泉の女神の涙とおにぎり画伯
【謝辞】
今回はストレートな感動系の童話になってしまいました……。
ザウェスト童話にシュールな笑いを求めて読みに来られる方に先に謝っておきます!
あなたのお涙、頂戴します!
坊主頭にランニングシャツのルンペン風の男が泉のほとりでおにぎりを食べていました。
「ぼ、ぼくはシャケのおにぎりがす、好きなんだなぁ」
ところが運悪く、おにぎりは泉へ転がり落ちてしまいました。
男がガッカリしていると突然泉の中から光り輝く女神が現れます。
「貴方が落としたのは、この金のおにぎりですか? 銀のおにぎりですか? それとも普通のおにぎりですか?」
「ぼ、ぼくは普通のお、おにぎりが食べたいんだなぁ」
男が言うと女神はにっこりとほほ笑んで言いました。
「正直な方ですね。このおにぎりを全て差し上げましょう」
男は女神から金のおにぎりと銀のおにぎり、そして普通のおにぎりを受け取りました。
女神が泉へ姿を消そうとする寸前、
「ちょ、ちょっと待って欲しいんだなぁ。あ、あの……お礼を」
女神が不思議そうな顔をしていると、男はリュックサックからスケッチブックを取り出し、何かを描き始めました。
「これ、これをあなたに、あげるんだなぁ。お、おにぎりをたくさん僕に恵んでくれて、あ、ありがとう」
女神は男から一枚の絵を受け取ります。
淡い色の色鉛筆で描かれた泉と女神の姿。後光が差し光り輝く女神のまなじりに、一滴の涙が描かれていました。
「これは……?」
「ぼ、僕はずっと旅をしてるからいろんなところへ、い、いけるんだなぁ。だからいろんな人に会って、いろんな絵を描けるけれど、あなたはずっとこ、ここにいて……ちょっと、か、かわいそうなんだなぁ」
男はまた、絵を描き始めます。
海を。
街を。
朝の日差しを。
夜の帳を。
お祭りを。
花火を。
泉の女神が知らない景色を、人を、男は一心不乱に描いていきます。
「ぼ、僕の好きな風景を、たくさん描いたんだなぁ。これ、ぜ、全部あげるんだなぁ」
泉に向かって、男はスケッチブックから無造作に破ったいくつもの絵をばら撒きました。
「あなたは……どうして私にそこまで?」
女神の頬を、あたたかな雫が濡らします。
「お、おにぎりを拾ってくれたお礼、なんだなぁ」
男はズボンをはたいて立ち上がりました。
「も、もうこんな時間なんだなぁ。そろそろ行かなくちゃ」
「待ってください」
暮れなずむ空を背に、女神は男を呼び止めます。
「あなたの気が向いたらまた、ここへ来てくれませんか。そしてその時は……新しい絵をどうか」
男は静かに頷き、リュックサックを背負いました。
「ありがとう……。最後にあなたのお名前を、教えていただけませんか?」
「ケツダイナマイト炸裂太郎」