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3 『地脈』

「地脈……? を、扱う……とは?」


 先程から何を話されているのか分からないノアが、恐る恐る尋ねる。が、国王もどう説明したものか迷っているようだ。


「そうだね、他に説明できる人がいれば任せたんだけど、最初は私が教えよう。簡単に言えば、君の魔力は『この大地全ての魔力』って事だよ」


 ますます意味がわからない。


 ノアはたしかに見た。魔力測定の水晶が何の反応も示さなかったことを。


 自分には魔力は無いと分かっているのに、目の前の国王は、ノアの魔力はこの大地全ての魔力だ、と言っている。


 大地の魔力と言われても、実感がない。


「ん~……、そうだな、ほら」


 言って国王は何の詠唱もなく掌を上に向けて炎を出して見せる。


「これは、私の持っている魔力を使って炎を出している。当然、私の魔力含有量はこの大地には遠く及ばない。コントロールはそれなりだとは思うけどね」


 無詠唱で魔法を使えるだけでも相当すごい事なのは、ノアでも知っている。せめて、火よ、と呼びかけなければ、体内の魔力を思う形で取り出す事は難しい。


 人間の頭の中はそれだけ雑然としているものだからだ。


「で、ノアの場合は自分の中には魔力が無い。ただ、この城は地脈の力の強いところに建っている。私の『慧眼』にも、ぐんぐん力を吸い上げているのが見える。今なら君でも魔法が使えると思うよ」


 とは言っても、ノアにはそんな自覚がない。困った顔をして国王を見るばかりのノアに、国王も困った顔をして首を傾げた。


「うーん、……燃やされても濡らされても書類をバラバラにされても困るしなぁ……、あぁ、わかりやすい方法があった」


「な、なんですか?」


「そこのソファを浮かせてごらん」


 ソファを浮かせる? 持ち上げるのも難しそうな重厚なソファを、浮かせる? ノアの頭の中は混乱したが、国王が手を引いてノアをソファの元に連れて行った。


「安心していい、少し私が手伝ってあげよう。コントロールだけ、魔力は君が勝手に地脈から吸い上げている。今の君は水がいっぱいに入ったコップだ、この位は造作もない」


 ノアの背後に立って背中の心臓のあたりに片手を当て、もう片手をノアの手を掴んでソファに触らせている。


「いいかい。このソファは重さがあって、重さを少し無くしてあげればいい。だから、軽くなれ、と唱えてごらん。ちゃんと魔法として確立しているものは後で教師をつけてあげるから、今は自分が魔法が使える事を自覚するんだ」


 国王の言葉こそ魔法のようだった。


 ノアは、『泥の血』として農奴になると怯えていた事をすっかり忘れ、初対面の国王に言われるがままソファに手を置いている。


 地脈の力など意識できない。だが、国王はノアに魔法が使えると言った。


 信じてみよう。できなければ、農奴に落ちればいいだけだ。


「……軽くなれ」


 口に出した瞬間、足の裏から身体中に痛くない雷のようなものが巡るのを感じた。


 国王の背に当たる掌が、それをノアがソファに触れている手の方へと力を誘導しているのが分かる。


 これが魔力と言うものなのだろうか。ほとばしる力をノアは感じるので精一杯で、国王が顔を歪めたのは見ていなかった。


 ソファはノアの力を受けてフワッと浮かんだかと思うと、そのまま勢いよく天井に突き刺さった。


「…………これは想定外だったな」


 驚いているノアの後ろで、困って笑っている国王が呟いた。


「私でもコントロールできない。うん、ノア、君にはすごい力がある。明日からは外で練習しよう。今日からここが君の家だ。……あぁ、申し遅れたね」


 驚いて振り返ったノアに、並んで天井に突き刺さったソファを見上げながら国王は笑っている。


 そしてノアの顔を真正面から見つめる。その瞳の深さに、ノアは少しだけゾクリとした。


「レイブン。レイブン・ヴェルペイン。君には人前以外ではレイと呼んで欲しい。ノア……ノアにも苗字が欲しいな。ノア・ドラコニア。ドラコニアにしよう」


「しゃ、爵位もないのに、そんな……」


「地脈は、龍脈とも言う。ドラコニア、いい名前だと思う。まぁ、私も君をノアと呼ぶけれどね、人前以外では」


「つまり……王宮に住むための、大義名分、ですか?」


「そうだよ。ドラコニア卿、と私が呼べばそれで通る。余計な詮索はさせない。これからよろしく、ノア」


 国王……レイブンは、笑って片手を差し出してきた。


 ノアは恐る恐るその手を握る。まだ、彼の考えている事がよく分からないからだ。


「よろしくお願いします、……レイ」


 それでも身体に流れる力を感じ始めたノアは、この国王を信じる事にした。

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