、みっちゃんのからだも、いっしょになって、ゆれだすような気がしました。そうしていっしょのリズムでゆれていると、なんだか、だんだん、その時計にも見おぼえがあるような気がしてくるのでした。

 見おぼえ、というより、聞きおぼえでしょうか。

 ボーン、ボーン……

 正時をつげるとき、この時計は、きっとそんな音をたてるのにちがいない――それはほとんど確信でした。

「おまえのばあちゃん、時計屋なのか?」

 男の子がのんきな声をだしました。

「ちがうわよ」と、おねえさん。

「じゃ、なんだよ、これ。シュミなのか。コレクションか」

「ち、が、う、わ、よ」

 おねえさんが、はあーっと、ため息をつきました。

 それから、男の子ではなく、みっちゃんのほうをむいて、こたえました。

「ここは、まがいものの《時計塔》。ありあわせでつくった、レプリカよ」

 みっちゃんは首をかしげました。

「まあ、わかんないわよねえ……」

 おねえさんは、天井をあおいで、またかるくため息をつくと、ずいっとからだをのりだして、みっちゃんの顔をのぞきこみました。

「あっちに帰ったら、おばあちゃんにいっといて。どうせまきこむことになるんだから、早めにちゃんと教えとけ――ってね」

 みっちゃんは、じぃっと、その顔を見つめかえしました。

 そして、きいたのです。

「おねえちゃん、だあれ?」

 こたえは、はんぶん、予想どおりでした。

「あたしはあなた。未来のあなた。少なくともその可能性のひとつ」

 おねえさんは、にっと笑いました。

「何年かあと、あなたはあたしになるかもしれない。ならないかもしれない。それはわからない。未来は未確定だからね。でも、過去は確定してる。かつて、あたしは、あなただった。それは、たしか。――だから、ちゃんと帰してあげる。行き先は、あたしが知ってるもの」

 だからちょっと手伝ってね。そういうと、おねえさんはポケットから、みっちゃんと同じ懐中時計を、とりだすのでした。


 よいしょ、と、おねえさんがもってきたのは、小さな丸テーブル。その上に置いたのは……あの砂時計でした。

 ほんとうに「おなじ」砂時計なのか、型式がおなじだけでまた別のものなのか、見た目では区別がつきません。

「でっけえ砂時計だな」

 男の子がなにげなくのばした、その手の甲を、おねえさんがぴしゃりとたたきました。

「さわんな」

 文句をつけようとした男の子は……でも、おねえさんのシンケンな表情をみると、だまりました。

 ふざけていい場面じゃない、って、つたわったみたい。

(いしんでんしん……?)

 みっちゃんは、こっそり、そう思いました。

 口ではケンカばっかりしてるくせに、やっぱり、どこかなかよしさんにも見える二人です。

「こんなとこまでついてきて……どうなってもしらないわよ」

 おねえさんが、ぶつぶついいながら、男の子をジト目でにらみました。

 それから、男の子にはきこえないくらい小さな声で、

「トカゲ野郎」

 なんて、つけくわえてもいたようです。

 くすっと、わらったみたいにも、見えました。

 ああ、そうか。みっちゃんは気づきました。このおねえさんが、ほんとうに、未来のみっちゃんだとしたら――あの砂山のトカゲのことも、当然、知っているのです。

(でも、トカゲのほうは、知らないみたい?)

 忘れている、というより、たぶん、男の子にとっては、あれはまだ起きていない、未来のできごとなのかもしれません。

 なんだか、過去と未来がぐちゃぐちゃにこんがらがっているみたいでした。

「うかつに砂時計なんかひっくり返すから、ヘンなとこまでひっくり返ったのよね。――まあ、ひっくり返したのは、あたしなんだけどさ」

 魔法使いの弟子現象よねえ……おねえさんは、たはは、みたいに、わらいました。

 それから砂時計に顔を近づけて、なにか調べているみたいでした。三年……四年……五年……てことは……なんて、ぶつぶついっています。

「……よし」

 おねえさんが、からだを起こしました。

「なにがどうした?」

 男の子が聞きました。

 うん?と、おねえさんは、こたえました。

「砂時計は時間の長さをはかるでしょう。ひっくり返ったのはその分。ざっと五年くらいよね。まあ、《あっち》と《こっち》で時間をあわせなおせば、たいがい、大丈夫でしょ。たぶん。端末もふたつあるしね」

