あっちがわの仮面 6.エピローグ、二つ
気がつくと、健太郎とみち子は、みち子の家のすぐ前に、手をつないで、立っていました。
からだは、ちっとも、濡れていません。
服だって、ちっとも汚れていませんでした。
豪雨はもちろん、何日も荒野を旅していたことだって、うそみたいです。
そうして、さっきまでは夜明けだったのに、いまは、空はもう赤くもえあがって、ひと足とびに、日の暮れ方になっているのでした。
十二月のつめたい風が、吹いていました。
二人は、どちらからともなく、ほうっと、ため息をつきました。
そうして、つないだ手を……なにもいわず、どちらからともなく、そっと、はなしました。
二人とも、相手の顔を見ることが、できませんでした。
顔が熱い気がしないでもありませんでしたが、たぶん、きっと、気のせいでしょう。それか、冷えのぼせでも、したのかもしれません。
「あー、もうこんな時間」みち子が、きゅうに、大声でいいました。「買い物いかなきゃ」
「主婦かよ」
健太郎は、いつもの調子をとりもどそうとして、いいました。
でも、われながら、キレのわるいツッコミでした。
ただ、そこで、ふと、思いだしたことがありました。
あれ? そういえば……
「なあ」健太郎は、ききました。「おまえの母ちゃんって……」
「なによ」
「その……いなかった、よな?」
みち子の顔色が変わりました。
さっと、一瞬で、白く、血の気が失せたように見えました。
「あたりまえでしょ! いまさら、なにいってんのよ!」
さっきまでの雰囲気がうそだったみたいに、遠慮のない、本気の罵声でした。
いつもどおり?
いいえ、いつもならありえない、むき出しの怒りに満ちた声でした。
それっきりなにもいわず、みち子は、背中を向けました。
一度も、ふりかえりませんでした。
ガチャガチャと、カギをあける音が、いらだたしげに響きました。
バタン、と、ドアが閉まる音も、そのイライラをたたきつけるかのように、乱暴でした。
「なんだよ……」
ひとり取り残された健太郎は、ただ、ぼうぜんと、そうつぶやくのでした。
*
一方、こちらは、五年前――
みっちゃんは、おばあちゃんの家をあとにしました。
頭のなかは、トキモリだの、ジカンノウラガワだの、さっきおばあちゃんに聞かされた、耳慣れないことばでいっぱいです。
からっぽのランドセルしょって、腕をくんで、
「うーん」
あるきながら、まだ、考えていました。
すると、行く手に、ケンタロの姿が見えたのでした。
「あ!」
みっちゃんの顔を見るなり、ケンタロは、ぱあっと、笑顔になりました。
「みっちゃん!」
うれしそうに、かけよってきます。
みっちゃんは、「ちっ」と、顔をしかめましたが、ケンタロはすこしも気にした様子がありません。
腕組みしていたみっちゃんの手を、強引ににぎると、
「みっちゃん、みっちゃん、みっちゃん♪」
うたうように名前を呼んで、上下にぶんぶん、ふるのでした。
さすがに、ちょっと、異常でした。
さらに、そのうえ、
「ごめんね」
なんて、ケンタロは、さっきのことを、あやまりだしたりするのでした。
もう異常どころではありません。正気を疑うレベルです。
「なによ、どうしたのよ」
みっちゃんは、はんぶん、おびえながら、引きぎみに、そうききました。
と、そのときでした。
ケンタロの手に、妙なものがにぎられていることに、いまさらながら、気づきました。
おびえも何も、ふきとびました。
じとーっと、さげすむような目で、そのグロテスクなおもちゃを、見つめました。
そして、
「トカゲ野郎」
ぼそっと、そういいました。
すると、どうでしょう。
「おうよ!」
ケンタロは、力づよく、うなずいたのでした。
「トカゲはかっこいいんだ。太陽を追っかけるんだ。これからは、おれがみっちゃんを、まもるんだ!」
ナンダコイツ……
みっちゃん、タジタジ。
思わず、あとずさり、するのでした。
いかがだったでしょーか。
年少向けとしては、分岐世界の設定が、やや難しいかもしれませんが……
エンデやル=グウィンが少年文庫で通用するなら、これくらいは「児童小説」でぜんぜんOK……だといいなあ、というところです(汗
それにしてもあのやさしいママさんはどこいっちゃったんでしょうねえ?
作者、鬼か(汗
まあ、そのあたりは、また次回以降……
(エピローグといいつつ実はまたこれプロローグですねぇ)
ゆっくりペースですが、今後も書きつづけていきたいシリーズです。
更新のさいは、またオツキアイいただければさいわいです。
まずはここまで読んでいただき、ありがとうございました^^




