12 『ダンジョンクリア』
ノアは僧侶に話しかけた。名前も聞いていないが、明らかに自分がこの女の子の仕事を奪ってしまったと感じている。
「ダンジョンコアが呪われている可能性があります。僧侶ですよね、取ってきてもらえますか?」
「はっ、はい!」
他の冒険者たちは自分たちでリッチを倒した自負があるからドロップ品を漁っているが、ノアは辞退したし僧侶は何もできなかった。まざれないだろうから、大事な役を譲る。そうすれば、他の冒険者からドロップ品を受け取る権利が生まれる。僧侶にしか本来できないことだからだ。
ダンジョンコアの汚染……呪いは、こういった死霊系のダンジョンではよくある事。ノアは大人しくそれらの作業が終わるのを待っていた。
僧侶が汚染されたコアを浄化して取り上げる。龍穴に溜まった力の結晶は、両手で抱えるような大きさをしている。ダンジョンコアを持ってダンジョンを出れば、1時間後にはダンジョンの口が閉じる。
「後で返すので、一旦預かります」
「えっ、あ、はい」
重たそうにダンジョンコアを運ぶ僧侶に声をかけて、ノアはアイテムインベントリの魔法を使うとそこにダンジョンコアを収納した。
「そ、そんな魔法まで使えるんですか……?」
「大体の魔法は」
ノアは、魔法、として意識して使っているわけじゃない。やりたい、と思ったことに対して『星の力』に指向性を持たせて実現させているだけだ、
だから、魔法とは違うのだが、ノアは魔法に見せかけている。そして、割と大袈裟に人前で魔法を使うのには理由がある。
たぶん、この僧侶には分かったはずだ。ノアには魔力がない『泥の血』である事が。魔法使いは、大体相手の中の魔力を自然と気にする。
言いにくそうにしていたのはその事だろう。だが、ノアの中にいくら魔力はなくとも、ノアは『星の力』と繋がっている。魔法も連発しているし、実際に効果があり、魔法としか思えない運用をしている。
その違和感に気付いてしまったのだろうが、ノアの『ゴールデン・ウィザード』の呼び名に恥じない魔法使いぶりを見て、こいつは『泥の血』だ、なんて言えばそちらが糾弾されるだろう。
だから僧侶は、言わないことにしたらしい。それが賢明だとノアは思う。
結局、恩恵をもたらしてくれるのなら、魔法でも『星の力』でも人は問わない。魔力のない平民上がりの冒険者は特に。
もし、この僧侶がノアを『異端』として訴え出た場合は……レイの名の下に握り潰される。その命ごと。そして、それはノアの役割でもある。
「あの」
「は、はい」
「言わない事、訴えない事、それが貴女の信用と命を守ります。なので、知らないふりをおススメします」
その言葉に僧侶は何を感じ取ったかは知らない。ノアは、丁寧に優しく話す。しかし、その声に温かみが籠るのは、レイに関する事のみだ。
「帰りましょうか」
「そうだな、罠の場所だけ頼む」
「はい、先導します」
ダンジョンコアを取れば、ダンジョンで生まれた魔物は中と外、どちらからも居なくなる。
外に出たら負傷者の回復をしなきゃな、そしたら土産を見に行こう、そんな事を考えながら、ノアは危なげなく罠を避けて冒険者たちを外に連れ帰った。