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3話:神の使い様、ギルドでバグる

こんにちは、作者の まるぽこりん です。

今回は「異世界に飛ばされた普通の高校生」が“神の使い”として誤解されながらも、ギルドで大騒動を巻き起こす回です。

読者の皆さんが思わずツッコミたくなるような、笑える混乱劇を楽しんでもらえたら嬉しいです!



草原を抜け、土の道を歩いていると、遠くに城壁が見えてきた。

この世界に来てから、どれくらい経ったのか。日が落ちかけているところを見ると、半日程度かもしれない。


でも、感覚はずっとおかしい。

風の匂いも空の色も、ほんの少し“現実”とズレている気がする。


「……うわぁ、ファンタジーっぽい……本格的な異世界だコレ……」


草原を抜けて街へ向かう道中。

俺はなるべく自然な感じで、情報収集を試みた。


「えっと、ここってどんな国なんですかね?」


「“アルセイア”です」


「うん、それは名前だよね。具体的に、どこにあるとか……国境とか……」


「我が国、アルセイア連邦王国は、光の神ゼオ=トルアスによって照らされた聖なる大地です」


「……そういうのじゃなくて地理的な話を……」


「じゃあ、通貨って何使ってるんですか?」


「光と祝福です」


「それって物理的に換金できるやつ?」


「はい。祝福は銀貨に、光は金貨に宿ります」


「……何を言っているのか1ミリもわからない……」


「じゃあ、学校とか教育制度ってどうなって――」


「かつて“言葉を持つ炎”と呼ばれた学び舎が、王都に存在すると聞きます」


「言葉を持つ炎てなに!? 物理的に燃えてる!? いや、概念が燃えてる!?」


「概念もまた、燃えるのです」


「意味があってそうで意味がわからない!?」


「それじゃあ宗教とか信仰とかあるんですか?」


「今この瞬間、目の前に立たれている御方こそ、まさに信仰の体現……」


「それ俺だああああああ!!」


「落ち着いてください。荒ぶる神性が漏れておられます」


「違う! ただのツッコミだ!」


「……ねぇ、せめてコンビニの場所とか、郵便の仕組みとか、文明レベルのヒントだけでも……」


「“神託の果実”は大地から得られ、“風の精霊”が書状を運ぶと聞きます」


「頼むから現地人と会話できる仕様にしてくれよ……!!」





うん、会話が成立しているようで、していない。


それもそのはず――

リリィは今、俺を“神の御使い”と勘違いしている。



きっかけは、さっきの魔獣との遭遇だった。


完全に腰が引けて動けなくなっていた俺を、リリィは――

「動じぬ姿、まさに神の化身」だとか、「視線一つで魔を退ける」とか……

あげく「喋るだけで加護が宿る」とか言い出す始末。


俺の人生でここまでハードな誤解をされたのは初めてだ。

しかも、訂正するタイミングを完全に逃している。


「ところで、先ほど仰られた“うわぁファンタジーっぽい”というお言葉……」

「それは、今のこの世界が、理想的であるという示唆なのでしょうか?」


「いや、単にゲームの世界みたいだなって意味で……!」


「ほう……理想郷の比喩に“げぇむ”という概念を……これは新たな啓示かもしれません……」


お願いだから脳内会議始めないで。

街の門が見えてきた頃には、ユウの心はもう半分ぐったりしていた。



やがて門前。

巨大な石造りの門と、その前に並ぶ検問待ちの人々の列。


俺たちが近づくと、何かが変わった。


――沈黙。


次の瞬間。


「……ひっ、ひざまずけ……!」

「見ろ、光の柱の中心にいた男だ……!」

「本当に……神が、来られたのか……?」


ひそひそとした声が、列にいた人々から漏れ始めた。


一人、また一人と跪き、

気づけば十人、二十人と、その場の人々が俺に向かって拝み始めていた。


(マジでなんなんだこの状況!?)


さっきから勘違いパワーが強すぎて心がついていかない。



「名を――お教え願えますか、御方……!」


最前列にいた老人が、震える声で訊いてきた。


え、名前?


「あ、あの、ユウです。……普通の、高校生の」


「“こうこうせい”? 王立戦闘学院の若き将を意味する古語か……!」


うわー! また誤解が膨らんだ!!



