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謎のフード男捜索


「あ?黒いフード男?……そういえば最近見てねーな。ついこの間までは何回か目撃したけど」


「そうなんですか?ちなみに、最後に見たのはいつですか?」


「丁度一週間前くらいか。あの時も短期労働の人材募集してたな。……なんだ、ねーちゃん。金に困ってんの?それならうちに来るか?それなりに稼ぎは良いぜ」


「あ……いえ、結構です。ご協力ありがとうございました」



聞き込み調査十人目にしてようやく情報を聞き出すことが出来、期待に胸を膨らませたのも束の間。


あまり有力な内容ではない上、変に誤解されてしまい、危うく怪しい店の従業員にされる勢いだったので、私は慌てて話を終わらせると、急いでこの場を離れた。



やっぱり闇市場というだけあって、通行人や店員さんは皆柄の悪そうな人達ばかり。


売り物は怪しい薬だったり、盗品かもしれない貴金属類や、衣類に雑貨。


奥まった場所に行けば人身売買や臓器販売がされていたり、間仕切りされたスペースでは、何やら怪しい商談をしていたりと。


普段の暮らしでは到底知り得ない世界が目の前で繰り広げられ、今更ながらに怖くなってきた。



それから、引き続きリリスさんの後にくっ付いてまた何人かに聞き込み調査をしたところ、答えは全て同じで。

不発に終わってしまった結果となり、私はがくりと肩を落とした。




「それじゃあさ、逆に雇われた人と接触すればその雇用先のこと掴めるんじゃない?」


「なるほど。確かにそうですね」


意気消沈する中、リリスさんの提案によりモチベーションを取り戻した私は、再び聞き込み調査を開始するも。

十数人に尋ね回ってもそれらしい人物と接触する事が出来ず、捜査は難航した。




「雇われた奴の話が聞きたいって?多分それは無理だよ」


「それは、どういう意味ですか?」


もうすぐで三十人目に差し掛かりそうになるところ。

珍獣を扱う店のおばちゃんにそう断言されてしまい、私は訳が分からず首を傾げた。


「雇われた奴は皆その後忽然と姿が消えるんだ。稼いだ金で逃亡を図ったのか、或いは殺されたか。まあ短期間で高額が稼げるなんて、まともな仕事ではないだろうし、そんな仕事にありつく奴等もまともではないだろうからね」


最後には豪快に笑い飛ばされてしまい、またもや絶望の底へと突き落とされた私は上手く返事をする事が出来ず、苦笑いを浮かべてこの場を後にした。







「結局収穫なしか」


粗方聞き込み調査を終えた私達は、一旦休憩しようと市場の端に設けられたベンチに腰をかける。


「やっぱり、その黒いフードの男性から話を聞くしかなさそうですね……。もう時間が遅いので、今日はここまでにしましょう」


せっかく危険を承知で乗り込んだのに、何も情報を得る事が出来ないままタイムリミットを迎えてしまい、私は盛大な溜息を吐いた。


もしここで何か証拠を掴めれば、デビュタントの日までにお姉様を問い詰めることが出来たのに。


市場の人の話を聞く限りだと状況はかなり厳しいということが分かり、理想と現実の差に打ちひしがれ、気分は益々落ち込んでいく。


「まあ、あたしらも手こずってるくらいだから、一筋縄じゃいかないでしょ。とりあえず、ここはあんたみたいな人間が出入りしていい場所じゃないんだから、あとはうちらに全部任せな」


