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熱中症には気を付けよう。

 皆様初めまして、沼男Mk.Ⅲでございます。


 これは設定だけねりねりしてて書く気はなかったお話だったのですが、暇な時間が降ってわいたので筆を取った次第です。

 お見苦しい点多々見受けられるとは思いますが生暖かい目で見ていただければ幸いでございます。


 どうぞよろしくお願い致します。

 異世界転移、あるいは異世界転生。

 男女問わず、そしてもっと言えば社会的にも精神的にも未熟な時期。つまりは思春期なんかに一度は憧れたことがあるんじゃなかろうか。

 そんなことはないとしらを切ったり、そういわれて初めてあぁ、そんな人もいるのかとすっとぼけてみたり。そんなあなたはぜひ一度胸に手を当て思い返してみてほしい。

 冒険者となって野山を探索し、仲間と出会いダンジョンに潜る。野営をして、火を囲んで星空を眺めながら他愛のない話をしたり。はたまた貴族となって内政チートなんてやってみたり。

 陰謀に巻き込まれて命からがら逃げおおせ、波乱の先に恋と鉢合わせたり。

 

 そんな「非日常」を夢見たことはないだろうか。

 退屈な日常、不安渦巻く不穏な人間関係。逃げ出してしまいたくなるような当たり前に雁字搦めにされていたならばなおさらに。

 かくいう僕もそんな非日常に夢を見ていたのだから締まらないが、先の問いに肯定を返してくれた人とはきっと仲良くなれただろう。

 とはいえきっと憧れなかったという人もいると思う。人類70億人すべてが同じ意見を持っているなんてことはあり得ないのだから。

 

 まぁ実際のところ異世界なんてそんなにいいものじゃない。ご飯は大雑把な味か薄いかの二択だし。

 ベッドは硬いし町を出ればモンスターが犇めき。じゃあ町の中は安全かといえばたいてい犯罪者が巣食っている。

 勇者になんてなれはしないし、そもそも冒険者にすらなれるか怪しい。モンスターは剣一本で倒せるほど甘くはないし、野宿なんて寝れたもんじゃない。

 信用できる人間なんてほとんど居ないし、そもそも人とかかわりを持つのだって一苦労だ。

 後何よりの違和感は…。まぁ後でのお楽しみということで。


 とにかく、異世界に憧れなかった現実主義の、賢いあなたは間違っていない。むしろ正しいといえるだろう。


 でも、故にこそ。ひょんなことから異世界に飛ばされて、挙句の果てにチェンジでと言い放たれた僕だからこそ。

 声を大にして、今生きるこの世界の青空の下でこう叫ぶのだ。


 異世界に来れて、本当に良かったのだと。



 さて、物語の始まり、序章。モノローグ。

 いやまぁ言い方はなんだっていいのだけれど、とにかく一番初めにまるで打ち切り漫画のラストシーンかの様な発言をしたのでは読者諸君も意味が分からないだろう。

 わかるように説明するためには、まずは物語の始まる前。僕がまだ太陽系第三惑星、われらが青き惑星地球の、極東に位置するちっぽけな島国日本の首都東京にいた時に遡ることとなる。

 

 暑いを通り越してもはや熱い、そんな猛暑日。夏休み明けに文化祭を控え夏休みだというのに学校へ皆が狩り出されている。

 そんな中校舎の屋上で文化祭の準備をさぼっている男。いや、そっちの髪の毛ふさふさのイケメンじゃなく。そう!そっちの隅っこの日陰にいるやつだよ。

 ワイワイと男女人で歓談している陽キャ集団ではなく、日陰でこっそりとエナジードリンクをあおっている坊主頭こそが庄司(しょうじ) (ひとみ)


