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4 『建国の使徒』

 目が覚めたとき、ノアは今どこにいるのか一瞬分からなくなった。


 家のベッドよりも立派な天蓋付きのベッドの上で、しばらく透かし織の布を見て、あぁ、とやっと昨日の事を思い出す。


 レイがコントロールしてくれなければ、まだ自分で地脈の力とやらは感じ取れない。


 だが、レイは国王だ。戯れで『泥の血』を拾う事は無いだろう。


 あまりに広々とした部屋を眺めて、この賓客扱いもそれに起因するものだと思うものの、とは言えまだ自分がやったことが信じられなかった。


 夢かもしれない、とも思ったが、使用人に支度を手伝われて朝食を摂り、執務室に連れて行かれて天井に刺さったままのソファを見て、現実だと思い知る。


「下がっていい。——ノア、おはよう。君はきっと『夢だった』と思うと思ったから残しておいたんだけど、どう? 実感できた?」


 使用人と官僚を下がらせて、笑顔で聞いてくるレイにノアは頭を抑える。読まれているし、何もこんな方法で思い知らせなくていいとも思う。


「夢じゃない事はよく分かりました……、私はこれをどう弁償すればよいでしょうか。私はお金も何も無いので……」


「弁償する程のことじゃ無い。君には苗字と住処と地脈についての知識、魔法の訓練を今後学んでもらうし受けてもらう。それからが、私からのお願いになる」


 レイのお願いとはなんだろうか? ノアは怪訝な顔になるが、そこまでの道のりは遠いようだ。


 貴族が魔力測定を受けてからは1年は魔法の練習をする。1年で習得できる、と言えばいいのか、1年もかかる、と言えばいいのかは分からないが、1年で覚えられるのは基礎だけだ。その後は本人の努力と方向性による。


 弁償する事じゃない、と言いながらレイがサインを終えたペンを天井に突き刺さったソファに向かって振ると、ソファは元の位置に戻り、砕け散った天井の破片がパズルのピースを嵌めるように戻っていく。


「一体貴方は……」


「レイ」


「……レイは、私に何をさせたいのですか?」


 レイはまた一枚書類にサインをしてから、にんまりと笑う。若い姿に老獪な笑顔は、ちぐはぐだが思わず腰が引けそうになる不気味さがあった。


 これは畏怖という感情だと、ノアはまだ知らない。16歳と80を過ぎた男の見てきたものは違う。


「君にはいずれ、この国を……いや、世界を見てきてほしい。私はここを離れられないのでね、こうして毎日サインをして暮らさなきゃならない。私の名前一つで色んなものが動いて、救われ、死していく。それが現実ではどうなっているのか……私の影として見てきてほしい」


「……壮大なお話ですね。その為に私を使わなくとも……貴族の中でも魔法が使えるはぐれ者はたくさんいますよ」


「いいや、君でなきゃダメなのさ。『泥の血』として全ての経歴の抹消を行うことを合法的に許され、何よりも、地脈に繋がることができるという世界唯一の能力を持っている……いや、はは、君を捨ててくれて感謝してるよ。歳のせいか名前は忘れたが、あの公爵には」


 レイはノアの何が気に入ったのか、ノアの父親がノアを恥と言って捨てた事を怒っているようだった。全ての貴族の名前と家族構成どころか、動向まで知っているだろうに白々しい。


 ここで口を挟むのはあまり良く無いとノアは直感して黙った。


「本当にね……君はまだ実感できてないんだね? 地脈と繋がること、それを己の力として使えること……、私は大言壮語を言っているわけじゃない。この星と呼ばれる大地が君の魔力だ。今までそんな人間は存在していない、建国の使徒を除いて」


 建国の使徒と言うのは、確か初めに魔法を使った人間の事だったはずだとノアは記憶している。だからこの国は魔法を尊び、魔力を有した人間が特権階級に、そうで無いものが平民と分けられている。


 『泥の血』はだからこそ貴族に嫌われる。恥だと言われる。建国の使徒に準じないものは、農奴になるしかない。


「私が知る限りでは、君だけだよ。ノア。君の特別さは私が知っていればいいし、だから、君も地脈を扱える事を他人に言っても悟らせてもいけない。ドラコニア卿として今後扱われるし、私の腹心として扱う。……そうだな、あと30分待ってくれ。一区切りつけたら、地脈と繋がる方法の訓練を始めよう」


「はい……レイ。忙しいなら、他の誰かでも」


「すまないが、他の者ではダメなんだ。あぁ、弟がいたらまだ……預けてもよかったんだけど、老衰で亡くなっているしな……ごめんね? すぐ終わらせるから、私と訓練しよう」


「はい、あの、レイの意のままに」


 昨日からノアには突飛な話ばかりが飛び出してくる。


 レイと訓練することに不満は何も無いが、レイにはまだ秘密があるように思えてならない。


 それを無遠慮に尋ねるには、レイは忙し過ぎたし、ノアは若過ぎた。

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