 男の子は、きょとんとしていました。

 あー、わかんなくていいから、と、おねえさんは、めんどくさそうに手をふりました。


「仮の座標を定めるわよ。こっちとそっちで区切るから」

 おねえさんとみっちゃんは、砂時計をはさんで、丸テーブルの反対側に立ちました。

 それから、現在時刻をチェック。

「二時四十分ね。じゃ、三時に合わせようか」

 懐中時計の裏には、穴がふたつあいています。

 ひとつはゼンマイ、もうひとつが時刻合わせです。

 いつも、《あっち》で巻くのは、ゼンマイばっかりでした。

 でも、今回は、時間も合わせておくみたい。

「おたがい、そっちとこっちの三時に、それぞれジャンプするわよ」

 そんな使い方ができるのか。みっちゃんはすなおに感心。くりくり回して、時間をあわせました。

 あとはゼンマイを巻くだけです。

 と、そのまえに……

「あんたは、あたしに、だきついてなさい」

 おねえさんが、男の子にいいました。

「うおぇっ!?」と、男の子がヘンな声をあげました。

 キョトキョト、キョロキョロ。あっちへ、こっちへ、いそがしく視線をさまよわせながら、いや、その、なんだ、と、しどろもどろ。顔がまっ赤になっています。

 おねえさんの顔もまっ赤でした。

「うるさい。そうしないと、迷子になるでしょうが」

「なんだよ、意味わかんねーよ」

「うるさい、うるさい、うるさい!」

 おねえさんは、地団太をふみました。

 おちつけ、と、男の子がおねえさんを押さえつけて……しばらくジタバタ。結果、うしろから抱きしめるかたちになりました。

 男の子の腕の中で、うーっと、おねえさんがうなっています。

 みっちゃんは、そんな二人を、じとーっ、と見つめました。

 なかよしさんにもホドがあります。ほんとに未来のみっちゃんなのでしょうか。そして、男の子は……?

「こほん」

 おねえさんがわざとらしく咳ばらいをしました。

「さ、巻くわよ」

 二人はゼンマイを巻きました。

 同時に、いっしょに、巻きました。

 カチカチ、カチカチ……

 カチカチ、カチカチ……

 時計は二つ。音も二つ。カギは自前の真鍮製。いつもとすこしちがいます。でも、ほかはぜんぶ、いつもどおり。さいしょは軽快だったゼンマイが、だんだん重くなって、ついには、まわらなくなりました。

「いっぱいだわ」

「いっぱいね」

「じゃあ、もう」

「いいでしょ」

 いっせーの。同時にカギをぬきました。

 同時に時計をひっくり返し、同時にフタをあけました。

 二つの時計が、同時に、ふるえはじめました。


 チッチッチッチッ

 チチチチチチチチ

 チーーーーーーー


「なんだ? なんだ?」

 男の子がおねえさんの肩ごしに文字盤をのぞきこみました。

 秒針がものすごいいきおいで回っています。

 懐中時計だけではありません。

 柱時計の針も、ぐるぐる回っていました。

 それ以外の時計もです。

 あれも、これも、どれも、それも――気がつけば、部屋にある時計の針の全部が全部、クルクル、クルクル、ものすごいはやさで回っているのでした。あるものは右まわりに、あるものは左まわりに。

