一話 雑用係と水晶玉
異世界と現代日本の恋愛物を書けないかと想い、取り敢えずそれなりに読んでくださる方がいましたら続けようと思います。
僕の名はアルバス・ユークリッド、父さんは過去に世界を滅ぼすと言われていた“暴食龍マラク”を討ち倒し英雄になった。
でもそれが僕の不幸の引き金になるとは、この時は想いもしなかった。
何故なら、当時は皆から先見の明で見られていたけど僕に剣の才能も魔法の才能も無い事が分かると次第に皆離れて行った。
勝手に周りが期待して、勝手に期待を裏切られたかの様に振る舞い、それでも英雄の息子かと罵倒され生きた心地がしなかった。
当然だ、僕は所詮父さんの息子であって父さんとは違うんだ。
昔は父さんの様な冒険者に憧れて剣を振り続けた事もあったけど、今となって父さんが僕に冒険者になるなと言ったのか分かる。
そう、幾ら努力した所で才能が有ったって油断すれば簡単にその命を終わらせてしまう。
冒険者になるのは変わらない夢だけど、今は冒険者ギルドの雑用係で満足している。
「おい、アルバス! 倉庫の掃除は終わったのか!?」
「あっ、はい! 今直ぐに取り掛かります!!」
「……ったく、頭の回転も遅ければ行動も遅えなアレでもドリアスさんの息子なのかね!!」
僕はギルド長のヘイブンさんに言われて、掃除を終えた筈の倉庫へと向かう。
「うわ、これは酷いな。」
倉庫に着くと辺り一面カラフルなペンキが木箱に付いていたり、泥の様な物が壁にぶつけられたかの様になっていた。
「くひひひ……、駄目じゃないか〜アルバス君! こんなに汚して〜。」
「いや、これは僕じゃ……。」
「ギルド長、アルバスが倉庫でヘマしっましったよ〜。」
「またか、アルバス! 態と勤務時間増やして、給料が増えると思ってるのか!?」
「そんな事……。」
「黙れ! 今日中に倉庫の掃除終わらせておけよ、これだけ迷惑掛けたんだ! 減給も視野に入れておけ、分かったな!!」
「はい……。」
「それに引き換え、よく知らせてくれたな! 流石は私の息子だ。」
倉庫を汚した犯人は分かってる、今ギルド長に褒められ頭を撫でられているギルド長の息子タックスだ。
何時も僕はコイツから、嫌がらせを受けて必要最低限の賃金での生活を余儀なくされている。
「くひひひ、パパはまだ仕事が残ってるでしょ? オイラがアルバスを見張ってるから安心して職務に励んでよ!」
「パパ思いの息子を持って嬉しいよ、おいアルバス私が何故お前を首にしないか分かるな? もし首になんてしたら、ドリアスさんの株を下げる事になる! お前もドリアスさんの株を下げねえ様に働くんだな!」
ヘイブンさんは僕を叱責するとタックスを残し、倉庫を後にする。
「くっひひひひ、英雄の息子も大変だなあ!」
「ねえ、これやったの君だよね?」
「何の事かなあ? 証拠も無いのに犯人扱いとか、英雄の息子として恥ずかしくなあいのお〜?」
「はぁ、君と話してても埒が明かないし倉庫の掃除させてもらうよ。」
倉庫の掃除に取り掛かるとタックスは何時の間にか居なくなっており、数時間掛けてようやく綺麗になった時に後ろから大量の水を掛けられる。
「冷たっ!!」
「疲れただろ? 水分補給を簡単にさせてやったんだ、オイラって優しいだろ? じゃあな、給料泥棒さん!! くひひひひ!!」
折角掃除を終えた後だというのにタックスのせいで倉庫は水浸しになり、雑巾で拭く手間が増えた。
「いい加減、辞めたいけど周囲からの僕を見る眼なんて分かりきってるし辞められないな……うわ!」
疲労が溜まっていたのか水で脚を滑らせ転倒してしまった。 その衝撃のせいか、一つの水晶玉が転がって来る。
「いってて、今日も散々な一日だな。 これは、水晶玉? 冒険者の魔法適正を図る物と違うし……何だこれ?」
「アルバス! まだ、掃除してたのか!! とんだノロマだな! ん、何だその水晶玉は?」
ヘイブンは僕の手から水晶玉を引っ手繰るとマジマジと見つめ、僕へと水晶玉を渡す。
「あのギルド長、この水晶玉は?」
「あーそれか、お前と同じタダの塵だよ! 欲しけりゃやるよ、但し倉庫の水を拭き取ってからな!!」
僕は倉庫の水を拭き取り、水晶玉を持って家路に着く。
「お帰りアルバス、今日も遅かったじゃない。」
「うん、ただいま母さん残業になっちゃって。」
「それは?」
「貰ったんだ、ギルド長から。」
「そうなの、ご飯食べる?」
「疲れたからいい……。」
母さんは僕の事を心配していた、けど正直どうでも良かった、明日も変わらず嫌がらせを受けて一日の仕事が待っていると思うと食事なんて到底出来そうにない。
「貰ったのは良いけど、何に使うんだろう?」
その時だった、突如水晶玉が光出し映像が映し出される。
「うわっ! 何だ、何が起こってるんだ!?」
《何これ! 急に光って!?》
映像が映し出されたかと思うと今自分の居る世界とは違う、別世界の様な何処かの部屋が映されコチラを驚いた表情で覗き込む自分と同じ位の年齢に見える女の子が居た。
「え……?」
《もしかして、願いを叶えてくれる精霊? 本物なの?》
何が起きているのか分からなかった、水晶玉に映る女の子は黒髪にツインテールで水色の変わった服を着ていた。
《ねえ君、水晶玉の精霊さんだよね? お願い、私もう耐えられないの! 助けて!!》
「いきなり助けてって言われても……。」
《ごめん、そうだよね……名前も言ってないもんね。 私の名前は言ノ葉梓です。》
「僕はアルバス・ユークリッド。 さっき耐えられないって言ってたけど何が有ったの?」
《実は、私イジメられてて……もう限界なの……だから藁にも縋る想いで水晶玉を買ったの。》
「イジメって?」
《私は悪くないのに……、お父さんが悪いのに! 何で私まで悪者扱いされないといけないの!? 毎日毎日、靴箱に泥入れられたり、机に死ね犯罪者なんて書かれないといけないの!?》
水晶玉に映る女の子は今まで受けてきたイジメを僕へとぶつけるかの様に泣きながら吐き出す。
(同じだ……、経緯は違うけど親が原因でこの子も不幸になってるんだ。)
《ごめんなさい、精霊さんに当たっても何の解決にもならないよね。》
「良いんだ、僕は君の願いを叶えられないけど話し相手にならなれるから、泣かないで。 実は僕も父さんが原因で辛い毎日おくっているけど君と話せて少し気が楽になったよ。」
《あ、水晶玉が……。》
水晶玉に映った光景が徐々に消えていき、次第に女の子の声も聴こえなくなり、僕は何時の間にか眠っていた。
「ん、んー…………夢?」
隣りに有る水晶玉を持ち上げ見つめながら、胸がドキドキしているのを感じる。 どうやら、僕は水晶玉の向こう側にいる女の子に恋をしてしまった様だ。
読んでくださり有難う御座います。
次回は現代日本の言ノ葉梓の話になります。
続けばですが。