そんな私を励ましながら、的確なアドバイスをしてくるリリスさん。


確かに彼女の言う通り。

こうして変装はしているけど、万が一正体がバレて家族に知れ渡ったら、これまでの苦労が全て水の泡となってしまう。


それに、あのドレスを表に出さなければ命を奪われることもないし、そこまで焦る必要はないかもしれない。



「…………そうですね。それじゃあ、引き続き調査をお願いしま……」


色々考えた結果、やはりここは慎重になろういう結論に至り、私は改めてリリスさんに依頼をしようとした矢先だ。



視界の隅で捉えた見覚えのある人物に、私は思わず小さな悲鳴をあげてしまう。


そして、咄嗟に物陰に隠れると、息を殺してその人物が通り過ぎるのをひたすら待った。




「な、なに?いきなりどうしたの?」


暫くして、ようやく物陰から姿を現すと、私の不可解な行動にリリスさんは混乱した様子で首を傾げる。


「えと……会いたくない人を目撃してしまって……」


段々と頭が冷静になってきた私は、恥ずかしさがじわりじわりと込み上がってきて、バツが悪そうに視線を下へと落とした。


けど、心臓は未だどくどくしている。

まさか、こんな場所で遭遇するとは思いもよらなかったから。



あの人は、間違いなくモルザ大臣だ。 

闇市場に出入りしているということは、これもドレス調査の一環なのか。


見た限りだと他に人は見当たらず、ここを摘発するような雰囲気でもない。


もしかして、また別の目的があっての単独行動なのか。


いずれにせよ怪し過ぎる彼の動きには、今後も警戒した方がいいかもしれない……。





「こら、また一人で別の世界にいかない」


すると、こつんとリリスさんに軽く頭を小突かれ、はたと我に返る。


「まったく。相変わらず謎が多過ぎるお嬢様ね。とにかく、今度からはあたしがあんたの専属だから、何かあればすぐに言いなさい」


そして、非常に頼もしい言葉によって気持ちが段々と落ち着いてきて、自然と頬が緩み始めた。

 


事情を知らないのにここまでフォローしてくれるなんて、リリスさんは本当にいい人だ。


これまで一人でなんとかしようと躍起になっていたけど、ここにきて心強い味方が出来たようで。


死に戻った世界でようやく得られた安心感に、気を引き締めないと涙が溢れそうになるため、私は精一杯の笑顔をつくった。


「はい。では、改めてよろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしくね」


それから手を差し出すとリリスさんも笑顔で優しく握り返してくれて、彼女に出会えたことを心から感謝した。





それから闇市場を後にした私達は、始めに待ち合わせした場所へと戻った。


時刻は深夜に差し掛かるところで、辺りは寝静まり、人っこ一人いない。



「それじゃあ家まで送るよ。夜道に女性一人は物騒過ぎるからね」


「リリスさんも女性ですが……」


「あたしは別枠だから」



送ってくれるのはとても有難いけど、その後のことが心配になり尋ねると、笑顔で跳ね除けられてしまった。



こうしてお言葉に甘えて、私は抜け道がある雑木林の入り口までリリスさんに送ってもらい、なんとか闇市場潜入を無事に終えることが出来た。



「今日は本当にありがとうございました。お陰で事なきことを得て助かりました」


別れ際、私は深々と頭を下げて改めてリリスさんにお礼の言葉を伝える。


「これが仕事だから気にしないで。それに、まだ安心するのは早いから」


「………………え?」



そして、別れの言葉が返ってくるかと思いきや。

予想だにしない最後の一言に、私は目が点になる。



「ねえ、そんなあからさまな尾行してバレないとでも思った?いい加減姿現したら?」


すると、リリスさんは私に背を向けて、誰もいないはずの雑木林に向かって声を張り上げる。


一体何が起きてるのか状況を全く理解出来ない私は、混乱しながら黙って様子を眺めていると、暫くして木の影から二人の男性が姿を現したのだ。



「……ちっ、流石ギルドの人間だな。いつから気付いてた?」


「そんなの彼女が待ち合わせ場所に来てからに決まってるでしょ。あたしらを見くびらないでくれる?」



突如としてガタイの良い男二人が目の前に現れ、慌てふためく私とは裏腹に。

終始落ち着いた様子で呆れたように深い溜息を一つ吐くリリスさん。


彼女の口振りからして、おそらく始めから後を付けられていたのか。


今の今まで全く気付かなかったけど、もしそうだとしたら主犯格は一人しか考えられない。



オリエンスお姉様。

やっぱり、これは罠だったんですね。



そう確信した私は、怒りと同時にこれまでにない程の恐怖が込み上がってきて、体の震えが徐々に激しさを増していく。



「それなら、俺らの目的はもう分かって……ぐはっ!」


その時、目にも止まらない速さでリリスさんはその場から駆け出すと、電光石火の如く大胆にも男の脇腹に思いっきり蹴りをかました。


「御託はいいから、やるならさっさとやれば?」


どうやら相当威力が強かったようで。

男は脇腹を抑えながら地面にしゃがみ込み、その様子をリリスさんはニヒルな笑みを浮かべながら見下ろす。


「てめえ、調子こいてるのもいい加減にしろ!」


リリスさんの不意打ちに暫しの間呆然としていたもう一人の男性は、ふと我に返ると、手に持っていた小刀を振り翳し彼女に襲いかかる。


けど、リリスさんは余裕の表情で男性の反撃を闘牛士のようにひらりとかわすと、隙を見て男の腹に勢いよく肘鉄を食らわせた。


そして、男がよろけたタイミングで強烈な跳び膝蹴りをすると、男の体はしゃがみ込んでいるもう一人の男目掛けて吹っ飛び、二人の体は折り重なるようにして地面に倒れ込んだ。


