1-5 新しい日常
こんにちわ
「お・き・ろ~!」
誰かが、俺の頭を叩いた。
…………多分、鈍器で。
「痛っ!!」
「あ、やっぱ花瓶で叩くと一発だね。」
…………やっぱり、鈍器か。
「…………痛い。」
「大丈夫だって。血出てないから。」
血どころか、普通の人だったら死んでる気がするんだけどな。
「とにかく起きなよ。二人が待ってるよ。」
そう言うと、誰か(間違いなくミシェルだ)は俺の部屋から出て行った。
「……痛い。」
俺は、必死に頭の痛みをこらえつつ、なんとか立ち上がり、服を着はじめた。
そうだ!
着替えの時間を利用して、自己紹介をしよう。
俺はシン。
ここ、ヘイゼルガンドの首都にある、宿屋『躍る春風亭』に雇われてる剣士なんだ。
ん?それは知ってるって?
そうか。そうだよな。
じゃあ、何を知りたい?
まだ着替えの途中なんだよな。
なんで、今回は俺の一人称なのかって?
それはだな、よくわかんないんだ。すまんな。
多分、タイトルの『日常』って部分が、俺からみての『日常』だからじゃないかな?
よし、着替えが終わった。
じゃあ、酒場におりて行きますか。
二人が待ってることだし。
あ、二人ってのは、レンとスーのことだ。
あの二人とは、同い年だから。
それがどうしたって?
年が近いほうが馴染みやすいんだよ。
ちなみに、ミシェルは二つ年上らしい。
さて、そんなこんなしてるうちに、酒場についた。
まぁ、俺の部屋から60歩で行ける距離だからな。
いつもの、二人の会話が聞こえてきた。
「スー、塩とって。」
「はい。」
「スー、そのジャムまわして。」
「はい。」
「スー、可愛さの秘訣は?」
「レンちゃんのほうが可愛いですよ。」
「死ね。」
「ちょ、レンちゃん!フォークを投げたら危ないですって!」
「スー!あんた少しばかり顔がいいからって、調子にのるんじゃないよ!」
「レンちゃん!私は決してそんなことは思ってませんって!」
「うるさいっ!」
…………え~っと。
「クオンさん、ここいいですか?」
「…………構わない。……災難だな。」
「いえ、そんなことは…………少しありますけど。」
今日は二人とは別に食事をしたほうが良さそうだ。
基本的に食事は、レンとスーの二人と同じテーブルで食べることにしてるんだけど、時々、レンが暴走して、とてもじゃないけど(飛んでくるナイフやフォークを避けるので)食事どころじゃなくなることがある。
……まぁ、それが偶然今日だったわけだ。
というわけで、今日はクオンさんと同じテーブルだ。
「…………シン。」
「はい?」
「……慣れたか?」
「はい。毎朝ミシェルさんに起こされ(殴られ)るのは、まだ厳しいですけど。」
「…………それは慣れないほうがいい。」
クオンさんは、黒魔導師だ。
いっつも、黒いローブを羽織り、フードで顔を隠している。
……こないだチラッと見えたんだけど、フードの中は、かなり綺麗な顔だった。
なんで隠しているんだろ?
「……仕事はどうだ?」
「今のところは、簡単な仕事だけなので、なんとかやれてます。」
そう、今のところ、仕事は『畑を荒らすゴブリン退治』程度の簡単なものだ。
「……そうか。まぁ、大変な仕事の時は俺かジャックに言うといい。助けてやる。」
「ありがとうございます。」
クオンさんは、パッと見は、かなり不気味で怪しい感じがするんだけど、実際は凄く優しい。
面倒見もいいし、細かいところまで気を使ってくれる。
実際、この宿屋の面子の中で、一番いい人だ。
「お、シン君おはようなのだ。」
「クラッスルさん、おはようございます。」
ニコニコと俺に声をかけてきた、全体的に丸っこい人はクラッスルさん。
酒場の技術士で、主にみんなの武器(特にジャックさんの弩弓)の修理や改良を受け持ってる。
見た目通り、とてもおおらかで、のんびりした人だ。
クラッスルさんも、いい人なんだけど……クオンさんと比べると、少し頼りないんだよな。
「ん~、今日のレンちゃんは狙いが正確なのだ。」
見ると、スーが盾の代わりに顔前に構えた皿の中央に、過たずに突き刺さるナイフとフォーク。
「…………皿が砕けないといいが。」
たしかに、そんなことになったら、スーがかなり危険だ。
「多分、大丈夫ですよ。いくらレンでもそこまでは…………。」
ピシッ!!
酒場に響き渡る、乾いた音。
「…………多分?」
「えぇ。多分。」
見ると、スーの皿に無数のひび割れが入っていた。
「ん~……あと、二発で割れると思われるのだ。」
これは、かなりやばい。
なんとかして止めなきゃ!
その時、男の声がした。
まだ続きますよw