1-1 到着
この小説は、作者ぽるぽの個人サイトで連載している小説の転載です。
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精霊暦2441年赤の月6日
ヘイゼルガンド王国・首都ヘイゼルガンド
「でっけ~街だな。」
青年は頭を限界ぎりぎりまで後ろに傾け、その巨大な街の、これまた巨大な正門を見上げた。
「次の人っ!」
門兵が青年を手招きした。
「はい。」
「名前は?」
「シン。キオルト村のシン。」
「旅人かい?商売かい?」
門兵が、やや決まり文句となった、入街検査の質問を口にする。
「旅人です。」
「そうか。持ち物を見せてくれるかな?」
流石に、王が住まう街だけあって警備は万全。
怪しげな武器を城内に持ち込むことはおろか、城下街にさえ持ち込むことは厳しい。
「はい。」
青年シンは素直に、背中に掛けていた荷物袋を門兵に渡した。
「ありがとう。」
すぐに返却される荷物袋。
どーせ中身は豆と干し肉、堅焼きパンなどの食糧と飲み水だけだ。
没収されるべきものが見当たるわけもない。
「他には何かあるかな?」
これまた決まり文句。
「えっと……これです。」
シンは、左腰にさげていた剣を叩いてみせ、さらに鞘からゆっくりと抜いた。
既に傾き始めた太陽の、橙色の光を浴び、キラキラと綺麗に輝く剣。
通常の剣よりはやや細めのそれは、通常の剣よりも軽く、青年が振り回すのにはもってこいだ。
「ほう……珍しい剣だな。」
門兵が呟く。
「うむ、いい剣じゃ。」
門兵の右側から響く、しわがれ声。
そちらに目をやると、小型の木椅子に崩れ落ちるようにして座る(乗る、という表現のほうが近いだろうか……)、しわだらけの老人がいた。
「なんだ、じいさん起きてたのか。」
「旅人が持つには、ちょいと立派過ぎる剣のように思えるんじゃがの。」
門兵の言葉を完全に無視し、老人は真っ直ぐにシンに尋ねた。
「えっと……。」
突然の質問に、少しだけ動転したが、流石にここまでかなりの距離を旅してきたシンだ。
醜い老人の顔に慣れてしまえば……。
「この剣は……、えっと、村一番の鍛冶職人が鍛えてくれたんです。」
「ほう……。高かったんじゃないかね?」
さらに醜い顔が近づく。
「いえ、鍛冶屋のおっちゃんが『餞別だ!』って……。『そのかわり、絶対死ぬんじゃないぞ!』って。」
シンが答えると、老人はしばらく真っ白な無精髭に手をあて、何やら考え込んでいたが、門兵はお決まりの言葉を続けた。
「じいさんのことは気にしなくていいよ、昔は凄腕の兵士だったらしいんだけど、今はちょっとね。……それより、君の剣なんだけど、この街では傭兵と狩人、騎士以外の武器の携帯は禁止されてるんだ。まぁ、騎士なんてのはここ60年は来てないらしいけど。」
門兵は、ちらりとシンの剣を見遣る。
「だから、街に滞在している間は、剣をここの門兵詰め所に預けておいて、街を出る時にまた受け取るってかたちになるんだけど……。」
シンは剣を見つめ、少し考えた後、言った。
「うーん……。やっぱりこいつを少しの間とはいえ、手放すのはなぁ……。よし、じゃあ俺別な街行くよ。」
荷物を背負い直し、正門に背を向けるシン。
「おい、ちょっと待ちなよ。いまからだと、一番近い村でも夜中になるぞ。最近は魔物が……。」
「大丈夫だって。魔物くらいこいつがあれば。」
気軽に剣をたたくシン。
「しかしな……。」
困惑する門兵。
……その時。
「待ちなさい。」
再び聞こえてきたしわがれ声。
「腕に自信があるのかね?」
「まぁ……そこそこは。」
「よかろう。」
一人頷く老人。
「なんだよ、じいさん。」
胡散臭そうに老人を睨む門兵だが、当の老人は全く気にかける様子はない。
「よし、わしが良い場所を紹介してやろう。……おまえさんは、そこで狩人として滞在すれば良い。」
「まてよ、じいさん!そんな勝手な!」
当然といえば当然だが、おもいっきり反論する門兵。
「国指定の商売やってる宿屋だからな。大丈夫じゃ。……どうじゃ?いくらか簡単な魔物退治をやらねばならんが、剣を持ち込めるし、宿を探す手間も省けるぞ?」
「だから、待てって!そもそも、そこが受け入れてくれるかもわかんないじゃないか!」
「大丈夫じゃ。あそこはもともと人材不足じゃ。それに、わしの紹介なら間違いなく受け入れるはずじゃ。」
門兵の度重なる反論にも、全く衰えることのない老人の言葉。
「えっと……。」
流石に、この急展開にはシンといえども、簡単にはついていけない。
「おまえさんのような若者の一人旅なら、さしたる目的地もあるまい。」
確かに、シンの旅は目的地がない。
いや、ないというよりは、どんなところでも目的地に成り得るのだ。
自分の生涯住まう場所を捜す。
それが、シンの旅の目的なのだから……。
「おまえさんなら、宿屋の面子も気に入るだろうし、案外、狩人生活が気に入るかも知れないぞ?」
そう、このヘイゼルガンドがシンの旅の目的地になることもあるのだ。
「……それにだ。」
さらに、老人が続けた。
「なかなか美人が多い街じゃからの。ここは。」
ぼそっと呟く老人の言葉。
……美人か。
シンの頭の中で、かなり複雑な計算が始まった。
そして……。
「わかった。……案内してくれ。」
剣が持ち込めて、美人が多いなら、魔物退治の一つや二つくらいなんてことはない。
それに……。
そろそろ一つの街に長期滞在するのも、悪くない。
……特に、美人が多い街の場合は。
読んで下さってありがとうございます。