安い牛タンは噛みきれない
タイトルだけ思いついて話を作りました。多分消滅すると思います。
ヤンデレとは、キャラクターの形容語の1つ。「病んでる」と「デレ」の合成語であり、広義には、精神的に病んだ状態にありつつ他のキャラクターに愛情を表現する様子を指す。その一方、狭義では好意を持ったキャラクターが、その好意が強すぎるあまり、精神的に病んだ状態になることを指す。
「メンヘラ」(めんへら)とは、「メンタル(心)」の「ヘルス(健康)」に問題を抱えている人を指す、インターネット生まれの造語。
ダークライとはポケモンの名前である。今回の話では全くと言って良い程出てこない。ただこれを使うと語感が良くなる。
「ねぇ悠くん、私と一緒に逝こうよ、誰も触れない二人だけの国に」
安生公子は果物ナイフを右手で握りしめ、笑みを浮かべながらそう言う。
「だ、駄目!悠くんは私を人にしてくれた。悠くんはもう私の一部分なの!絶対殺させない!」
公子の迫力に圧倒されて倒れ込んでいる悠を守るように香西香純が立ちはだかる。
「ぽっと出の女が邪魔しないで!これは私と悠くんの問題なの!」
「違う!悠くんは私の一部分、つまり私は悠くんなの!」
「……」
理不尽なことを言う公子に香純は理不尽な解答をする。というより今なにか黒い変なものがいたぞ?
いや、そんなことはどうでもいい。今はこの場を収めなければならない。一体どうしてこうなってしまったのだろう。
悠の頭の中にまるで走馬灯のように今までのことが流れ出した。
安生公子との出会いは小学生の頃までに遡る。
はっきり言って彼女は暗い子だった。友達はいるものの休日に一緒に遊びに行くほどではなく皆から1mmほど浮いていた。
そんな彼女に手を差し伸べたことに後悔はしていない。しかしそれが始まりだったと思うともう少し考えて行動すべきだった。
「ねぇ、良かったら土曜日一緒に出かけてくれない?母の日のプレゼントを買いたいんだけど何を買えばいいか分からなくて」
これは別に彼女を誘うための建前で母の日のプレゼントを買おうとした訳では無い。女子に意見を貰いたく、たまたま彼女を誘おうと思っただけだ。
公子はどうすればと考えていたが最終的にはOKを貰い、一緒に出かけることになった。
そこから段々と距離が縮まっていった。たまにではあるが一緒に遊んだり、彼女の方から出かけようと誘ってくれたりと彼女も段々と心を開いてくれた。そしてそれがポジティブに働いて自分以外の友達とも一緒に遊ぶようになり、我ながらいいことをしたなと思った。それでも自分と彼女との仲は続いて、彼女も段々と暴走していった。
例えばバレンタインにチョコレートの他にバラの花束を、そして誕生日には言ってもいないのに自分が欲しかったものが配達されてきたりと中々に怖い思いをした。それに対して自分も頑張って返そうとしたが、いらないわ、いつも貰ってるものと謎の言葉を毎回言われた。
流石にそれに怖くなった自分は中学校を少し遠い場所にして彼女から距離を置いた。きっと彼女は病んでいるんだ。少し距離を置けばきっと前のような関係になれるはずだと。
そうして中学校3年間は平和に過ごして高校生になった。
そこで驚いたのは公子が一緒の高校であったこと、そして小学校のときのイメージとはまるで違う明るい陽キャになっていたことだった。彼女も変わったんだと胸を撫で下ろしたのをよく覚えている。それを証拠にクラスが違うこともあるが全く自分と接することは無く、数人のグループで一緒にいた。
彼女との友人関係はそこで終わったと思い、何だか嬉しいような悲しいようなそんな感情になった。
しかしそれは終わっていなかった。そしてそれに加えて香純との関係が始まった。
香純は小学生のときの公子と同じ、それよりも酷い状態であった。
入学式のときから不登校であり彼女と同じ中学校の生徒に彼女について聞くとよく分からない、ヤバいやつだよ、成績は優秀だという抽象的な情報しか得られなかった。
