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4話:神の使い、金がない

※神の使い(高校生)、異世界でついに「ヒモ」疑惑が浮上しました。

今回は“ギルド登録編”&“初めてのお宿編”です。

なんでこんなに拝まれてるのか分からないけど、なぜか周りが勝手に伝説を作り始めています。

果たして彼に、人権はあるのか――?


そして――


「計測不能!? 本当に!?」

「古代文字が浮かび上がっただと!? 間違いない……!」


奥の扉がバンッと開いて、慌てて駆け寄ってきたのは――ギルドマスターだった。


彼は屋外の“光の柱”を目撃していた一人。

街中で最も先に「その時」を悟った人間の一人でもある。


「まさか……ここでこの目で……!」


ギルド嬢が戸惑いながら後ろからついてくる。


「え、え? クランブル様、この方って……?」


「……そなたにはわからずとも良い。すぐに応接室を用意せよ」


受付嬢は完全に困惑していた。


受付嬢は唖然としていたが、隣にいた職員が、ピッと直立して深々と頭を下げる。


「……たいへん、失礼いたしました。

こちらでは対応が難しいようですので、応接室にご案内いたします」



背後からは、高級そうな布で椅子のクッションを整える係、観葉植物の角度を調整する係まで現れ、

まるで“王の帰還”を迎えるような空気が漂っていた。



「えっ、あ、いや、別に俺……」


ユウが否定しようとするも、既に背後に控えていた別の職員たちがテキパキと対応を始めていた。


「失礼いたします。お飲み物のご希望はございますか?」

「冷茶に、果実を添えたものを。あとは……ふかふかの椅子を準備!」

「カーテンの角度! 光が直接当たらないように調整を!」


(え、なにこれ!? なんでVIP室みたいな空気になってんの!?)















(……もうダメだ。完全に“崇められるターン”突入した……)


応接室に通された俺は、ふかふかのソファに腰を下ろしながら、天井を仰いだ。



カーテンは絶妙な角度で光を遮り、照明は柔らかな暖色。

足元には厚手の絨毯。

――どう見ても、ただのギルド登録で通される部屋じゃない。



ギルドマスターは慎重な口ぶりで言う。


「先ほどの測定結果、我々の技術では解釈不能でした」

「……ですが、あなたは“その場所”に立っていた」

「その事実だけで、十分です」


(“その場所”って、光の柱の中心ってことだよな……?)


リリィはというと、終始静かに微笑んでいた。

もはや“主”として扱うことに違和感がないらしい。


ギルド嬢は、そんな空気の中でもなお――

「なんか……貴族っぽいけど、なんで応接室なの……?」という顔をしていた。


彼女には見えていない。

空が裂けた瞬間も、光の柱も、降臨も。


だから、彼女にとって俺は――

「見た目がちょっと育ちの良い、謎多き新入り」くらいの扱いなんだろう。


(それがむしろ……妙に現実感あってありがたい)


そんな風に思っていた。


最後にクランブルは立ち上がり、深く頭を下げた。


「あなたにとって、少しでも居心地のいい場所となるよう、最善を尽くそう。

 あなたの在り方が、この世界を大きく動かすと確信している」


「……いや、そんな大層なもんじゃ……」


「その言葉すらも、神の謙遜と取られるのだ」


「めんどくせええええ……!!」






ギルドカードが発行され、俺は再び日常へ戻されようとしていた。


だがその周囲では――

光の柱を見た者たちが、俺を“神の使い”と噂し始めていた。




街の騒がしさから一転、宿屋の中は落ち着いた空気に包まれていた。

どこかレトロな木造の建物に、暖かいランプの光。

空気が落ち着いていて、いかにも“冒険者の拠点”といった雰囲気だ。


受付に立つのは、ちょっと気の強そうな若い女性。

長めの上着と整った顔立ち、そして何より“高そう”なオーラ。


(……上級貴族か、王都の名家筋……?)


彼女はユウの姿を見るなり、一瞬目を見開き――それから妙に丁寧な口調に切り替えた。




「……い、いらっしゃいませ。ご宿泊でしょうか?」


「はい、あの……一泊できますか?」


「お部屋はございます。二名様でよろしいですか?」


「い、一応そうなります……」


そのとき、隣のリリィが一歩前に出て、深々と頭を下げた。


「神の使い様には、このような粗末な宿で……まこと、申し訳ございません……!」


「わああああ言わなくていいからそれぇぇぇ!!」


ユウの心の叫びは、当然誰にも届かない。

受付の女性は「えっ……」と戸惑いの表情を浮かべつつも、笑顔で対応を続けている。

たぶん、気まずい。それでも受付は、仕事として淡々と手続きを続けた。


でもさらに気まずいのは――ここからだった。


「宿泊代と、お食事を含めて、お一人金貨一枚となります」


「……え、金貨って……どれくらい?」


「は?」


受付嬢が目を瞬いた。


(いや、貴族じゃねーのかよ!? なんで今それ聞く!?)


ユウは焦ったように手をポケットに突っ込み、

財布らしきものも探ったが、何も出てこなかった。


「えーと、その……俺、今ちょっと手持ちがなくて……」


(おいおい、冗談だろ……!?)


受付嬢は内心、大混乱していた。


(貴族かと思って丁寧に対応したのに、金ねぇって……なんなんだコイツ!?)

(しかも“粗末”って言われたの聞こえてんだよこっちは……!)



