表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あっちがわシリーズ(仮)  作者: 七瀬みる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/3

あっちがわの木

 みっちゃんは、よく、まいごになります。

 べつに、なりたくて、なるわけでは、ありません。

《道》のほうから、さそってくるのです。


 おとなは、だれも、しんじてくれないけれど――しんじてくれたのは、おばあちゃんだけだったけれど――この町には、ときどき、ヘンな道が、あらわれるのです。


 いつもはピッタリくっついて、すきまなんかこれっぽちもなかったはずの、あの家と、この家の、へいの、あいだに――

 腕いっぽんぶんくらいの、すきましか、なかったはずの、あのビルとこのビルの壁のあいだに――

 いつもは立ち入り禁止のかんばんと、トゲトゲのはりがねで、とおせんぼしてある、工事現場のすみの草むらに――

「まえからずっとここにありましたけど、なにか?」

 みたいな、すました顔をして、あるはずのない道が、ぽっかり、口をあけていたり、するのです。


 それは、《あっち》の世界につながる道。

《あっち》の世界の入口です。

 しっているのは、みっちゃんと、おばあちゃんだけ。

 それでも、たしかに、それは、あるのです。

 そうして、みっちゃんを、さそいこもうと、するのです。

《あっち》に、つれていこうと、するのです。


 困ったもんだ、と、おばあちゃんは、いいました。

 でも、みっちゃんは、そんなにイヤってわけでも、ありません。

 どっちかというと、わくわくします。

「こっちだよ、こっち」

「このさきが、きにならない?」

「ここをぬけるとねぇ……」

 なんて、声がきこえるわけではないけれど、そういわれているような気がします。

 だれかに、呼ばれている気が、します。

 なんだか、やけに、なつかしい気だって、するのです。

「だから、よけい、こまるんだよ」と、おばあちゃんはいいますけどね。


 それに、みっちゃんが、あんまり、まいごになってばかりだと、ママが心配してしまいます。

 まっさおな顔のママが、みっちゃんをだきしめて、おおごえで泣いてしまいます。

 おとなのママが、泣くなんて、ヘンな感じです。

 そんなときは、せっかくママにだっこしてもらっても、いつものふんわりやさしい感じとは、ぜんぜんちがって、あんまり、うれしくありません。

 それは、たしかに、こまるのです。


 それで、おばあちゃんが、いったのです。

「しょうがない、これを、わたしておくかね」

 それは、ぎん色の、ふるい、かいちゅう時計でした。

 いつもは、とまったまま、ピクリともうごきません。

 ママは、こわれてるんだと、思っています。

 でも、みっちゃんは、知っています。

 近くに《あっち》の道があらわれたときだけ、チッチッチッチ……その時計は、きゅうに、うごきだすのです。

 そして、どうやってか、わからないけれど、きっと、みっちゃんを、たすけてくれるのです。

 

 その日も、そうでした。

「いってきまーす」

 みっちゃんは、げんきに、おでかけしました。

 お昼ごはんの、おすそわけ――おばあちゃんちに、おつかいです。

 おばあちゃんは、ママのママ。

 ご近所に、ひとりで、すんでいます。

 あたらしいおうちを建てるとき、いっしょにすめばいいのにって、パパも、ママも、いいました。

 でも、おばあちゃんは「すうぷのさめない距離」とかいって、昔からのふるいおうちに、残ったのです。

 みっちゃんのおうちの、おとなりさんの、おとなりさんの、おとなりさんの、おむかいさん。

 とほいっぷん。

 いくらみっちゃんでも、まいごになるはず、ありません。

 ママもそう思ったのでしょう。

 心配しながらも、みっちゃんを、しんじて、ひとりで、いかせて、くれました。

 でも、そこは、みっちゃん。

 その日も、ちゃんと、あるはずのない道を、見つけてしまったのです。


 かよいなれた道を、とちゅうまで、来たときでした。

 ポケットのなかの、かいちゅう時計が、いつもどおり、チッチッチッチッ――音をたてはじめました。

 とりだしてみると、ふだんはとまっている、はりが(とくに、びょうしん、っていうやつが)、うごいています。

 みっちゃんは、あたりを、みまわしました。

 すると……

 ありました。

 いつもはぴったりすきまのない、おとなりさんのおとなりさんのアカメの垣根と、そのまたおとなりさんのガレージのあいだに、あるはずのない道が、ぽっかり、口をあけているのです。