そして悪魔の罠なのか、自分が一人暮らししているアパートと彼女の家がとても近かった。そのために担任の教師から交流も兼ねてくれという事から課題や連絡を渡されてしまい、彼女の家に行く機会が増えていった。
最初はただの配達員のような感じで彼女の母親と軽く玄関口で話す程度であった。それが段々と家に招かれるようになり、彼女についての悩みなどを母親から聞いたりなど次第に距離が近くなっていった。
そしてある日、少し手伝って欲しいと言われた。
実はしばらくお風呂に入っていなくて何とかして入れたい、洗うのを手伝ってという訳では無いけれども彼女を何とかしてお風呂場に連れて行きたいので手伝ってくれないという内容であった。
自分はただ配達しているだけなのにも関わらずお茶菓子をご馳走になっているのでそのお返しということもあり快諾した。
そうすると彼女の母親は喜んで、自分に軍手とマスクを渡して討ち入りとなった。
彼女の部屋に入ると人間が住んでいるとは思えない臭いが悠の鼻に襲いかかり、悠は急いで息を止め、何となくナウシカを思い出した。
そしてベッド?らしきものの上に蠢くものを見つけて母親と共にそれを拘束した。
香純は暴れて何とかして振り切ろうとしたが最終的に母親が手首を決めて観念したのかそのまま母親と一緒にお風呂場に向かった。
そして困ったのはその場に残された悠。特に何もしていないと感じた悠はそのまま片付けられそうなものを片付けることにした。それに喜んだ母親は明日もどうか来て、片付けを手伝ってくれと深々と頭を下げて来た。大人の本気のお願いを断れなかった悠は二つ返事で承諾して次の日も行くことになった。そして次の日。香純と彼女の母親と一緒に部屋の片付けをした。前日に香純とは会っているのだが顔を確認するほどの余裕が無かったために実質初めての対面となった。
やはり彼女の顔は病人のようで顔は青く、あちらこちらにニキビが確認できた。それにファッションなんて気にしていないようで一応客人、それも異性であるのにも関わらずどれだけ着ているのかと思うくらいよれよれのパーカーと大きな丸メガネをかけて部屋の掃除を行った。
三日ほどかかったものの部屋は綺麗になり、そしてこの一家との距離感は一気に縮まった。が、香純が学校に来るということは無く、関係性は全く変わらなかった。
そしてある日突然自宅に香純、公子の順で二人がやってきて、そして二人が遭遇した結果今に至る。
「ちょっと待て!これはどういうことだ!何なんだこの状況は!」
悠は走馬灯に突っ込みを入れる。
確かにフラグは建てた、それは認めよう。しかし建てた二本のフラグが死亡フラグに繋がるとは思いもしなかった。
「どういう状況って悠くんが他の女と一緒にいるからに決まってるでしょ!!」
「それがよく分かんねぇんだよ!俺たちは付き合ってすらないしそもそも接点が無かっただろ!」
「そんなの関係ない!愛に近いも遠いも無いの!」
「理不尽が過ぎるだろ!!」
「理不尽なんて関係ない!私はずっと悠と会うのを楽しみにしてたの!悠のいなかった中学三年間はずっとぽっかり穴が開いたみたいに辛かったの!」
そう言って公子は急に泣き崩れた。そして香純はその隙をついて公子からナイフを奪う。
これでひとまず最悪のケースは避けられた。
「悠くんを傷つけようとするなんて許せない!」
香純はそう言ってナイフを公子に向ける。
「ちょっと待て!どうしてそうなる!」
「どうしてって悠くんを殺そうとしたんだよ!そんな相手を活かしておくわけには…」
「だから一旦冷静になれ!話せば多分だけど分かるから!」
「どうして…私は悠くんのためを思ってやったのに…」
そう言って香純も泣き崩れる。その隙に悠は彼女からナイフを奪い取ってようやくデッドエンドが回避できた。
「私はずっと…ずっと思っていたのに…」
「私は悠くんのために…だから…なのに…」
さてあとはこの泣いてる二人をどうにか泣き止ませて、何とか話をつけるだけだ。
「とりあえずお茶でも入れるか」
温かいものを飲めば少しでも気が休まるはずだ。
悠は二人が何か起こさないかを見張りつつ、お湯を沸かし始めた。