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ゴブリンと馬車でぴえん

『血の匂いがするぴえん』


 スリーブと鈴花は顔を見合わせ、駆け出した。


 〈 ぎゃゃぎやゃ 〉


 〈 ぎーぎー 〉


 〈 ぎっぎぎっ 〉


 〈 ぎゃるるー 〉


 横倒しの馬車の周りにゴブリンがいた。

 30匹ほどでかなり多い。

 小説に出てくるゴブリンそっくりで。

 青い肌、尖った耳と鼻に乱杭歯に濁った目。

 襤褸布を腰に巻き、手には武器を持っている。

 武器は石斧だったり手作りの槍だったり色々だ。

 しかも臭い。

 死臭が辺りを漂っている。

 ゴブリン達が纏っている匂いだ。

 ゴブリンの足元に商人らしき男と冒険者らしき男が三人倒れている。

 体から流れている血の量を考えると、手遅れだろう。

 ゴブリン共が一斉に振り返り鈴花とスリープを見た。

 血間みれの口でにぃ~と嗤う。

 普段の鈴花なら不良に絡まれた時のようにビビるだろうが。

 今の鈴花は違った。

 ギュッと拳を握りしめる。

 ゴブリン達の目には、小柄な少年ともこもこ羊が映る。

 だがゴブリン達は鼻をひくつかせ、鈴花が女だと気付き狂喜乱舞する。


 〈 久しぶりの女だ‼ 〉


 〈 久しぶりの女だ‼ 〉


 〈 久しぶり女だ‼ 〉


 〈 柔らかい肌、艶やかな黒髪、良い匂いがする 〉


 〈 なんて美味しそうなんだ 〉


 〈 隣の二本足で立っている羊も美味そうだ 〉


 〈 さっき殺した男なんて比べられない、極上な肉 〉


 〈 喰らえ‼ 〉


 〈 喰らえ‼ 〉


 〈 喰らい尽くせ‼ 〉


 30匹のゴブリンが一斉に鈴花とスリープに襲い掛かる。

 鈴花の左手の甲が光る。


 どがががががががががががががががががががががががががががっ!!!!!!!


