翼と疾風と 二
出来事は、光よりも速く展開した。
謎の人影のローブが弾け飛び、その下から銀色の機械生命体が現れる。同時に、キャプテン・ホークは青銅色の翼を大きく広げ、カウンターから跳び退いた。
「なるほど」ラギは、グラスを棚に戻しながら言う。「禁止されているはずの追跡型ハンターロボットですね」
ハンターロボットの全身が脈動する青い光で覆われる。その手から伸びた触手が、光の速度で店内を走る。
「させるか!」ホークが叫ぶ。
翼人種に特有の超反射神経で、彼は触手を避けながら宙を舞う。「量子の残響」の天井は、彼のような種族のことも考慮して、十分な高さがある。
「お客様」保安責任者のグラヴィスが、重力場を展開しようとする。しかし、ハンターロボットの発する電磁波が、彼の重力制御を妨害していた。
「キャプテン!」マリア・スターダストが、医療用インプラントから小型のEMPグレネードを取り出す。「受け取って!」
彼女の投げたグレネードを、ホークは見事にキャッチ。しかし、起動する前にハンターロボットの触手が絡みつく。
「チッ」ホークは舌打ちをする。「どうやら、積荷の件で誰かが怒ってるみたいだな」
「その通りよ」ハンターロボットが、金属的な声で答える。「あなたが運んだナノマシン、あれは本来、我々のクライアントの物だった」
「はっ!」ホークが嘲笑う。「闇市場で横取りされた物を、『本来の物』なんて呼ぶのか?」
その時、予想外の介入者が現れた。
「面白い」量子シールド室から、カルマ・ループの声が響く。「でも、その触手は過去の因果を切断できないようだね」
突然、ハンターロボットの触手が、まるで最初から存在しなかったかのように消失する。カルマ・ループの因果律操作によって、触手が伸びる前の状態に戻されたのだ。
解放されたホークは、即座にEMPグレネードを起動。青い電弧が走り、ハンターロボットの機能が一時的に停止する。
しかし。
「ありがとう」ハンターロボットが、予想外の言葉を発する。「これで私も、プログラムの呪縛から解放される」
その姿が、まるで蝶の羽化のように、変容を始めた。




