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反撃開始!


 


先の見えない真っ暗な闇の中。



この暗闇には覚えがある。



どこまでも無の世界が広がっているけど、不思議と怖い感じはなくて、寧ろ心が休まるような安心感がある。



そして、ふわふわと空気のように漂う私は、誰かに導かれるようにある場所へと向かう。



その先にあるのは、天国か地獄か。



それを決めるのは神様なんかじゃない。

 




__全ては、私次第だ。







「クレス、起きて!」




その時、耳元で突然大きく響いた声に私はハッと目を覚ます。



「もう、こんな所で呑気に昼寝なんかしないでよ。クレスが全然見つからないから子供達飽きて帰ったんだけど」


未だ意識が朦朧とする中、視界いっぱいにリリスさんの呆れた顔が広がり、そこで頭が一気に冴えた。



「リリスさん良かった!無事だったんですね!」



同時に沸き起こった感動と喜び。


無事にタイムリープ出来たことと、また彼女に会えたことが嬉しくて、私は思わずリリスさんの首元に抱き付いた。



「え?ちょっと何?いきなりどうしたの?」


しまいには嬉し涙まで溢れてきて、突然泣き出した私にリリスさんは困惑しながらも、優しく頭を撫でてくれた。



「取り乱してごめんなさい。えと……実は色々ありまして……」


とりあえず気持ちを落ち着かせてリリスさんから離れると、この状況をどう説明すればいいか思考を巡らせる。



周囲を見渡すと、ここはリリスさんの故郷であるレーテ教会の中。


そして、聖堂の柱の物陰に今座っているということは、タイムリープした地点は子供達と隠れんぼをしている時だ。



つまり、あの惨劇が起きる当日。



一回目の時は一週間前ぐらいにタイムリープ出来たのに、今回はかなり期間が狭まっている。


もしかしたら、これは神力の残量によるものだろうか。



いずれにせよ、運命の時は目前に迫っていて、時間がない。


そうなると、リリスさんに全て打ち明けるなら、ここしかない気がする。



でも、この話を一体どうすれば信じてもらえるだろうか。


ただ話すだけでは、きっとお母様みたいに手応えがいまいちだろうし、もっと確固たる証拠があれば……。





暫く頭を悩ませていると、ふと妙案が浮かび、私はリリスさんの両手を握る。



「あの、一つお願いがあります。ブラッド・ラッド商会の隠れ場所が分かったので、今夜一緒に乗り込んでくれませんか?」


そして、強い意志を持って話を持ち掛けた途端、まるで壊れたブリキのおもちゃみたいにリリスさんの動きがピタリと止まった。



「…………………………はい?」



長い沈黙の後、ようやく反応を見せた彼女は、間の抜けた声を発して首を横に傾げる。



「いきなりどうしたの?ネル爺から何か聞いた?」


「いいえ。何も」


「それなら、なんか電波でも受信した?」


「そんな技はありません」


「じゃあ、なんで……」


「それは、現地に行ったらお話します」



それから、リリスさんの質問攻めにあうも、詳細を語るにはまだ時期が早いため、私はこの一言で完結させた。



「急に変なことを言ってすみません。この話を信じてもらうのも無理があるのはよく分かってます。なので、ここは“依頼”として割り切って聞いてください」



そして、一つ一つ言葉を慎重に選びながら、私は真剣な眼差しを彼女に向ける。



「今夜ある場所で大規模な夜の市が開催されます。そこには占いをやっている小さなテントがあるはずです。それを襲撃して欲しいんです」



果たして要点をすっ飛ばした依頼を引き受けてくれるのか。


不安はかなりあるけど、今はこれぐらいしか話す事が出来ず、私は固唾を飲んで彼女の反応を待つ。



すると、暫くしてからリリスさんは軽い溜息を吐くと、小さく首を横に振った。



「悪いけど、あたし達は誰かを傷付けるような依頼は基本受けない」


それから、きっぱりと断言されたことに、私はがっくりと肩を落とした。



確かに“襲撃して欲しい”なんて、側から聞いたらただの犯罪でしかない。



そうなると、やっぱりここは詳しく話さなければ先に進むことは出来ないのか。


でも、状況証拠がなければ用心深いリリスさんに信じてもらうのは不可能な気がする。



だとしたら、他になんて言えば受け入れてもらえるのか…………





「ただし、例外はあるよ」




暫しの間頭を悩ませていたところ、突然放たれた一言に、私は勢いよく視線を彼女の方へと戻した。



「こっちが危険な人物だと判断した場合には、迷わず牙を向ける。だから、襲撃するかしないは全てあたし達次第。それでも良ければ、その依頼受けてあげる」


そう提案する彼女の瞳は、先程と打って変わりとても凛としていて。


閉ざされそうになった希望の扉が徐々に開き始め、私は一気に表情を明るくさせる。



「はい、勿論です!是非お願いします!」



そして、深々と頭を下げると、リリスさんにようやく笑顔が戻り、小さく頷いてくれた。





「それと、現地に行く時は必ず三人以上でお願いします。場合によってはそれ以上の数が必要かもしれません」



ひとまず、無事に依頼を受理してくれたのはいいとして。


大事なのはここから先の話。



いくらギルドに襲撃を依頼したとしても、相手の数に押されてしまっては意味がない。


敵の状況が不透明である以上、厳戒態勢で挑まなければ、また同じ過ちを繰り返してしまいそうで。


それだけは何としてでも避けたい私は、例え怪しまれたとしても、これだけはしっかり伝えようと、必死な目を彼女に向ける。




「………………ふーん。分かった」



それから、暫く何かを見定めるように私を凝視してきた後、リリスさん意外にもあっさりと私の要求を呑んでくれた。


また理由を追求されるのかと覚悟していた分、今度はあまりにも簡単に引き受けてくれたので、何だか拍子抜けしてしまう。



「本当にいいんですか?」

 


