つぎのひだぴえん
案内された部屋は二階にあった。
窓から夜の街が見える。
「お湯とタオルここに置いておくね」
ギルドの受付嬢はお湯の入った洗面器とタオルを持って来てくれた。
「ありがとうございます」
鈴花はお礼を言う。
いい加減風呂に入りたかったが、風呂があるのか分からなかった。
貴族はメイドにお湯を運ばせ盥の大きい様な物にお湯を入れて体を洗うらしいが。
この世界の風呂事情がサッパリ分からない。
スリープはベッドの上であくびをするとコテンと眠ってしまった。
スリープに布団をかぶせると、鈴花は服を脱ぎ体を拭いた。
拭くだけでもさっぱりする。
明日、冒険者登録をして魔石と牙を売って。
そのお金で服と武器と食料と靴も買おう。
鈴花は明日の計画を立てると、部屋の鍵をかけスリープにお休みと言って床に就いた。
~~~*~~~~*~~~~
チュンチュン
鳥の鳴き声がする。
この世界にも雀が居るんだろうか?
鈴花は起き上がる。
窓を開けて街を見下ろす。
人々のざわめきが聞こえる。
ぼ~~としながら服を着る。
昨日は下着で寝たんだっけ。
傍観者ギルドの食堂は何時から開いているのかな?
良い匂いがする。
いい加減洗濯をしないと服が臭い。
髪もべとつき始めてる。
体を拭くだけじゃダメだな~~
ん~~~異世界転生や転移では【生活魔法】があったな。
この世界ではそんな魔法があるんだろうか?
後でスリープに聞いてみよう。
「スリープ起きて」
鈴花はスリープを揺する。
『う~~ん。シチューお代わりぴえん』
昨日のシチューがよほど美味しかったんだろう。
もぐもぐと口を動かして寝言を言った。
しかし羊は草食動物じゃなかったっけ?
果物しかなかったから、それしか食べさせて無かったけれど。
昨日のシチューはドウドウの肉が入っているみたいだが。
ドウドウって鶏肉みたいだったけど、肉食べさせて大丈夫なんだろうか?
今更ながら心配になった。
あっ‼
でもスリープは聖鎧だから動物でも魔物でも無かったんだっけ?
良く分からない。
『ふわ~~~。おはよう……スズ』
スリープも起きたようだ。
「おはよう、スリープ。朝ごはん食べに下に行こう」
鈴花は昨夜のお湯の残りでタオルを湿らせてスリープの顔を拭く。
「ほらハンサム度が上がったわよ」
『えへへへへ。益々もてるなぴえん』
スリープはテレテレと頭を掻いた。
うん可愛い。
鈴花とスリープは下に下りる。
傍観者ギルドは朝から騒がしかった。
「おいおい。青色ゴブリンの討伐依頼が出てるぜ」
「え~~。マジか~~」
「今日はネネム草の依頼を受けるつもりだったのに」
「昨夜、【白い恋人】と【宵待草】のパーティが、青色ゴブリンのの巣穴の探索の依頼があって出かけたみたいだぜ」
「青色ゴブリンか……下手したら王が産まれているかも知れない」
「王っておいおい。勘弁してくれよ。結構街に近いじゃないか」
「門番達もバタバタしていたな。昨夜門番の隊長と副隊長も来ていたし」
「ああ……ギルドに入るなりギルマスに取っ捕まって何か話してた」
「夜に冒険者を出すために門を開けないといけないからな」
「夜に門を開けるなんてこの10年無かったことだ」
「何でも襲われたのがラーグ商会の元会長だったらしいぜ」
「ダングルフの旦那か‼」
「良い人だったよな」
「おれ。あの人に世話になった事あるんだ」
「どんな小さな村にでも来てくれる人だったからな。俺の村も小さくて僻地に遭った」
「『人材は宝』って言ってた」
「葬儀はいつだ?」
「ほら奥さんや息子夫婦や孫が帰って来てからだろう」
「あの一家は見事に仕事でいないからな」
「遺体は孫娘が引き取ったって」
「アマンダさんか。可哀想に」
「お爺ちゃん子だったからな」
「ダングルフさん孫の結婚を楽しみにしていたのに」
「領主様のご子息と結婚するんだろ。確か次男のアルホンス様だっけ?」
「花嫁姿を見たかっただろうに」