門番の衛兵が、俺とリリィを見て目を見開いた。


「そ、その方は……!」


「はい。わたくしが同行しているのは、先ほどの光の柱にて降臨なされた御方です」


「ひ、光の柱を……!」


衛兵の手が震えている。


「……では、どうぞお通りください。これほどの人物を門で止めるわけにはいきません……」



街の中に入ると、

目に飛び込んできたのは石畳の道、立ち並ぶ商店、行き交う人々。

まるで中世ヨーロッパの町並みをそのまま現代に持ってきたような光景。


「わあ……リアルだ……」


「リアルとは“現実”という意味でしょうか?……つまりこの街は、まさしくことわりに沿った世界と?」


「ちがうそうじゃない」



俺は街の情報を集めようと、

商人に話しかけてみたり、露店の婆ちゃんに道を尋ねてみたりしてみたけど――



「すみません、ここら辺で地図とか売ってるとこ――」


「……どうか、我が家の屋根の修繕に祝福を……!」


「違う違う、そういうのじゃなくて、情報が……」


「お言葉を……一言、お言葉を賜れませんか……!」


誰に声をかけても、拝まれるか、祈られるか。

肝心の“この世界がどういう状況なのか”を知ろうとしても、まったく情報が集まらない。


隣を歩くリリィは、いたって冷静だった。


「民たちはあなた様の出現を恐れと敬意をもって受け止めています。

どうか、応えるようなまなざしだけでも返してあげてください」


ユウは、まるで観光地に放り込まれた着ぐるみの中の人のようだった。

体力よりも先に、精神のHPバーが真っ赤になっているような感覚。


誰も中身を見てくれない。自分の声は、“神の声”として解釈されるだけ。

知りたいことがあるのに、何一つ答えてもらえない。


「くそ……知りたいことが多すぎて、どれから聞けばいいのかも分からねぇ……」


そんな彼の呟きを聞いた老婆が、そっと言った。


「……まこと、深いお言葉……!」


「違う!!」




「まずはギルドに参りましょう」

リリィが静かに言った。


「冒険者ギルドは、旅人が身元を証明するためにも登録が必要です」


「ああ、そういうRPG的なシステムもあるのね……」


「“えーるぴーじー”? また新たな知識……!」


「メモ取らなくていいから!!」


こうして俺は、訳も分からぬまま、

崇拝と誤解と微笑ましい脅威に囲まれて――


異世界(?)の街で“神格化された普通の男”として、第一歩を踏み出したのだった。









街の中心部にある白い石造りの建物――

それが冒険者ギルドだった。


入口の上には巨大な紋章が掲げられており、冒険者らしき人々が頻繁に出入りしている。

俺の隣を歩くリリィは、すっかり案内役気取りだ。


「まずは登録です。御方の存在を公式に記録し、ギルドに御名を遺しましょう」


「いや、そんな荘厳な感じじゃなくて、ただの身分証明書的なノリでいいよね?」


「御名が記されるのです。これはまさに――時代が刻まれる瞬間!」


「いやだから落ち着いて……!」




ギルド内に足を踏み入れると、意外と現代的だった。


中に入ると、まず目に飛び込んできたのは木製カウンター。

そして、壁には浮遊式の情報掲示板があり、冒険者がタッチ操作で任務を検索しているようだった。

受付には制服を着た女性スタッフが2人。ちょっと気だるそうに帳簿をめくっている。




「ようこそ、アルセイア中央ギルド支部へ」

「ご登録ですか? ご本人様と、付添いの従者の方……ですね」


受付嬢は、こちらを一目見てそう言った。


(あ、光の柱の話してこない)


たぶん彼女、あのとき屋内にいて何も見てないんだ。

街の外ではざわついていたのに、ギルド内は妙に静かだったのも納得だ。



街中ではさんざん拝まれ、手を合わせられ、

「神の使い様!」と崇められて精神的に疲弊していたユウは少しホッとした。


しかし受付の背後にいたスタッフたちが、明らかに焦っている様子でヒソヒソと動いている。


「おい、あの子……身なり的に、どっかの貴族じゃないのか……?」

「なにあの制服……王都の上流学院のやつじゃない? いや、見たことないけど……」

「えっ、さっき受付普通に話しかけたけど……ヤバくない?」

「やばいやばい、あれガチで“ヤバい系の身分”のやつだって……!」


ユウには聞こえないが、職員たちは完全に“厄介な上級貴族の息子”として警戒モードに入っていた。


「えっと……登録お願いします」


「かしこまりました。それでは、ステータス測定から行いますね」


案内されたのは、水晶盤のような装置。

ここで魔力量や属性などが測れるらしい。RPG感がすごい。


「手をこの上にお願いします」


案内されたギルドで、登録のための「魔力測定」装置に手をかざす。


バチン!!


突然、装置がショートし、水晶が黒く変色し、画面に赤文字が浮かび上がる。


【分類不能存在】

【コード定義外】

【測定対象に適合せず】

【神格エラー:原初反応】



受付嬢が一瞬、目を丸くした。


「え……? 故障……?」


パネルには見慣れない古代文字が浮かび、次々と乱れ始める。

“神格対象につき計測不能”らしき意味の表示が出ているが――


受付嬢はそれを読めていない。


「ちょっとお待ちください……あの、技術係呼んできますね……!」


慌てて奥へ消えていった。





ここまで読んでくださり、ありがとうございました!

主人公ユウの「誤解されていく苦悩」と「ツッコミ疲れ」はまだ始まったばかり……。

よろしければ続きを楽しみにお待ちください!

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