そんな彼女の強さに圧倒された私は、先程から空いた口が塞がらず、呆然としながらその場でただ突っ立っていることしか出来なかった。



「もしかして、あんたら喧嘩素人?そんなんでよくギルドの人間に立ち向かおうとしたわね」


「くそ……。やっぱり相手が悪かったか。ずらかるぞ!」


一瞬にしてリリスさんにねじ伏せられた二人組は、力の差を見せつけられたようで、もはや抵抗する気が失せたのか。


超典型的な悪役の捨て台詞を吐くと、一目散にこの場から立ち去っていった。




男達の姿が見えなくなった頃、一気に緊張の糸が緩んだ私は力なくその場でしゃがみ込んだ。


リリスさんがいなければ、一体どうなっていたことか。

もしかしたら、私の命はあそこで途絶えたかもしれない。


でも、これでハッキリと分かった。


お姉様は、隙を見て私を狙っている。



これまで気付かれないように気を付けていたつもりだったけど、どうやらそれも無駄だったようで。

今度からはより気を引き締めていかなくてはいけないと、改めて危機感が湧いてくる。




「…………あのさ、一つ聞いていい?」



すると、暫く口を閉ざしていていたリリスさんからポツリと溢れた一言に、私は首を傾げる。



「もしかして、クレスってお姉さんに命狙われてる?」



そして、まさかの図星を突かれてしまい、表情がピキリと固まってしまった。



「あの、えと……」



違うと言いたかったけど、それは無理な話かもしれない。


私がギルドに単独で依頼に来たこと然り、闇市場に行きたいと懇願したこと然り、抜け道をお姉様に教えられたこと然り、男達に襲われたこと然り。


今思えば怪しい点が多過ぎで、勘が良い人ならすぐに分かってしまうのかもしれない。


これだから私はお姉様にも呆気なく勘付かれてしまったのだろうか……。



「まさか、名だたるラグナス家がそんなドロドロしていたとはね」


それから、暫く返答がないことを肯定だと捉えたリリスさんは、顎に手をあてながら意味深な目でこちらを見据えてくる。


「まだ決定的な証拠を掴んだわけではないですが、おそらく間違いないです。でも、何故こんな事態になったのか全く分からなくて……」



唯一お姉様が動機を口にしたのは、前世で牢獄を訪れた時。


あの時お姉様は「ヘリオス親子に全てを奪われる」と言っていた。


けど、その意味が未だに理解出来ない。

私がお姉様から奪うものなんて、何一つないのに。


寧ろその逆で、お姉様は私が欲しいと思うものを全て持っている。


美しさや、機転の良さ、社交性だったり、リオス様のことだったり。


私よりもお姉様の方が断然有能で人気があるのに、殺したい程憎まれるような心当たりなんて全くない。



お姉様に復讐はしたいけど、そもそもとして、こうなってしまった要因を掴んで改善していく方が、本当は一番良いのは分かっている。

それで全て元に戻るなら、そうなって欲しい。



でも、そんなのはもう無理。


一度母親と共に殺されて、全てを奪われて。

それで、また元の関係に戻ろうなんて、そう簡単に割り切れる程私は人間出来ていない。


例えどんな理由があろうとも、私はお姉様を絶対に許さない。



だから、これからは攻防戦だ。





「……まあ、いずれにせよ、何かあったら直ぐ私を頼りなさい。その代わり、いつか事情を話せる時が来たら話すこと。分かった?」


再び押し黙ってしまった私にはお構いなしと。

リリスさんは突然胸ポケットから一枚の紙切れを取り出して、私に差し出してきた。


「これは?」


「私の住所。あんたの屋敷から近いし、もし緊急性があればギルドじゃなくて直接訪ねて来てくれていいから」


なんと。

まさか、何も話さない私にここまでしてくれるなんて。


改めてリリスさんの優しさに心を打たれた私は、またもや涙腺が緩みそうになる。


「ありがとうございます。話せる時が来たら必ずお話ししますので」


だから、感謝の気持ちを込めて。


そして、いつかそんな日が来ることを切に願って、リリスさんと約束を交わしたのだった。


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