「なんだ、これ!?」

 男の子が顔をあげて叫びました。

 みっちゃんも、ポカンとしました。

 部屋にじゅうまんする時計の音も、さらにいっそうの騒音になっています。

 チクタク、ゴウゴウ、コチコチ、グワングワン――

 男の子が耳をふさぎました。「はなすな!」と、おねえさんがその手を引きもどしました。

「迷子になるわよ」

 ぎゅっと、自分から男の子のからだに腕をまきつけます。

 みっちゃんも耳をふさぎました。でも、たいしたききめはないみたい。あんまり音がすごすぎて、鼓膜そのものが振動しているみたいに、ジンジン、ガンガン、するのでした。

 落ちついているのは、おねえさん一人でした。

「はじまったわ」

 そういって、砂時計を見やりました。

 見ると、砂時計の砂は、動画を逆再生したみたいに、下から上へ、のぼっていくのでした。

「重力、仕事しろよ!」と男の子が叫びました。

「時間が仕事してんのよ!」とおねえさんがいい返しました。

 そのあいだにも、砂はやすむことなく動きつづけ、どんどん、上にたまっていくのです。

「端末をしっかりにぎっておきなさい。元の時間を見失わないように」

 おねえさんがそういい終わるまもなく――

 すべての時計の針が、三時の位置で、止まりました。

 とたんに、


 ボーン

 ボーン

 ボーン


 世界ぜんぶが鳴り響いているみたいな、ものすごい音――というよりショウゲキ波――が、ほとんど物理的な力で、たたきつけてきて……

 みっちゃんのからだも意識も、どこかへ吹きとばされていくみたいでした。


  ※


 どれくらい気を失っていたのでしょう。

 気がつくとなんのヘンテツもない、ふつうの和室でした。

 砂時計も、柱時計も、ありません。

 部屋いっぱいの時計もです。

 そうして、おねえさんも、男の子も、いないのでした。

 みっちゃんは懐中時計を見ました。針は三時でとまっています。もうぴくりとも動きません。

 ふすまを開けて、おばあちゃんが入ってきました。

 手にお盆をもっています。

 お盆の上には、急須と湯のみ。

 おばあちゃんはなにもいわず、お茶をいれてくれました。

 ふつうの緑茶でした。

「ニガイ……」

 みっちゃんは、うーっと、うなりました。

 ゼータクおいいでないよ、と、おばあちゃんがいいました。

「こっちがわのお茶だよ。ちゃんと飲んどきな」

 なんだか、よくわかりません。ただ、そういえば、今回は《あっち》では何も飲みませんでした。

 それでいいんだよ、と、おばあちゃんはいいました。「つながりすぎると、帰ってこれなくなるからね」

 やっぱり、よくわかりません。

「いま、何時?」

 みっちゃんは、ききました。

「三時すぎだね」

「……そっか」

 ちゃんと合わせた時間にとべたみたい。

「あっちの子、なにか、いってたかい」

「どうせまきこむことになるんだから、早めにちゃんと教えとけ――って」

「ふん?」

 おばあちゃんは片方の眉をあげるみたいにしました。

 ふと思いだして、みっちゃんはききました。

「おばあちゃん、おでかけしてた?」

「いいや」

 なるほど。やっぱり。

 おばあちゃんがお留守だったのは《あっち》の話。

《こっち》のおばあちゃんは、ずっと家にいたのでしょう。

(みらい、なんていう《あっち》も、あるのねえ……)

 ヤヤコシイ。そう思いながら、みっちゃんは、また一口、緑茶をすするのでした。

「……ニガイ」


 あとはこっちでやっとくから、はやくお帰り――おばあちゃんがそういって、みっちゃんを送りだしました。

 廊下は、ふつうに短い、あたりまえの廊下でした。

 玄関をでて、帰り道をたどりました。

 行く手に、ケンタロの姿が見えました。

 またかよ、と、ちょっとゲンナリしましたが……

 ケンタロの様子は、すこしヘンでした。

 あっちへいったり、こっちへきたり。うろうろ、きょろきょろ。落ちつきがありません。なんだか泣きそうな顔もしています。

 みっちゃんは、その顔を見つめながら、ちかづいていきました。

 みっちゃんに気づいたケンタロが、いっしゅん、ぱっと顔をかがやかせて……それから、われにかえったように、ぐっと表情を引きしめました。

「どこ行ってたんだよ」

 怒ったように、いいました。

 でも、顔は泣き笑いみたいです。

 みっちゃんは、その顔を、見つめつづけました。

 なんだよ、おれの顔になにかついてんのかよ。ケンタロがくちびるをとがらせます。

 みっちゃんは、ただひとこと、

「トカゲ野郎」

 ぼそっと、そういいました。

「だれがトカゲだ、だれが!」

「あんたのことでしょ」

 みっちゃんは、ケンタロの頭にチョップでつっこみをいれました。

「なにすんだこらー!」

 ケンタロがどなりました。

「さんざん心配させといてこれかー!」

「へー、シンパイしてたんだ」

 みっちゃんがにやにやすると、ケンタロの顔が赤くなりました。

「な、そ、だれが……!」

「だれもたのんでないわよーだ」

 べー。

 みっちゃんは、くるっと背中をむけて、かけだしました。

 ケンタロは、ムキーってなりました。待て、こら、今日こそは、とかいいながら、追いかけてきます。

 みっちゃんはわらいました。なんででしょう。さっきまではメンドクサイだけだったのに。いまはなんだか、ちょっと、たのしいのです。

「こーこまーでおーいでー」

 なんて、からっぽのランドセルをゆらしながら、はしゃいでみたりも、するのでした。


いかがだったでしょーか。


前回、時守だの時間の裏側だの、一部設定を提示しましたが……

時間が一直線だと、リアリズムの軸線からそれるのがムズカシイので……

時間の分岐≒パラレルワールド設定を導入。

ときじくの木だの記憶の森だの、魔術的なものもなんとかこじつけられるようにしたいかな、と。

どうやって「管理」しているのか謎ですが(汗

何でもありになりすぎないようにしたいところ。


なりすぎない、という意味では、ケンタロ&みっちゃんも、本来、童話・児童小説なわけで、過剰にラブになりすぎないようにしたいですかね。。


今後どう転ぶのか。

五本目にご期待ください。。

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