冒険者ギルドだぴえん
隊長さんが言った通り冒険者ギルドは広場の中央にあった。
茜色に近い赤でかなり大きい。
クエストから帰ってきたばかりなのだろう、冒険者でごった返していた。
併設されている食堂では早くも一杯やっている冒険者達がいる。
スリープは鼻をひくひくさせている。
ぴえんの瞳で鈴花を見上げる。
森を出る前にスリープには口を利かないように言ってある。
ただのテイマーと魔物だと思わせておいた方が良いからだ。
「後で食事にしようね」
とスリープを宥めるが、スリープのお腹がなって居る。
そう言えばもう夕方だな。
鈴花もお腹が減っていた。
鈴花はスリープを抱きかかえたまま空いている列に並ぶ。
おじさんが受付だったから直ぐに順番が回ってきた。
美人の受付嬢の所は混雑している。
ちっこれだから男はちょっと美人だと鼻の下伸ばしやがって‼
と黒いオーラは微塵も出さずに、おっさんの受付の前に出る。
「ほい。お嬢ちゃん用事は何だい」
鈴花はリュクサックから冒険者プレートを出した。
「あの……この町に来る前に森で……」
鈴花が最後までいう前に、おっさんはプレートをサッと手に取るとポケットに入れて立ち上がる。
「ちょっとお嬢ちゃん奥の応接室に来てくれるかな~~」
「あの……出来れば広い部屋がいいんですが……」
「ああ……分かった。じゃ空き倉庫に行こう。おい、俺は空き倉庫に行ってくる」
おっさんは他の受付嬢に声をかけてから受付をでた。
鈴花とスリープはギルドの裏にある解体部屋を通り過ぎて、倉庫が三棟ある内の一棟に案内された。
「ここで良いか?」
かなり広い。隅に木箱がいくつか置いてある。
「はい。森の中で商人と冒険者が青色ゴブリンに襲われていて……私達が駆け付けた時には亡くなっていました」
「そうか……遺体は埋葬してくれたんだね。手数をかけた」
「いえ……ご遺族の方に埋葬してもらいたくって……ここまで運んできました。スリーブ出して」
『ぴえん』
スリープは言われた通りに遺体を出した。
おっさんは目を見開いて4体の遺体を食い入るように見ていたが、やがて片膝をつき顔にかかっている布をめくった。
「うん……商人のダングルフ殿と冒険者のトムとバトとスリムだ」
「えっと……それと……」
鈴花はおっさんが遺体の確認をしている間に馬の死体と馬車も出した。
「えっ? はあぁぁ?」
「あ……すいません。布は馬車の物を勝手に使わせてもらいました」
「あ~~ギルマス~~。今度の花の月に友人の結婚式何で休み欲しいんですけど」
血の付いたエプロンを着た男が倉庫に入ってきた。
さっき解体所にいた人だ。
「えっ! ダングルフさん‼ 亡くなってたんですか‼ さっき領主の兵が探しに出たとこですよ‼」
どうやらさっきの兵は商人を探しに出たらしい。
「直ぐに兵を呼び戻してくれ、それとラーグ商会に使いを出して身内の者を呼んでくれ」
ギルマスと呼ばれた男は的確な指示を出した。
「お嬢ちゃんしばらく待ってくれないか?」
鈴花は頷き。
近くにあった箱にスリープを座らせるとミカンの実に似た果物を取出し、皮をむぐとスリーブの口に放り込んだ。
スリーブはもぐもぐと咀嚼するとパアアァァァと笑顔を向ける。
ああ~~癒される~~~
鈴花は次々とスリーブの口に果物を放り込み、自分も少し食べた。
3~40分ほどたっただろうか。
慌ただしい足音と共に若い娘と執事の格好の老人が現れた。
さっきの解体職員が案内したのだろう、彼もそこにいた。
「お爺様‼」
「旦那様‼」
若い娘はどうやら亡くなった商人の孫みたいだ。
老人は使用人なのだろう。
娘は遺体に縋って泣き出した。
執事も涙をこらえている。
鈴花は無言で二人を見ていたが、ギルマスが鈴花とスリープを呼んだ。
「この子が遺体を届けてくれたんだよ」
「あ……ありがとうございます。本当なら2日前に帰ってくるはずなのに……もしかしたら……と思っていました」
「お悔やみ申し上げます。青色ゴブリンが30匹いて……駆け付けた時には手遅れでした……」
「青色ゴブリンが30匹もいたのか‼ 間違いないか‼」
ギルマスが驚いて鈴花に尋ねる。
「はい。間違いありません。魔石も30個あるでしょう」
鈴花はハンカチに包んだ魔石を見せた。
「なんてことだ! 確かに青色ゴブリンの魔石だ! こんな町の近くにゴブリンが30匹だと!」
あっ‼ そう言えばゴブリンの数は言ってなかったな。
「こうしちゃいられない‼ 悪いが君は今夜ここに泊まって欲しい。部屋は用意する。後で事務員を部屋に案内させる」
慌ただしくギルマスは出ていった。
「あの……お爺様の遺体を引き取っても宜しいでしょうか?」