 なんのへんてつもない、ふつうの道に、見えました。

 だけど、時計をみると、あいかわらず、チッチッチッチッ――

 ふだんはぴくりとも動かないくせに、じゅんちょうに動きつづけています。

 だから、つまり、そういうこと。

 だれかが――なにかが――呼んでいるのです。

 道のおくから、かすかな声が、きこえてくるような気が、しなくもありません。

 といっても、耳にきこえる音では、ないのですが……

(うふふ)

(あはは)

 なんだか、たのしそう?

「うーん」

 みっちゃんは、すこしだけ、かんがえるふりをしました。

 でも、もう、こころは、きまっているのです。

「……ぴょん」

 長ぐつで、みずたまりを、踏んづけるときみたいに、じゃんぷ、して、その道に、はいりました。


 最初のうちは、アスファルトの普通の道でした。

 でも、いつのまにか、ホコリっぽい土の道にかわっていました。

 まわりは、背の高い、夏草が、おいしげる、原っぱです。

 道にそって、木のくいが、ならんでいて、トゲトゲのはりがねが、はりわたされています。

 そのほかには、なんにも、ありません。

 あおい空と、おひさま、だけです。

 ちょっと、退屈な、道かしら?

「でも、道なんだから、そのうち、どこかには、つくでしょう」

 みっちゃんは、そう思って、あるきつづけました。


 行く手に、おおきな木がみえてきたのは、そのあと、しばらくしてからでした。

「ほらね、道は、どこかには、つながっているものなのよ」

 みっちゃんは、その木をめざして、あるきつづけました。

 でも、いつまでたっても、近づきません。

 いったい、どれだけ、遠いのでしょう?

