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『煙の向こうの異世界』第6話 光の契約(完結)

第6話「光の契約」は、森と記憶の物語の一区切りです。

争いを経て、真の調和が生まれる瞬間を描きました。

アニーの決意と大輔の信頼、そして「女神」という存在が象徴する希望の連鎖が、これからの物語を照らす光になるでしょう。


第6話 光の契約 (完結)

森は静まり返っていた。

「記憶の樹」と「森の精霊」の争いが去ったあとの空気は、まるで息をひそめているようだった。

だが、大輔にはその沈黙の中に、いまだ荒ぶる緑の鼓動が感じられた。

「アニー、これで終わったわけじゃないね」

「ええ、大臣。緑の女神が言っていました――本当の試練はここからだと」

アニーの瞳は光を帯びていた。

彼女の胸の奥に宿る「女神の欠片」が微かに輝いている。

それはまるで、森の奥深くから呼びかける声のようだった。

――アニー、あなたに力を託すわ。

――だが、その力を使う時は、心を光で満たさねばならない。

アニーは両手を胸に当てた。

女神から授かった「光の契約」は、森と記憶の均衡を保つ唯一の術。

だが、もし使い方を誤れば、森も記憶も失われ、緑の国は終焉を迎えるという。

「大輔さん、森が……動いてる!」

アニーの叫びに、大地が脈打ち始めた。

根が地表を走り、「記憶の樹」の枝が空の光を吸い上げていく。

翠色の霧の中から、「森の精霊」が現れた。

金の角を持ち、風をまとう神獣のような姿だった。

「我は森を守る者。記憶の樹よ、なぜ人の記憶を喰らう……!」

「我は忘却を司る。記憶があふれれば、森は滅ぶ……!」

互いの声が轟き、大地が震える。

アニーは両者の間に立ち、緑の女神の力を解き放った。

「緑の女神よ、わたしに光を!」

まばゆい光が彼女の手から放たれ、二つの存在を包み込む。

その光は怒りや恐怖を溶かし、穏やかな風となって森全体を撫でていった。

森の精霊も記憶の樹も静まり返り、やがてゆっくりと膝を折る。

森が呼吸を取り戻し、鳥たちの声が戻り、空が晴れた。

大輔はその光景を見つめながら深く息をついた。

「アニー、君は……緑の国の未来そのものだ」

「いいえ、大臣。わたしはただ、緑の女神の声を聞いただけです」

「アニー、いつ記憶の樹が動き出すか心配だ。永遠に成長を止める方法はないのか?」

「緑の女神から聞いたことがあります。その方法は――」

「記憶の樹の根を切ると、樹は小さくなります。」

「希望の大きさになったとき、錆びない永遠の釘を四本、木の幹に打ち込むのです。」

「それで成長は止まります」

大輔はすぐに行動を起こし、希望の大きさに向けて根を切って樹を見た。

「アニー、この大きさで止めよう」

「お願いいたします」

打ち込まれた釘の音が響き、記憶の樹は静かに風を受けて揺れた。

「これで永遠に、緑と記憶が両立できる」

大輔は安堵の息を漏らした。

アニーの微笑みは柔らかく、その背に淡く光の羽が揺らめいた。

遠くではアイビーが森を見つめている。

彼女の唇が動いた。

――「黄金国の時代は、終わるのね……」

そして、森の上空を一筋の光が走った。

それは新しい時代への「契約の光」だった。

後日、大輔は国王へ報告書を携え、「黄金の国」との今後の対応について伺いを立てた。

湖畔の事務所で一息つくと、アニーが微笑んだ。


「大輔さん、わたし、もう女神が乗り移ってるようには見えません?」

「そんなことはないと思うけど……後ろに女神が見える気がする」

「ふふ、一段落しましたね」

二人は村の神社を訪れ、女神の魂を静かに返した。

「緑の女神」は姿を現し、微笑みながら言った。

「緑の発展に努力したアニー。いつでも、あなたが私を必要とするときは来るわ」

その姿が消えると同時に、アニーは以前の明るさを取り戻した。

彼女は大輔の腕に軽く手を添え、二人は役宅へと向かった。

「大輔……私、あなたの世界を見てみたいのです」

「僕の世界?」「前に連れて行ってくれた、あなたの世界よ」

「あなたのお母さまにもお礼を言いたい。

 大輔に教わって成長できた事を伝え、親孝行がしてみたい」

「そいえば、・・・私には女の兄妹はいないから、母も喜びます。」

「一緒に行きましょう」大輔は優しく笑った。


「新婚旅行も行ってないもんね~」アニーは組んだ腕を強く締めた。

穏やかな風が頬を撫で、森の奥で記憶の樹が静かに揺れていた。

それは、新しい緑の時代の始まりを告げる風だった。


この物語は、自然と記憶、人と神の境界をめぐる小さな祈りでもあります。

森の声を聴く心を失わなければ、世界はいつでも再生できる。

アニーと大輔の旅は、これでひとつの節を終えましたが、彼らの前にはまだ「黄金国」との新たな試練が待っています。

――次章にご期待ください。


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