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ネックレスの謎




あれから、色々考えてみた。


どうやったらこのブラット•ラッド商店に辿り着けるのか。


そもそも盗品を商品に並べるくらいなのだから、まともな商会であるはずがない。


念の為、ラグナス家で把握している商業リストをお母様に見せてもらったけど、やっぱりそんな名前の商会なんて何処にも載っていなかった。


そうなると、あと情報が得られそうな場所と言ったら、一つしかない。


私は考えをまとめると、金庫からいくらかお金を見繕い、早速街外れにあるギルドへと赴いた。




◇◇◇




「あら、珍しいわね。まさか、ラグナス公爵家のご令嬢がここに足を運ぶなんて」


あまり人には知られたくないので、市民の格好に扮して、帽子を深く被りメガネまで掛けて来たのに。


受付に来た途端、ものの数秒で身元がバレてしまい、恥ずかしくなった私はおずおずと帽子を外した。



「あ、あの……。ここを調べて欲しいのですが……」


そして、緊張気味に商会の名前を書いたメモを差し出す。


「ブラット•ラッド商会?……また随分ときな臭いものを依頼してきたわね、お嬢さん」


そのメモを受け取った途端、受付のお姉さんは意味深な笑みを浮かべながら私の方に視線を戻した。


「調査費用は基本料金が10,000ナラよ。調査内容によっては追加料金が発生するから精算は後払いでいいわ。この依頼用紙を記入して頂戴」


それから、詳しいことは聞かれることなく、事務的な説明をされた後に用紙を提出すると、依頼はそこで呆気なく受け付けされた。




……なんだか、拍子抜けしてしまう。



人生初のギルド依頼。

噂によると荒くれ者が集う場所だと聞いていたから、一体どんな所なのかずっと不安だったけど……。


いざ入ってみるとギルド内は割と狭く、受付カウンターとちょっとした応接間みたいな部屋があるくらい。 


受付には長い黒髪のスレンダー美人なお姉さんしか居なくて、中はとても閑散としていた。


あとは壁一面に依頼用紙がびっしりと貼られてあり、承認印が押された私の用紙も、おそらくそこに追加されるのだろう。


お姉さん曰く、調査期間は三日らしいので、その時にまたここへ来て欲しいとのこと。


たった三日で調べられるのか少し不安だけど、私の正体を一目で見破ったギルドなら、もしかしたら可能なのかもしれない。



とりあえず、商会のことはギルドに任せすることにして。今度は帳簿に書かれた、おそらくデタラメであろう住所地に向かうことにした。


そもそも名前が違うのだから、住所だってほぼ間違いなく偽物なのは分かっている。


けど、一応確認はしておきたいので、私は馬車を使って隣町にある市街地へと赴いた。






馬車を走らせること約一時間。


たどり着いた場所は、市街地から離れた小さな廃村の地。


周囲は廃墟と化してからかなり年数が経過しているような建物が点在していて、当然ながら人が住んでいる気配は全くない。


御者曰く、ここは百年以上前に激しい紛争に巻き込まれ、村全体が壊滅したんだとか。


なので、今では村の名前は地図から消え、この場所を知る人は殆どいないらしく、私がここを指定してきた時はかなり驚いたと教えてくれた。



おそらく嘘デタラメの住所なんだろうと思っていたけど、まさかこんな場所に辿り着くとは私も驚きを隠すことが出来ず、その場で狼狽えてしまう。



このまま引き返そうか。


でも、せっかくだから、一応確認はしといた方がいいような。



暫く考えた結果、私は探し物があると適当に理由を付けて御者の人に三十分程待ってもらうようお願いすることにした。





それから恐る恐る足を踏み入れて周囲をよく観察してみると、建物には無数の刀痕や、爆破された跡、おそらく血痕と思われる焦げ茶色のシミが広がっている。


その痛々しい爪痕は長い年月が経った今でもはっきり残っていて、紛争地帯を初めて目の当たりにした私は胸の奥がキリキリと痛み出してきた。