 あたまのうえから、夏のおひさまが、カンカンに、照りつけてきます。

 さすがのみっちゃんも、いいかげん、ねをあげてしまいそうでした。

「こんなにはっきりみえているのに、こんなにとおいなんて、いったい、どんなタイボクなのかしら?」

 ハッハッハァ、と、笑い声がきこえたのは、みっちゃんが、あきれて、そう、つぶやいたときでした。


「いつまであるいても、あの木には、たどりつけんよ」

 ふりかえると、ひとりのおじいさんが、ニコニコわらって、立っています。

「つけないって、どうして?」

「結界がはってあるからさ。おじょうちゃんは、ずっと長いこと歩いてきたつもりじゃろうが、ほんとうは、まだ、ほんの、にさんメートルも、すすんでいないんじゃよ」

 ほら、と、おじいさんが、うしろを指さしました。

 ふりかえると、土の道は、みっちゃんの、すぐうしろで、アスファルトほそうの道に、かわっています。

 その道の両がわは、いまもまだ、ご近所さんの、アカメの垣根と、ガレージ、なのでした。

 みっちゃんは、うへぇ、ってなりました。

「そういうことは、もっとはやくいってほしかったわ」

「はっはっは、すまんすまん。これでもすぐにかけつけたんじゃが。なにしろ、あれは、ときじくの木じゃからなあ。時の流れが、ままならんのじゃよ」

 さあ、これをお飲み、と、おじいさんが、コップをさしだしました。

「ねっちゅうしょうに、ならんようになあ」

 コップの中には、すきとおった、きんいろの飲み物が入っています。あまい、さわやかなかおりがしました。

 みっちゃんは、きゅうに、とんでもなく、のどがかわいていることに、気づきました。

 コップを受けとると、ごくごく、のみほしてしまいました。

「おいしー」

 ミカンみたいな、レモンみたいな、それより、ずっとあまい、おいしい、ジュースでした。

「元気がでたかね」

「うん。ありがとう」

「それじゃあ、元気になったところで、ひとつ、おねがいを、きいてくれんかね」

「おねがいって?」

「なに、かんたんなことじゃよ。ゼンマイを、まいてほしいのさ」

「?」

 みっちゃんは、首をかしげました。

 おじいさんは、はっは、と、わらって、くればわかる、と、手をさしのべました。

 そのしぐさが、あんまり自然だったものだから、みっちゃんは、けいかいもしないで、その手をにぎってしまいました。

 そうして、手をつないで、いっぽ、あるくと……

 それだけで、もう、みあげるような大木の、すぐそばに、立っているのでした。


 みっちゃんは、あっけにとられて、口をおおきくあけてしまいました。

 その木は、あんまり、おおきすぎて、近くからだと、全体が、よく見えません。

 幹は、どれだけ、太いでしょう。何人で、手をつないだら、抱えられるのか、けんとうも、つきません。

 うねうねと、もりあがった、根っこだって、みっちゃんには、よじのぼるじしんが、もてないくらい、太いのです。

 みあげれば、これまた太い枝が、何本もはりだして、ジャングルジムみたいに、入り組んでいます。

 そのまわりに、緑の葉っぱが、うっそうと、おいしげっているのでした。

「ときじくの木じゃよ」

 おじいさんが、いいました。

「時のまんなかを、つらぬいている、木じゃ。ここには、はじまりも、おわりも、とちゅうも、ぜんぶ、ある。いつでも花がさき、いつでも実がなり、いつでも枯れて、いつでも茂っている」

 なんだか、よく、わかりません。

 みっちゃんが、きょとんとしているのをみると、おじいさんは、また、ハッハ、とわらいました。


 ごらん、と、おじいさんが、うえのほうを、指さしました。

「といっても、いまは、まだ、見えんかのう」

 みっちゃんは、おじいさんが指さすほうを、みあげました。

 でも、なにをさがしたらいいのか、わかりません。

「みえないわ」

「なに、そのうち、色がかわる。そしたら、わかるじゃろう」

「いろ?」

「サナギじゃよ。この木の葉っぱが、幼生どもの好物でな。幹も枝も、びっしり、おおわれているのさ」

「えーっ」

 そうぞうすると、ちょっと、きもちわるいかも?

 幼稚園には、しろいイモムシなんかとってきて、おんなのこにみせつける、おとこのこなんかもいますけど、みっちゃんには、気がしれません。

 そんなの見せたがるなんて、おじいさんも、やっぱり、おとこのこなのかしら?

