10 『2つの理由』
ノアはただ、地脈の力の強い方、強い方に向かって黙々と歩いていた。
そう、魔物が襲ってきても、飛び出してきても、足を止めることなく。
ノアの魔法の盾に触れた魔物はその場で消滅してアイテムや魔石に変わっていく。魔力の塊の石は、何もダンジョンの奥にだけあるわけでは無い。
「あ、そこに落とし穴ありますから気をつけてください」
「あ、あぁ」
「あとこの先少し厄介な道なので、私の後ろをついて歩いてくださいね。横に逸れると矢が飛んでくるので、私の通り道以外のアイテムは諦めてください」
「わかった」
ノアとパーティを組んだ9人は、心の中は同じ言葉で埋め尽くされていた。
(俺たち、必要だったか……?)
はっきり言ってしまえば必要ないのだが、ノアはアイテム類に興味もないし、お金も必要無い。今回の大規模戦闘で間違いなく随一の働きをしているのに、報酬は受け取らないつもりだ。皆さんの飲み代にでもしてください、と言って帰る気満々である。
早く終わらせたいとは思っている。理由は2つ。
ダンジョンボスを倒してダンジョンコアを持ち出せば、ダンジョンから溢れた魔物も消える。ノアとは違うのだ。回復魔法を使える人材をこちらに2人も回しているから、怪我をしたら回復薬で対応しているはずだと考える。
大怪我をすれば下がらせるために人員を割く必要がある。時間が経てば経つほど不利な状況に外はなるはずだ——できる限りの事はしてきたけれど。
ノアは『全員無事に』この依頼をクリアしたい。だから急いでいる。でも、パーティメンバーを置いていくわけにもいかない。強固に張ったシールドをすり抜けるような敵はまず居ないようでホッとした。
そして2つめの理由は、早く終わらせてレイに報告したいのだ。ゴーシェの人たちはこんな人たちだった、とか、街中を見て手土産を買って行ったりだとか。
あの国王陛下は平気で市井のものを口にする。串焼きなんかも喜んで食べるし、庶民の作った木工細工を大事に飾ったりもする。
レイに早く、外のことを伝えたい。役に立って、喜ばせたい。
この気持ちが『泥の血』のノアを見出してくれたことから来ているのか、その後にずっと大事にしてくれたことからきているのかは分からないが、手を抜きたく無かった。
一緒にパーティを組んでいるのに、こうして楽をさせてしまってプライドを傷つけていないか心配だったが、僧侶の子がいつの間にか真後ろに来ていた。
「あの……ノアさんは、魔力は尽きませんか? 大丈夫ですか?」
心配してくれているらしい。目を丸くしてから微笑むと、僧侶は頬を赤らめて目を逸らした。
「大丈夫ですよ。私は魔力量だけは飛び抜けているので」
少しだけ胸が痛む。『泥の血』だから魔力は一欠片も無い。けれど、『星の力』は無尽蔵だ。使える限り、ノアにとっては魔力が飛び抜けているのと変わらない。
「そ、それなら、よかったです」
白金の髪に金の瞳の小さな女の子の僧侶は、躊躇いがちに言った。何か言いたいことでもあったのだろうか? と、思って少し話を振ってみようかと思ったが、ピタリとノアは足を止めた。
目の前に、巨大な石造りの扉がある。
ボッと両側の松明が青い炎を灯した。
「皆さん、ダンジョンボスの部屋です。死なないようにだけ気をつけてください、死んでなければ回復できますから。……準備はいいですか?」
ノアの問いに、彼らはプロの顔で頷いた。頼もしいことだった。
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