そして、やはり何処を探しても人が居るような形跡は全くなく、予想通り空振りとなったことに肩を落とす。



それから一通り村の中を見終わり、そろそろ引き返そうと踵を返した時だった。



ふと視界の端で捉えた、今にも崩れそうな寂れた小さな教会。



そのまま通り過ぎようかと思ったけど、何故か妙な胸騒ぎがして、私はその場で足の動きを止めた。



周囲を警戒しながら徐に建物の中へと入ると、両脇には五十人くらい座れそうな椅子が並び、祭壇の奥には壁一面に大きな壁画が飾られていた。


そして、ちょうど真上の天井には大きな穴がぽっかりと空いていて、そこからスポットライトのように光が差し込み、薄暗い中で壁画はキラキラと輝いていた。



「……綺麗……」


その神秘的な光景に思わず感嘆の声が漏れ、私は壁画の側まで近付き絵をよく観察してみる。


そこに描かれているのは白いベールと簡易な白いドレスを身に纏っている黄金色の長い髪をした女神様。


まるで、この荒廃した地に残る唯一の希望のごとく。

慈愛に満ちた微笑を浮べる姿はなんだか凛としていて、見ていると心が休まる気がする。



私は暫くの間見惚れていると、ふと女神様の首元にかけられたネックレスに目がいく。


「これって……」


ネックレスに刻印された見覚えある紋章に、私は慌てて首にかけているネックレスを取り出した。



やっぱり。

間違いない。


お母様から貰ったネックレスに刻印された紋章と、この絵画に描かれた紋章は全く同じだ。



月と太陽が隣り合わせに彫られたもの。


よくあるデザインではあるけど、この共通点に関連性がないとは思えない。



「……この教会は一体……」

  



「ここは、紛争があった年と同じくらいに没落したレーテ教会だよ」



ぽつりと頭に浮かんだ疑問を口にした途端、背後から聞こえた声に驚いて振り返ると、そこに立っていたのは村の入り口で待っていたはずの御者のおじいさんだった。


「驚かせてごめんね。なかなか帰ってこないから心配になって」


そして、申し訳なさそうに苦笑いを浮かべると、私の隣に立ち、同じように絵を見上げた。


「レーテ教は太陽と月の調和を司る女神レーテ様を崇拝する少数派宗教でね。月日が流れて財政難と信者の高齢化によっていつの間にか消滅してしまったんだ」


それから、ゆったりとした口調で教えてくれたおじいさんの話に、私はふとある考えが浮かぶ。


「あの……。その信者の方はまだ何処かにいらっしゃるのですか?」 



もしその人と接触することが出来れば、このネックレスの謎を解くことが出来るかもしれない。



一体このネックレスにどれ程の魔力が込められているのか。


私はまたタイムリープをすることが出来るのか。


そもそも、このネックレスの根源はなんなのか。



それを解明することが出来れば、お姉様への復讐計画にも大きな影響が及びそうで。



そんな期待を込めながら、私はおじさんの返答を静かに待った。



「……そういえば、私の孫がその教会と関わりがあると言っていたような……。今度聞いてみるよ」



なんと。

まさか、こんなあっさり見つかるとは。



あまりの偶然に一瞬耳を疑ったけど、これも何かの巡り合わせなような気がして。


私達は一週間後に同じ場所で会う約束をして、この場を後にした。




「ところで、探し物は見つかったかい?」



そして、馬車に乗ろうとした手前。

何気なく尋ねられた質問に、ぴたりと足の動きが止まる。



「……ええ。おかげさまで、良い収穫がありました」



結局本来の目的は果たせなかったけど、代わりにネックレスの謎を明かすという新たな目標が出来た。


それを達成することが出来れば、自分達の命が繋がる道が大いに広がるかもしれないと。


そんな確信を抱きながら、私はそっとネックレスに手を当て、静かに微笑んだ。

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