 ちょっと、ひいてしまいました。

 ふむ、と、おじいさんが、しろいおひげの、あごを、つかみました。

「チョウチョウは、きらいかね?」

「ちょうちょ?」

 それなら、はなしは、別です。

 みっちゃんは、目をかがやかせました。

 おじいさんは、ニカッとわらって、

「では、てつだって、もらおうかの」


 おじいさんの、おねがいは、ほんとうに、ゼンマイを、巻くことでした。

 カチカチ、

 カチカチ、

 みっちゃんが、カギをまわすたびに、音がします。

「これでいいの?」

「ああ、そのちょうしじゃ」

 みっちゃんの、かいちゅう時計は、うらに、あなが、ふたつあいています。

 まんなかのあなが、じこく合わせ。

 もういっこのあなが、ゼンマイです。

 そのあなに、カギを、さしこんで、まわせば、ゼンマイが、まけるのです。

 でも、いま、みっちゃんが、さしこんで、まわしているのは、おばあちゃんがくれた、カギでは、ありません。

 おじいさんから、あずかった、木でできた、カギでした。

 ときじくの枝じゃよ、と、おじいさんは、いっていました。

「ほんとうに、こんなんで、どうにか、なるのかしら?」

「だいじょうぶ。こまかいことは、時計が、やってくれる」

 そういうものなのか、と、思いながら、みっちゃんは、きりきり、きりきり、ゼンマイをまきました。

 そのうち、だんだん、カギが、重くなって、それ以上、どうしたって、まわらなくなりました。

「いっぱいだわ」

「では、もう、よかろう」

 みっちゃんは、カギをぬくと、時計をひっくりかえして、ふたを、あけました。

 とたんに――


 チッチッチッチ

 チチチチチチチ

 チーーーーーー


 時計が、きゅうに、ふるえはじめました。

「あれ? あれあれあれ?」

 びょうしんが、すごいいきおいで、クルクル、クルクル、回っています。

 それにつれて、いつもは、見えないくらい、ノロノロとしか、うごかない、ほかの二本のはりも、めずらしく、すうーっと、目にみえるはやさで、うごきだすのでした。

「そうら、はじまったぞ」

 おじいさんが、いいました。

 とたんに、

 ボーン、ボーン、ボーン……

 あたまのうえから、むかしの時計みたいな、おおきな音が、ふってきました。

 木のぜんたいが、ふるえて、音をたてているみたい。

 みっちゃんは、あっけにとられて、ぽかんと、口をあけました。

 おじいさんは、わらいました。

 そして、もういちど、さっきみたいに、木のうえのほうを、ゆびさしたのでした。

 みっちゃんは、そっちを見上げて……

 今度こそ、「わあ!」と、こえをあげました。


 さっきまで、ちゃいろいだけだった、幹や枝のあちこちに、きいろい光の点々が、いくつも、びっしり、はりついています。

 その光は、ぶるぶる、ふるえながら、すこしずつ、おおきくなっていくのでした。

 木のぜんたいが、きいろく、まぶしく、かがやいているみたい。

 やがて、いっせいに――

 ザザーッ!

 ザザーッ!

 ザーーーッ!

 音をたてて、そのむすうの光たちが、とびたったのです。

「うふふ」

「あはは」

 たのしそうな、うれしそうな、笑い声が、きこえました。

 そうです。さいしょに、道を見つけたとき、きこえた気がした、あの声です。

 その声は、耳ではなく、みっちゃんのこころのなかに、ちょくせつ、ひびいてくるのです。

 そして、あっというまに、みっちゃんのまわりが、そこいらじゅう、いっぱい、かがやく羽をつけた生き物たちだらけに、なったのでした。

「ちょうちょ!」

 きいろに、黒いふちどりもようのついた、アゲハチョウのむれでした。

 いいえ、ちょっと、ふつうのチョウチョとは、違っていたでしょうか?

 すばやすぎて、こまかいところは、よくみえなかったけれど、そのきれいな羽をはやした生き物のからだは、なんだか、ちいさな人間みたいにも、みえたのです。

 それに、ふつうのチョウチョなら、こんな、きれいに、光ったりしないでしょう。

《あっち》のいきものは、ふしぎです。


「ときじくの葉が、好物なのは、いいんじゃが。なにしろ、時をこえる木なのでなあ。ほうっておくと、いまが、いつだか、わからなくなる。こうして、ときどき、時間を合わせてやらねば、ならんのじゃ。とくに、羽化のころにはな」

 どこかで、おじいさんが、いっています。

 でも、そのすがたは、みえません。

 チョウチョの数が、おおすぎるのです。

 あたりいちめん、いっぱいにうめつくされて、まぶしいきいろ以外は、もう、何も、みえません。

 あんまり、まわりが、まぶしすぎて、目を開けていることも、できないくらいです。

 感じるのは、風と、音と、におい、だけ。

 ひとつひとつは、ちいさな、チョウの羽ばたきが、たくさん、あわさって、ごうごうと、風になって吹きつけてきます。

 その風にのって、うふふ、あはは、と、たのしげな、うれしげな笑い声が、みっちゃんのぜんしんを、なでていきます。

 そしてまた、まぶしくひかる風は、ミカンみたいな、レモンみたいな、さわやかなかおりを、つれてきたりもするのです。

 それは、さっき、おじいさんに、もらって、飲んだ、きんいろのジュースと、おなじ、かおり、だったかもしれません。

 胸いっぱいにすいこむと、すーっとからだが、かるくなって、チョウたちといっしょに、お空にまいあがってしまいそう。

 うっとりして、そのまま、身もこころも、ゆだねてしまいたくなるのでした。


 このまま、どこか、とおい、とおい、とおいところへ……


「おーい、気をつけるんじゃぞ、うっかりついていくと、もどってこれなくなるでなあ」

 どこからか、おじいさんの声がきこえました。

 みっちゃんは、はっと、われにかえりました。

 いけない、いけない。

 それこそ、おそらのまいごに、なってしまいます。

 というか、もう、おそいかも?