「ああ、いいと思うよ。ギルマスには俺から言っておく。他の遺体は【鷲の爪】に連絡しておかないとな。他の遺体も今清める」
解体職員はポケットから聖水を出すと4体の遺体に振りかけた。
多分ゾンビ化させない為だろうと鈴花は思った。
「あの……冒険者の剣を馬車に放り込んだんですが遺体の上に置いても良いですか?」
「えっ! 馬車? あら本当だわ。ありがとうございます。馬車まで持って来ていただいたなんて」
「お嬢様、馬のトシコもおります」
「はい。馬も連れてきました。毛艶がとても良いから大事にしていたみたいだから。商人さんがだいじにしているのかなと」
「重ね重ね本当にありがとうございます。お礼は後で伺いますね」
「お嬢様、これを……」
スリーブは馬車から冒険者達の剣を下ろし遺体の上に置いた。
それを手伝っていた執事が馬車の中から袋を取り出してきた。
「ああ……良かった。これは無事だったのね」
泣きはらした目でその袋を抱きしめる。
いぶかしげに見る鈴花に気付いたのか若い娘は頬を赤らめて謝罪する。
「祖父が亡くなったのに薄情な娘だと思われるでしょうね。祖父は領主の姫様のお薬の原料の薬草を取りに行っていたんです。薬の在庫が後わずかになっていて。兎に角間に合ってよかった」
「そうなんですか。それじゃ私達ギルドで食事していますね」
「本当に……本当にありがとうございます」
鈴花の手を取ってポロポロと娘は泣いた。
鈴花はスリープを抱き上げると、三人を残して倉庫から出ていった。
冒険者ギルド本館に戻ると人の数が半分以下に減っている。
あれから結構時間がたっていた。
鈴花はスリープを椅子に座らせると自分も椅子に座る。
メニユーは無いのか?
壁にもそれらしいものはないな。
キョロキョロしていると鈴花と年の変わらない娘がやって来て注文を聞いた。
紺のワンピースにエプロンをしている。
「えっと……お勧めはありますか?」
「今日のお勧めはドウドウのシチューとスモモ・サラダのセットです」
「じゃそれ二つお願いします」
「はい。畏まりました」
娘は厨房に向かってドウドウ・2とオーダーを通す。
スリーブは足をプラプラしながらご機嫌で待っている。
直ぐにシチューはやって来て鈴花はお金を払った。
銀貨を出すと7枚銅貨が返ってきた。
チップとか入っているのかな?
取り敢えずごはんだ❤
スリーブを見るとフォークを持って食べている。
どうやって持っているの? 念動力か?
謎だ?
「スリーブ美味しい?」
『おい……ぴえんぴえん』
今うっかり美味しいって言いかけたね。
クスリと笑い鈴花もシチューを食べた。
あっつあつだ~~
確かに美味しかった。
何日ぶりのまともな食事だ。
箸ならぬフォークがすすむ。
パンも欲しいな。
「あの……すいません。パンありますか?」
「白パンと黒パンどっちがいいですか?」
『おいら黒パンが良い』
「えっ?」
「ゴホンゴホン……白パンと黒パン下さい」
鈴花は誤魔化した。
ウエイトレスの娘は首を傾げて厨房に向かう。
___ ダメでしょう。喋ったら ___
鈴花はアイコンタクトでスリープを叱る。
スリーブはてへっと頭を叩く。
こいつ~~あざとい~~~
自分の可愛さを計算に入れている。
暫くしてウエイトレスがパンを持って来てくれた。
鈴花はさっき貰った銅貨を6枚出す。
ウエイトレスはポケットにお金を入れると「ごゆっくりどうぞ」と言ってまた別のテーブルに注文を取りに行った。
スリーブは黒パンを取ってシチューに付けて食べる。
本当に幸せそうだ。
守りたい、この笑顔。
鈴花はバターを塗った。
パンもバターも美味しかった。
「あ~~食べた食べた~~美味しかったね、スリーブ」
『ぴえんぴえん』
スリーブも大きなおなかをさすって満足そうだ。
「あっ。いたいた」
ギルドの受付嬢が鈴花とスリープを見つけると駆け寄って来る。
「ここでご飯を食べていたのね」
「すいません、お腹が空いていたもので」
「別にいいのよ。倉庫の方に居ると勘違いした私が悪いんだから、それに……あそこはバタバタしてたから……」
「あの……商人さんは……」
「うん……お孫さんが連れて帰ったわ。馬車も馬も引き取ったわ……冒険者の方は明日引き取りに来るそうよ」
暫し沈黙する。
「そうそう。部屋は2階に用意したわ。こっちよ案内するわ」
鈴花とスリープは二階の部屋に案内された。
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2020/9/12 『小説家になろう』 どんC
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