11 『リッチ』
プロの顔になった全員を見渡してから、ノアは扉を開けた。
ダンジョンボス。別にノア一人でもクリアはできるが、前にそれをやろうとしたら一人でダンジョンコアを持ち去る気だろうと胸ぐらを掴まれた。
彼らにとってはこれが仕事で、収入源で、そして誇りである。ないがしろにしてはいけないと学んだ。
誰も怪我をさせたく無いが、一人で倒してしまっても意味がない。ここまではノアの『全員無事で早く帰る』という目的のために譲ってもらっていた。
ボス部屋に入ると、円形に作られた部屋の壁のあちこちで篝火が灯った。
「私は後方支援に努めますので、皆さんよろしくお願いします」
ノアの言葉には、彼らを重んじると決めた決意がのっている。これに鼓舞されない冒険者はいないだろう。ここまでノアがずっと体力を温存させてくれたのだから、その上支援魔法の効果もまだ残っている。
「おう!」
口々に彼らは呼応する。
最後の松明が止まったそこには、玉座たる椅子の上に座った巨大なリッチ……死霊の王と呼ばれる魔物がいた。
「聖属性のエンチャントを掛けます。呪い状態を弾く支援魔法を掛けました。自動回復も機能しています、飛んだら弓で落とすので叩いてください」
背後にいてもノアはノアだった。
彼らは相当経験を積んでいる冒険者だが、ノアは冒険者になる前に、気配探知の練習と称して、レイに毎日、見つかる前のダンジョン単独クリアを1年間課せられた。
あの国王陛下は中々にスパルタであり、その経験が無名のS級冒険者を、ゴールデン・ウィザードと称させるまでの実力をつけさせることになった。
ノアの的確な指示と援護で、彼らは役割を理解して展開していく。タンク役が気を練って挑発というスキルを使い、リッチが寄ってきたところを前衛職が総がかりで叩く。
一番ダメージを与えた者がヘイトを溜めて狙われるので、反対側にいたタンクが挑発を使う。
リッチはある程度のダメージを与えると上空から範囲魔法を使ってくる。
何度か挑発しては叩くを繰り返すうちに、ふわりとリッチが飛びあがろうとした。
「ガッ……?!」
ノアの早射ちがそれをさせない。
『泥の血』と判別されるまで鍛えてきた弓と剣の腕。『星の力』だけでも充分戦えるが、ノアはそれを手放したくなかった。
あっという間に露出している頭蓋骨を針鼠のようにされたリッチが落ちてくる。
前衛が全員でそれを叩いた。
勝負は決まった。
灰になったリッチの残骸から、宝石のついた宝飾品がボロボロと落ちていく。魔法効果の付いているものもあるはずだ。
「皆さんでどうぞ。私はアイテムなどは使わないので」
ノアのその言葉はある意味リッチを前にした時よりも決意がこもっていて、ここまで殆どお膳立てをした功労者を労ることもできない事に、パーティを組んだ全員が一斉にため息を吐く。
「?」
ノアだけが、よくわからない、という顔で首を傾げていた。