光の在処 二
完全な闇の中で、シャイアは初めて「光」を理解した。
彼女の存在だけが、かすかな青白い輝きを放っている。しかし、それは普段の彼女とは違った。より純粋で、より本質的な光だった。
「見えるかい?」ラギの声が闇の中から響く。「本当の光が」
シャイアは、自分の周りに無数の存在を感じ取った。プラズマ形態種のイオ・フラックスは、かすかな発光を続けている。光帆種のヴェイラ・ナイトシャドウの体は、虹色の残光を放っていた。そして...
「これは」シャイアは、突然の理解に震えた。「私たちだけじゃない」
闇の中に、無数の光の痕跡が浮かび上がってくる。かつてこの場所を訪れた全ての存在たちが残した、光の記憶。それは「量子の残響」という名前の本当の意味だった。
「そう」ラギの声が続く。「このバーは、光を集める場所なんだ。物理的な光だけじゃない。存在という名の光を」
シャイアは、自分の光を優しく広げていく。すると、闇の中からさらに多くの光が応答し始めた。それは、まるで古代の光の言葉のようだった。
「私たち」シャイアは、ようやく理解した。「みんな光の子どもなのね」
その瞬間、店内の光が徐々に戻り始めた。しかし、それは以前とは違っていた。より深い、より豊かな光だった。
「いつか」ラギが、グラスを手に取りながら言う。「君にも分かる時が来ると思っていたよ。光のアシスタントであるということの本当の意味をね」
シャイアは、自分の存在が店内の全ての光と完璧に共鳴するのを感じていた。データ生命体の放つ電磁波、アンドロイドの光学センサー、量子幽霊の確率的な輝き、そして生命体たちの内なる光...全てが一つの大きな光の交響曲を奏でている。
「素敵ね」入り口で、気体型知性体のゾラ・ミストが感嘆の声を上げる。「まるで、宇宙が歌っているみたい」
シャイアは、自分の役割がより鮮明になるのを感じていた。彼女は単なるアシスタント・バーテンダーではない。彼女は、この場所に集う全ての光の守り手なのだ。
「量子の残響」の夜は続く。様々な存在たちが、それぞれの光を携えてやって来る。そして彼らの光は、永遠にこの場所に残響として刻まれる。
シャイアは、これからもその全てを見守り続けるだろう。光であり、光を理解する者として。永遠の瞬間を生きる、揺らめく青い炎として。