 いまはもう、あたりいちめん、まぶしすぎて、なにがなんだか、わかりません。

 みっちゃんの、目のうちがわまで、ひかっているみたい。

 上も下も、右も左も、なんにも、みえません。

 どこへつれていかれたって、これでは、わからないでしょう。

 もしかしたら、とっくのとうに、おそらの上にいるのかもしれません?

「うーん。もしかしたら、ちょっと、こまったことになったのかしら?」

 みっちゃんがそう思いはじめたときでした。

 ハッハッハ、と、また、どこかで、おじいさんが、わらいました。

「時計を、しっかり、にぎっておいで。もとの時間を、見失わんようにな」

 いわれてみれば、なんにもみえない光のなかで、手のなかの時計のかんしょくだけが、ハッキリしているのでした。

 みっちゃんは、ぎゅっと、にぎりしめました。

 すると、チーーっと、すごいはやさだった時計の音が、だんだん、ゆっくりになって、やがて、チッチッチッチ、と、いつものはやさに、もどっていったのです。

 それでいい、と、おじいさんがいいました。

「さあ、手遅れにならないうちに、お帰り。ありがとうよ。お礼に、ときじくの実を、いくらか、もっていくといい。――おばあちゃんに、よろしくな」

 おばあちゃんを、しってるの?

 みっちゃんはふしぎに思いました。

 でも、もう、お返事するひまも、ありませんでした。

 きいろい光が、さーっと、とおざかって――

 それといっしょに、あたりが、すうーっと暗くなっていったのです。


 暗いのは、夕方だからでした。

 お空が、きれいな、あかねいろに、そまっています。

 みっちゃんは、おとなりさんのおとなりさんの、おうちの前に、立っていました。

 アカメの垣根と、ガレージのあいだは、ぴったり、くっついて、すきまなんか、ありません。

 カナカナカナ……と、夕方のセミが、鳴いていました。

「あれ? もう、こんな時間?」

 みっちゃんは、かいちゅう時計を、みてみました。

 びょうしんは、とまって、ピクリとも、うごきません。

 みじかいはりは、ま下よりちょっと左のほうを、ながいはりは、上のほうを、さしています。

 それが、ただしい時間かどうかは、わかりません。

 ただ、このままおうちにかえったら、ママに、叱られそうな時間だってことは、わかりました。

 いったい、どこで、なにをしていたの、なんて、ママのおこごとが聞こえてきそうです。

 おこごとくらいなら、いいですが、まえみたいに、ママが泣いてしまったら、どうしましょう。

 みっちゃんは、あたまをかかえてしまいました。

 こんなとき、たよりになるのは……

「……おばあちゃん」

 そうです。

 おばあちゃんなら、なんとかしてくれるかもしれません。

 というか、してもらうしかありません。

 みっちゃんは、気をとりなおして、タッパーの入ったかばんを、もちなおしました。

 すると、そのかばんから、ふわっと、ミカンみたいな、レモンみたいな、いいかおりが、したのです。

「まあ!」

 ひらいてみて、びっくり。

 かばんのなかには、きれいな、いいにおいのする、金色のくだものが、いくつも、入っていました。

「これが、ときじくの実?」

 そのうちのひとつに、指さきで、ちょん、と、ふれた、そのときでした。

 きいろく光るチョウチョが、すーっと、みっちゃんの顔のまえを横切っていきました。

(うふふ)

(あはは)

 たのしげな笑い声が、聞こえた気がしました。

 もちろん、耳ではない、どこかべつのところで、聞いたのです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