「ダングルフさんの護衛は【鷲の爪】が受けていたんだろ」
「確かトムとバトとスリムだ」
「えっ? あいつら中堅でかなり強かったはずだ」
「青色ゴブリンが30匹で襲われたらしいぜ」
「マジか‼ そらやばいな。普通ゴブリンは5~10匹なんだが」
「それで巣穴が近くにあるか、群れで移動しているかって話だぜ」
鈴花はスリープをあいている席に座らせると、ウエイトレスに注文した。
「ウエイトレスさんは昨夜の人と違うみたい。昼と夜の二交代制かな?」
スリープは首を傾げる。
食べるのに夢中で人の顔を覚えていないのかも知れない。
しかし、昨夜のギルマスさんの態度から大事になるかなと思っていたけれど。
大事になっていた。
あの商人さんはかなりの大物で皆に好かれているみたいだな。
取り敢えず朝ご飯を食べる。
パンとスクランブルエッグとサラダとタマネギスープは美味しかった。
スリープはもうひとセットお代わりした。
もぐもぐと食べるスリープは可愛らしい。
本人は漢のつもりらしいが。
スリープが食べ終わった頃、受付もだいぶ空いてきた。
鈴花はスリープを連れて受けつけに並ぶ。
昨夜の人はいないみたいだ。
ここも二交代制なんだろうな。
「こんにちは」
「はじめまして。今日あなたの担当をさせて頂くマジョリーナと申します。よろしくお願いします」
「今日は冒険者登録にきたんです」
「さようでございますか。ではこの書類にご記入ください。あっ! こちらで記入いたしましょうか?」
「あ~お願いします」
どうやら日本と違って文字の読み書きが出来る者が少ないのだろう。
転移補正で読み書き出来るかと思っていたが、ギルドに貼ってある文字は読めなかった。
スリープは読めるのかな? 聞くことがどんどん増える。
読めたとしても200年前と今では言語が違うのかも知れない。
「ではお名前をお伺いいたします」
「スズです」
「スズ様ですね」
「ご出身は?」
「遠い東の島国で松山です」
嘘はついていない。
「松山村ですね」
嘘は付いていない。村ではな市なのだが。
「お年はおいくつですか」
「17歳です」
「そう……成人しているんですね」
「15歳が成人なら、そうですね。私の国では20歳が成人だったので……」
「それでは特異な武器とかありますか?」
「無いです。この子が戦ってくれますから」
それを聞いて、スリープは胸を張った。
受付嬢の手がピクリと動く。
( 触りたい! 触りたい! あのもこもこに!)
受付嬢が己の欲望と戦っている事を、鈴花もスリープも知らない。
「職はテイマーでよろしいですね」
「はい」
「それではこのタグに血を垂らしてください」
鈴花は渡されたナイフを人差し指に当てるとチョンと切った。
ぽたり
と血が滴りカードに落ちる。
ポッとタグは光、文字が浮かび上がる。
「はい。これで登録は済みました。何か他に御用がございますか?」
「あの……素材を売りたいのですが……」
「素材の回収は受付カウンターの横の廊下を奥に行った所にございます」
「あの廊下ですね。ありがとう」
「はい。お疲れ様です」
鈴花はタグを貰い首にかけて、席を立った。
素材の買取コーナーは言われた所にあったが、昨夜の男が歩いていた。
解体の職員だ。
「おっ昨夜の子か? なんだ素材を売りに来たのか?」
「はい。でも素材多いからテーブルに乗るかな~?」
「あ……じゃ直接解体用のテーブルに乗せてくれるかな?」
ピンとくるものがあったのか、解体職員は解体所に鈴花とスリープを案内する。
「所で嬢ちやんの使役魔獣変わっているな」
「はい。変異体です。この子は特別なんです」
鈴花は大嘘をついた。
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2020/9/14 『小説家になろう』 どんな
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