 つまりはこの物語の主人公なのである。




~~~~~~~~~~~~~~~~

[2020年8月15日:東京]



 「あ"つ"ぃ"・・・。」

 日陰にいるのに汗が止まらない。いつからこの国は熱帯の仲間入りをしたのだろうか。コンクリートジャングルもそのうち本当のジャングルになるのではと思うほどだ。

 日本の学校に夏休みがある理由がよくわかるというものだ。

 こんな温度の中クーラーすらない屋内に30人がひしめき合っていたら勉強どころではないだろう。教科書もノートも湿気でふやけ、流れる汗で前が見えなくなるに違いない。青空って、風って素晴らしい!


 とはいってもである。いくら風通しのいい日陰の下とはいえ暑いものは暑いのだ。むしろ熱いといっても過言じゃない。コンクリートで目玉焼きができそうである。

 まぁサボって蒸し器の如き教室から逃げ出してきた人間が言えたことでは無いんだけれども。

 

 「はぁ~!暑くてやってらんねえわぁ!もうさ、どうせサボんならヤクド行こうぜヤクド。」

 「さんせ~い!ウチシェイク飲みたぁい、期間限定のやつ!」

 「ほんとに甘いもの好きだよねー、アカリ。そのうちホントに蟻になっちゃうんじゃなぁい?」

 「アカリだけにってか?やかましいわドアホ!」

 

 う~~~~ん。少し離れた日陰から聞いていても喧しいことこの上ない。陽キャは陽キャらしく文化祭の準備に張り切ってもらいたいものだ。

 金髪ピアスのライオン頭に腰に茶髪ポニテのギャル。それに黒髪ロングの3人組を見て独り言つ。


 なんだってわざわざ教室(サウナ)からの逃亡先に炎天下の下、よりによって日向を選んでいるのだろうか。

 熱いだろう、そこ。お前だよ見事なライオン頭。本当に、良く血液が沸騰しないものだ。髪の毛の中に卵入れたら3分かからずゆで卵ができそうである。

 

 もしやあれだろうか、陽に位置する者は暑さに耐性があるのだろうか。うらやましい限りだ。

 いくら羨んだとて釣り目三白眼坊主頭の三拍子がそろい踏みなんて奴には三千里旅したところでその仲間入りはできないのだけれど。

 誰のことかって?僕だよ!やったね、くそったれめ。


 にしても本当に暑い。飲み物のセレクトおかしいだろう十五分前の僕。ものの五分で熱燗もかくやといった具合である。熱中症って知ってる?知ってたらエナジードリンクなんてチョイスしないよなぁ…。

 拝啓この手紙、読んでいるお前の顔面にシュゥゥ!してやりたい。せめて水にしてくれ。頼むから。


 しかし、飲み物があるだけ幸せだろうか。この暑さの中飲み物のない様では、心なしかライオンヘアーも萎びている気がする。

 まぁ有名ファストフードチェーン店へ移動を始めた様だし、冷房に吹かれればすぐに元気を取り戻してしまうだろう。ずっと萎びてていいぞと念を送っておこう。特に恨みはないけれど。お前も坊主にならないか。


 「はぁ・・・。」


 さて、どうしようか。このままだと三人組が目の前を通ることになるんだよなあ。一応同じクラスだった気がするし、陰口とか…まぁそんな心配は今更ではあるだろうが。

 よし、こうしよう。ちょうど死角になる壁に張り付く、三人組目の前通る、気づかない。みんなハッピー。ラブアンドピース。

 万が一見つかった場合、印象が人畜無害な陰キャ坊主から不審者ハゲに昇格しそうだがまぁ大丈夫だろう。視界狭そうだし。


 そんなことを考えているうちに話し声がもうすぐそこだ、早速壁の染みに擬態するとしよう。


 「なな、リンカさ、クーポン持ってない?ウチ通信制限で見れないんだケド。」

 「んー?あると思うけどー、どうしよっかなぁー?」

 「んなっ!?それぐらいいいじゃんか!ウチら親友でしょ!?」

 「親しき仲にも礼儀ありだよ~?ほらぁ、人にものを頼むときはなんて言うんだっけー?」

 「リンカさん、いやリンカさま!どうか哀れなアカリにシェイクのクーポンをお願いいたしますぅ~!」

 「うむー、そこまで言うなら仕方な『PRRRRRR!YEAH!CALL NOW!』」


 いやあの、弁明させてほしい。この人を馬鹿にしたような耳障りな着信音は決して自分で設定したのではないと。

 へへ、やだなぁ、そんな目で見ないでくださいよお二人さん。ホント、ヤメテ。


 『PRRRRRR!YEAH!CA「テメェこの野郎!また着信音いじりやがったなこん畜生!おかげで人畜無害坊主が不審者ハゲに昇格しちまったじゃねぇか!」

 「分かりやすくていいだろ?もうそろ受け入れろって。それにほら、嫌よいやよも好きのうちって言うじゃん?」