だから、余計な一言だとは思いつつ尋ねてみると、リリスさんは軽く口元を緩ませてきた。



「あんたの身に何が起こってるのかは知らないけど、その目で何となく事情は分かったから」



一体どんな答えが返ってくるのかと思いきや。

いまいち彼女の言っていることが理解出来ず、首を横に傾げると、そんな私の反応にリリスさんはくすりと小さく笑った。



「つまり、クレスを信じるってことだよ」



そして、私の頭に優しく手を置くと、これまでで一番欲しかった言葉を躊躇もなく口にしてくれた。



例え建前でもいい。

その言葉がどれ程心強く、救われるか。



そんなリリスさんの温かさが、じんわりと体の奥深くまで染み込んできて、少しでも気を緩めると再び涙がこぼれそうになる。





それから、夕暮れ時にギルドで落ち合うことを約束して、私達は教会を後にする。



これで手筈は整った。  


あの時は完全にしてやられたけど、今度は違う。

  

命と引き換えに得た反撃チャンスで、必ずやブラッド・ラッド商会の正体を暴いてみせる。



そう固く決意すると、私はネックレスの状態を確認するため、それを首元から取り出した途端、想像以上の変化にぎょっと目を見開いた。



これまで薄紫色だったネックレスは焦茶色に変色していて、始めの頃に見た輝きはもうすっかりとなくなっている。  


そこから読み取れる神力の残量。


おそらく次にタイムリープをしたら、ネックレスは完全に壊れてまうだろう。



つまり、やり直せるチャンスは後一回。

それでまた失敗をしたら、今度こそ本当の死が待っている。


そう思うと、段々と怖くなってきて不安が徐々に膨らんできた。



これ以上命を犠牲にするつもりはないけど、いつまた何処で仕掛けられるか分からない。


その保険としてこのネックレスが支えとなってくれたけど、それが使えないとなると、もう失敗は許されない。



これまでのことを振り返ると、選択を誤ったきっかけは全て自分の強情さだった。


夜の市に乗り込む時、大人しくリリスさんに任せていれば、もしかしたら結果は違ったのかもしれない。


たらればを言ったらキリがないのは分かっているけど、これからはもっと慎重に行動しなければと。


私は改めて自分を戒めると、気持ちを落ち着かせるために小さく深呼吸をする。


そして、これから待ち受ける別の試練に備えるため、頭を切り替えた。



ブラッド・ラッド商会よりも厄介なのは、盗品ドレスの扱い方。



おそらく、この時間だとドレスは既にお姉様の手に渡っているだろう。


そして、私を陥れる準備を進めているはず。


それよりも先に何か手を打たなければ、例えブラッド・ラッド商会の襲撃を免れたとしても、結果は変わらないと思う。



だから、一刻も早くヘリオス家に戻らなくては。





それから、私はリリスさんに急用があることを告げて前世よりも一時間くらい早く街に帰還すると、急いでヘリオス家と向かった。



当然ながらリオス様はまだ到着しておらず、私は真っ先に地下へと降りて倉庫の扉を開けると、案の定。

あの時と同じドレスは忽然と消えていて、その場所には例のメモ書きが落ちている。



この罠を仕掛けたのは一体誰なのか。



結局黒幕は未だ謎に包まれたままで、形勢が不利なことには変わらない。


今考えられるとしたら、一番可能性が高いのはモルザ大臣だけど、これも全て憶測でしかないから迂闊に動いてはダメ。  


ただ、黒幕は王宮の人間であるのは確かだ。



リオス様には協力を仰ぎたいけど、それによってこちらの動きが筒抜けになってしまったら、また同じ過ちを繰り返してしまう。


だから、これからは不用意な発言には気をつけなければいけない。



それを踏まえて、私はある策を思いついた。



つまるところ、この一連の流れは別の人間が行なっているわけで、お姉様はその詳細を知らない。


ドレスの隠し場所だって知らなかったくらいだから、そこを突けばきっと何かしらのボロが出てくるはず。



一体お姉様がこれからどういう行動に出るのか分からないけど、この先の未来を知っている私なら、きっとそれを回避することが出来るはず。



そんな自信を胸に抱き、私はメモ書きを元の場所に戻し、来た道を引き返してリオス様の到着を待つ。



ここでもし形勢逆転することが出来れば、おそらく状況はかなり変わってくると思う。



一回目は私とお母様の命。


二回目は私とリリスさんの命。



人の血に塗れたお姉様には、その代償は必ず払ってもらう。


そして、二度と這い上がってこれないよう徹底的に堕としてみせる。



そう心に強く誓うと、私はこれから先の未来に望みをかけて、真っ直ぐと前を向いたのだった。


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