1-4 様々な面子
「俺はジャック。よろしく。」
いかにも傭兵然とした、右頬に傷のある厳めしい顔つきの男が、片手を差し出してきた。
「よろしくお願いします!」
シンは、その手をしっかり握る。
「彼は、うちの二番手ってとこかな。射撃手よ。」
「弓使いの傭兵……ですか?珍しいですね。」
「ん~、ジャックは弓使いというよりは、弩弓使いなのだ。破壊力が桁違いなのだ。」
「えっと、彼はクラッスル。うちの技術師よ。」
マスター(『何でも屋』の面々は、女主人のことをマスターと呼んでいた)が、小柄で全体的に丸く、どことなく優しい雰囲気の男の人を紹介してくれた。
「シン君だったかな?よろしくなのだ。」
「はい、よろしくお願いします。」
「彼は、基本的にここにいるから、わからないことがあったら彼に聞くといいわ。」
その時、シンの肩に手をポンッと置かれる感触。
「……ミシェルの隣の部屋だったな。」
慌てて振り向くと、真っ黒なローブを羽織り、ご丁寧にフードで顔を隠した、(声から察するに)男が立っていた。
見るからに、不気味な魔法使いって感じだ。
「えぇっ!……あ、はい、そ……そうですけど?」
正直、振り向いた時に、50cmの距離にあっていいものではない。
「……貴重品は必ず、身につけておけ。」
「…………は……い?」
「……それから、寝込みを襲われたら、大声を出せ。…………可能な限り、できるだけすぐに助けに行く。」
それだけ言うと、男はさっさと歩いて行ってしまった。
「ぇっと……今のは?」
「あぁ、あいつはクオンだ。まぁ、みりゃわかると思うが、魔導師だ。」
ジャックさんが答えてくれた。
「あんたの隣の部屋ね。……ミシェルと逆側の。」
マスターが補足説明。
「それから、やつの貴重品云々の話は、ミシェルが盗賊あがりだから気をつけろってことだ。」
「襲われる云々は、多分気にすることはないのだ。いくらミシェルでも、そこまで見境なく男に手を出さないはずなのだ。」
「……はい?」
さらりと、クラッスルさんが超弩級発言をした。
「さ、次行くわよ!」
「ちょっと、まだいろいろと疑問がっ!!」
「そんなのいいからっ!」
マスターに強引に引っ張られて行った先には、二人の女の子。
「二人は、あんたと同い年だから、少しは気が合うんじゃないかしら。」
超美少女が一人と、その子よりは劣るが、それなりに可愛い女の子が一人。
門番のじいさんが言った通り、ここは美人が多い。
ミシェルにしろ、マスターにしろ、かなりのレベルだ。
「ふ~ん、あんたが新入りさんねぇ?」
「ちょっと、レンちゃん!そんな言い方は良くないと……。」
儚い美しさと、滲み出る優しさ、ふわっと長い綺麗な髪。
ようするに典型的なお姫様タイプの美少女に、実戦向きのラフな服装、髪型もあまり気にせず、ショートカットで邪魔にならないようにした、ちょっと気が強そうな女の子。
まぁ、みるからに上下関係ははっきりしている。
「ウチはレン。よろしく。」
レンがぶっきらぼうに差し出してきた手を握る。
「ウチは、あんたと同じ剣使いよ。……思ってたより、若くてよかったわ。」
「……はい?」
「……いや、こっちの話。」
非常に気になる一言だ。
「そうそう、こっちの…………可愛い女の子は。」
凄く、苦々しげな表情で、おっとりとした美少女の身体を睨みつけるレン。
「……スーよ。魔法使いの。」
「ちょ、ちょっと、レンちゃん!そんな私を睨まないでよ。」
それでも、じと~っとした目つきでスーを睨みつけるレン。
……何が気に入らないのだろう?
「全く……あんた達は変わんないわね。」
マスターがため息をつく。
「シンがついてこれてないわよ。」
「え、あ、ごめんなさい!」
慌ててシンに頭をさげるスーと、我関せずといった態度で椅子に座るレン。
「えぇと……。私はスーです。若輩者ですが、よろしくお願いします!」
「えっと……こちらこそよろしくお願いします。」
スーのこの礼儀正しさは、いままでの『傭兵然』としたみんなとは、明らかに違う。
なんというか……。
異質
そう、異質だ。
この、戦闘慣れした連中がひしめく酒場において、ここまで涼やかな女の子は、明らかに異質だ。
「えっと、わからないこととかありましたら、なんでも聞いて下さいね。……できる限り、お答えしますから。」
とびっきりの笑顔。
「あ、はい。ありがとうございます。」
こんなに丁寧に接してくれると、なんだか調子が狂う。
「まぁ、だいたいこんなとこかしらね。……あと三人いるんだけど、いまは仕事で出てるわ。」
その後も、何人かの傭兵達を紹介され、(夕食を食べる暇など微塵もないまま)夜が更け、酒場からほとんど人がいなくなったころ、マスターがそう言った。
「仕事ですか。」
「そ、仕事。……飲む?」
「ありがとうございます。」
マスターが渡してくれた紅茶を、一口すする。
ほんのりと甘い、一日の疲れを癒してくれる味だ。
「おいしいです。」
「ありがと。」
マスターが嬉しそうに微笑んだ。
「……あの。」
「……何?」
「その、三人の方の仕事っていうのは?」
「あぁ。……気になる?」
マスターの微笑みが、意地悪なものにかわる。
「ぇっと……少しは。」
「そう。……二人は、普通の依頼よ。輸送飛行艇船団の護衛。一人が飛行艇の船長で、もう一人が鳥使いだからね。」
「鳥使い……ですか。」
自然界にいる、あらゆる鳥と友達で、あらゆる鳥を操ることができる者。それが鳥使いだ。
「そう。……珍しいでしょ?」
「飛行艇の船長も珍しいですよ。」
自分の飛行艇を持ってる人間が、こんな『何でも屋』に雇われてるのは、珍しいと思う。
「彼は変わってるからね。」
「……それで?」
「……ん?」
「もう一人は?」
「あぁ。」
マスターの微笑みが、最上級にかわる。
「たった一人で……。」
「たった一人で?」
「ドラゴン退治よ。」
あぁ、なるほど。ドラゴン退治か………………って!!
「一人でですか??!!」
思わず、声が裏返ってしまった。
「そうよ。」
さらりと答えるマスター。
「そんな無茶苦茶な!」
「大丈夫よ。彼女は無茶苦茶な強さだから。」
彼女ってことは……?
「女の方なんですかぁ?!?!」
「そう。……めっちゃくちゃ可愛いわよ。…………かなり悔しいけど。」
女一人でドラゴンと対等な強さ=可愛い
この方程式が、この世に成り立っていいのだろうか?
「惚れないようにね。」
マスターがニヤニヤした顔で、シンの肩をポンと叩いた。
全く……。
どうなってんだよ。
……この宿屋は。
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