 受け入れてたまるか。何が悲しくてコイツの陽気な声を着信にせにゃならんのだ。それとそういう時は大体相手本当に嫌な時だからな。そんなんだからいつまでたっても彼女ができないのである。顔はいいのに。


 「てかなんだよ不審者ハゲって、自己紹介か?的を射てるしいいと思うぜ。今度からそう言えよ、自己紹介。きっと大うけだぜ?」


 まぁよくしゃべる男である。これだけしゃべって下が絡まらないのが不思議ったらありゃしない。それとだれが不審者ハゲだコラ。


 「まぁそれはいいや。あ、そうそう、ザキ先がお前のこと探してたぜ?って電話したんだよ。どうせサボりだろうから親友からの忠告な。早めに帰ってきたほうがいいぜ。」

  

 そいつはまずい。大変まずい。何がまずいかってザキ先こと山崎先生は学年主任であり風紀委員会顧問であり生徒指導担当なのだ。

 ただでさえ授業中に寝ていて目をつけられているというのにこれ以上は本当にまずい。

 

 「わかった、すぐ教室戻るわ。さんきゅな、ケンジ。」

 「おう、礼は高いのカップアイスでいいぞ。もちろんジョージのおごりで。」

 

 なんともがめついことだ。助かったのが事実であるだけに断りずらい。さてはこいつ、策士だな!?

 

 「はぁ、わかったよ。クッキーバニラでいいよな?確かそれ好きだった、よ、、な」


 こちらをまるで不審者を見るような、それでいて珍獣を見るような視線で射貫きひそひそと小声で話していた女子二人。

 その後ろ老朽化した柵によりかかった姿勢のままゆっくりと青空へと傾いていくライオンヘアー。その焦点のあっていない顔が落ちていくのがやけにゆっくり見えた。


 スマホが手から滑り落ちる。


 眩い炎天に白飛びする視界の中、足を踏み出す。


 唖然としてこちらを見る女子二人を押しのけ手を伸ばす。


 夕焼け、トンビ、電波塔、三日月に歪んだ口元。


 届け、間に合え、掴まなければ、離してはいけない、もう二度と、繰り返さないために。


 「お、お、お、ぉ、あ、ぁ、あ、あ、ぁ、!」


 やけに間延びした自分の声がどこか遠くから聞こえる。あと少し、指先が袖をかすめる。

 駄目だ、間に合わない。だけど、まだ!


 「だああぁぁらっっっっしゃああぁぁいっ!」


 汗でぬるりと滑る手首に爪を立て、柵に足をかけ!ハンマー投げのイメージで!


 


 あぁ、火事場の馬鹿力とはよく言ったものだ。きっと今100メートルを走ったのならきっと5秒もかからなかっただろう。

 有り得ないって?あわや屋上から真っ逆さまになるところだった熱中症ライオンヘアーを屋上に投げ飛ばしたのだ。それくらいの自惚れは許されていいだろう。

 唯一の心配事といえば先日買い替えたばかりのスマホの安否だメキ。 

 

 

 あぁ。きっとケンジもびっくりしているだろうな。通話繋げたままだったし。よし。アイスを二個に増やしてお詫びしてやろう。そう思うくらいには気分が良い。





 メキ?





 メキメキ、みしりと音を立て足をかけていた柵が歪み倒れる。なるほど足をかけた位置がまずかったらしい。どうやら上過ぎたようだ。

 100メートル5秒の健脚、否、剛脚に蹴られ、剰え2人分の体重が瞬間的にかかったのである。むしろ良く持ったほうなのではなかろうか。


 視界を占める青色の面積がゆっくりと広がっていく。挟まっていた靴が脱げ、体がふわりと投げ出される。

 

 ライオンヘアーに駆け寄った黒髪ロング。こちらに気づき必死の形相で手を伸ばす茶髪ギャルの顔が懐かしい誰かに重なって気がした。

 そういえばあの子も、ピンク色のシュシュをつけていたっけなんて思いながら、嗚呼これが走馬灯かと嘆息する。


 落ちて、墜ちて、堕ちて。やがて視界は太陽の光でいっぱいになり、白く染め上がる。

 死ぬ瞬間はやっぱりスローモーションになるんだなと変に感心したりして。それでも走馬灯が白飛びしてたんじゃ恰好がつかないやと苦笑したところで意識が途切れた。



~~~~~~~~~~~~~~~~

[???年?月?日:???]

 

 白く染まった視界が徐々に色彩を取り戻していく。どうやら助かったようだ。帰宅部の厳しい自主トレを積んだ体は意外と丈夫だったらしい。

 硬く滑らかな地面に手をつき体をのそりと起こせば、先ほどとは打って変わって冷たい空気が鼻を通る。

 特にどこも傷まない体をさすりながらあたりを見渡す。槍の穂先がこんにちわ!


 「動くな!両手を頭の後ろで組み地に伏せろ!さもなくば命は保障しない!」


 前言撤回。やっぱり助かっていなかったかもしれない。

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