そんな空気の中、リリィは何の迷いもなく、ポーチから金貨を二枚、スッと出した。


「問題ございません。こちらで」


「ま、待って、いや、なんかこう……俺が払うべきというか……!」


「お気になさらず。あなた様のために使えることが、私にとっての……喜びです」


リリィはふわっと、微笑んだ。


それがまた可愛い。

けど、だからこそユウの精神は限界だった。


(これ完全にヒモじゃん……! なんか養ってもらってるやつじゃん……!!)


ふと、後ろから聞こえた小声。


「……女に金出させてるのかよ」

「どんな高貴な見た目しても、あれはちょっとな……」

「せめて割り勘しろっての……」


(聞こえてる聞こえてる聞こえてるってばぁぁぁ!!)


顔から火が出そうだった。

だけど隣でリリィは――


「……少しはお役に立てたでしょうか……?」


嬉しそうに、目を細めていた。


ユウは、返す言葉が見つからなかった。




部屋に入った瞬間、ユウはベッドに倒れ込んだ。


「……あああああ疲れたぁぁ……」


転移初日。魔獣に遭遇し、神扱いされ、ギルドで謎の測定不能を出され、宿では金がなくてヒモ疑惑――

情報も金も自由もない状況に、精神は限界だった。

(人生で一番“濃い1日”だった気がする……)


ベッドの柔らかさに、思わず泣きそうになる。


「……いや、もうマジで……なんなんだよ……」


「本日一日、お疲れ様でした」


後ろからリリィの声が聞こえた。

振り向くと、彼女はまるで女官のように丁寧に頭を下げていた。


「えーっと、リリィさん?」


「はい、なんでしょう」


「なんで俺にこんなに敬語なの?」


「……あなた様は、神の使いですので」


「……はあ……」


ふと気づく。

部屋の中に、ベッドは一つしかなかった。


「え、まさか……これ、一部屋……?」


「はい。男女の同室は問題でしょうか?」


「いや、問題っていうか、普通気まずくなるでしょ!?

ていうか俺、一般的な倫理観を持つ男子なんですけど!!」


「ご安心ください。

神の使い様が私に何か“される”などとは、これっぽっちも思っておりませんので」


「うん、それはそれで傷つくな……!?」

ユウの心に、グサリと何かが刺さる音がした。


リリィはきょとんとした顔で、まったく悪気がない様子だった。


(いや、そりゃ俺もなんかしようってわけじゃないけどさ!?)


(いや、でも……まあそうか。

リリィ的には俺って“神の使い”らしいし、

神が女の子に手ぇ出すとか、そういう概念じゃないんだろうな……)


でも――


(……俺、神じゃねぇし。高校生男子だし。

今まで女子と二人きりで部屋に泊まったことなんて一度もなかったし……)


ちらっとリリィを見る。

金髪の所謂エルフっぽい雰囲気、美人、清楚、凛とした雰囲気。

正直、顔だけ見たら、完全にタイプ。


(いや、違うって! そんなんじゃないって!)


頭では否定しつつも、心のどこかで少し期待していた自分がいたことは否定できない。


(せめてこう……ちょっと距離感が近づくとか、うっかり手が触れるとか……!

風呂上がりに髪濡れてて色っぽいとか……!

「今日は床で寝てください」って言われて、ああそういう流れかあああ!? とか……!)


だが。


目の前のリリィは、

まったく気にする様子もなく、

リリィは窓の前でカーテンを閉め、

室内に用意された水差しを確認し、さっと布で椅子のほこりを払う。


その所作は慣れたものだった。


「……リリィって、もしかして誰かに仕えてたの?」


「はい。元は、神殿騎士の補佐をしておりました。

剣技よりも、こうして“神の器に仕える心得”を叩き込まれていたもので」


「そんなのあるの……?」


「ですので、今こうしてあなた様のお世話をできること、私にとっても光栄の極みです」


ユウは苦笑した。


「神の……器……ねぇ……」


「はい。あなた様は、人を超えた御方です」


「うーん、なんか、俺の周りの人、みんな誤解してる気がする……」


「誤解?」


「いや、俺、ただの高校生でさ……別に、神でもなんでもないし、

金もないし……モンスターにはビビるし、モンスター出た時、足震えてたし! 逃げたかったし!」


リリィは微笑む。


「そのように、人の感情を残しておられるのも、また尊きことです」


「それっぽいこと言わないで!!」



だが。


その夜、ユウは“少しだけ安心できる空気”の中で眠った。


世界の謎も、誤解も、未来のことも、一旦、置いといて。

このリリィという少女は――少なくとも、敵ではなさそうだ。



「……マジで、なんなんだよ、この世界……」


そんな呟きが夜の空気に溶けていった。


そしてリリィの中では、


「御方は眠る前、静かに世界に問いを投げかけられた」

という新たな神話の一節が生まれつつあった。


そして“神の使い様が、夜更けに少し弱音を漏らされた”という出来事は、

後の伝承に『偉大なる御方もまた、人の心をお持ちであられた』と記されることになる。




もちろん、ユウはそんな未来など知るよしもない。



最後までお読みいただきありがとうございました!

今回は主人公ユウがギルド登録でまさかの「分類不能」、宿では金がなくて“ヒモ”認定されるという受難の回でした。

リリィとの同室イベントは王道……のようでいて、神扱いゆえにまったく甘くならないのが彼の不幸ですね(笑)

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