 ゴブリン達は何がどうなったのか理解することが出来なかった。

 気が付いたら空を30メートル程舞っていて。

 自分たちを殲滅する為に少女の姿をした死神が、大地を蹴って止めを刺そうとしている。

 次々と仲間は少女に頭を粉砕されて息の根を止められていく。


 次は自分の番だ‼


 嫌だ‼ 


  誰か助けてくれ‼


 ゴブリン達はその時初めて神に祈った。

 だが……神は救ってくれない。


 ぐしゃぐしゃ ぼとぼと ぼたぼた


 ゴブリン達は見事に大地に赤い赤い彼岸花の花を咲かせる。

 30匹のゴブリンが彼岸花を咲かせた大地に鈴花はひらりと舞い降りた。

 もし鈴花の戦いを見ている者が居たらきっと白い精霊が舞っていたと言うだろう。

 鈴花の聖なる拳を受けてゴブリン達は魔石を残して消える。


「ねえ……スリープ……雑魚は死体を残すって言わなかった? 小説なんかだとゴブリンは雑魚のはずなんだけど……この世界では中級の魔物なの?」


『このゴブリンは青いぴえん。人間を食べて青い中級ゴブリンになって居るぴえん。雑魚ゴブリンは緑だピえん』


「ゴブリンも色々いるの?」


『緑が一番雑魚だぴえん。次は青で、その次が紫で身体も人間ぐらいになるぴえん。ゴブリンキングは黒いぴえん』


「ゴブリン王なんて言うのもいるんだ」


『知能も高く統率力もあって厄介だぴえん』


「なんか……この世界の魔物は色彩が可笑しい気がするんだけど? さっきのゴブリンの色もなんか見ているだけでイライラするんだけど……」


『この世界の人間はあの色を見ただけだ恐怖に襲われ動けなくなるぴえん』


「そうなんだ? 私はイライラしただけなんだけど」


 鈴花は馬車の所まで歩いて行く。

 スリーブはゴブリンの魔石を拾いながら鈴花について行く。

 4人は思った通り亡くなっていた。

 おまけに馬車を引く馬も殺されていた。

 鈴花は馬車の中を漁って、シーツを5枚出す。

 日常雑貨が色々取りそろっている。


「スリープ手伝って」


 スリープは頷き遺体を運ぶのを手伝う。

 その時に冒険者が首から下げていた物を外した。

 多分冒険者登録証明書のような物なんだろう。

 商人は懐によく似た物を持っている。

 鈴花はそれらをリュクサックに入れる。

 そしてシーツを広げその上に遺体を乗せ包む。


 チリン


 鈴が鳴り遺体はアイテムボックスに仕舞われた。

 馬もシーツに包み同じくアイテムボックスの中に仕舞う。

 冒険者の武器を馬車にほり込み、アイテムボックスに仕舞う。

 鈴花は商人と冒険者が殺されていた場所に手を合わせた。

 スリープも鈴花の真似をして蹄を合わせる。

 鈴花とスリープは再び歩き始める。


 3日後、森を抜けると草原が現れた。

 結局町まで誰にも会わずに着いた。

 草原を抜けると畑が姿を現して農夫が畑仕事をしている。

 道も広くなり荷馬車も走っている。

 遠くに城壁に囲まれた町が見える。

 城も見えるが、城と言うより要塞の様だ。


「のどかね~~」


 のんびり歩きながら鈴花はスリープに言った。


『そうでも無いみたいだぴえん』


 スリープが指示した城壁の門の所で兵達が馬に乗って慌ただしく出てくる。

 門の前で順番待ちをしていた人々は慌てて道の端に避ける。

 鈴花とスリープも慌てて避けた。


「どうしたのかしら?」


 鈴花とスリープの横を兵たちを乗せた馬が走り去る。


『ゴホゴホぴえん』


 スリープは咳をした。馬達がたてた埃を吸ってしまったのだ。


「スリープ大丈夫?」


 鈴花はスリープの背中を摩る。

 門に入る為に順番待ちをしていた人々がざわめく。


「あれは領主様の兵か? 何かあったのか?」


 荷馬車に載っている農夫が門番に尋ねたが、門番は首を振る。


 鈴花はスリープの手を取って列の最後に並ぶ。

 ちゃんと手をつないでおかないと、スリーブは蝶々を追いかけるからだ。

 色々な人が並んでいる。

 商人に冒険者パーテイにおんぼろ馬車に乗った農夫。

 鈴花は人々を観察する。

 活気があり、人々は絶望していない。

 魔物が居てもそれほど酷い状況ではないみたいだ。

 さっき兵達も出かけていたし。

 街を守る軍隊があるのだろう。

 やっと鈴花たちの番が来た。

 テーブルの上には小銭の入った箱や書類が置いてあり、椅子には中年の男が座っている。

 おじさんの周りには若い門番が槍を持って立っている。


「どこから来たんだね」


 中年の男が尋ねる。他の兵より少し立派な鎧を身に付けている。

 隊長さんなんだろう。

 鈴花はフードを下ろし黒髪を晒す。

 隊長と他の門番の目が見開かれる。


「私の名はスズ。こちらはスリープ。ずっと遠い所から来ました」


「君は……女の子か……そうだな。旅をするのなら男の子の方がまだ安全だな。それに黒髪に焦げ茶の瞳。東の島から来たのか?」


 鈴花は頷く。

 よく分からないが、勘違いしているならその方が良いだろう。


「君はテイマーか? その羊は魔獣の幼態なのか?」


 鈴花は頷く。

 説明はめんどくさいし、鈴花自身スリープの事は良く分からない。

 勘違いさせておけばいい。


「身分証明書はあるか?」


「ありません」


 鈴花は答えた。


「じゃ、この水晶に触ってくれ」


 後ろに控えている門番が水晶を取り出した。

 鈴花は素直に触る。

 水晶は不思議な虹色に輝いた。

 門番達がざわりとどよめく。


「よし、犯罪歴はないな。通行料は7000バウルだ。魔獣は3000バウルで、合計10000バウルだ。冒険者ギルドで身分証明書を作って貰えば金は返す」


「えっと……これ使えますか?」


 鈴花は巾着袋から金貨を出した。

 ズボンを切った余り布で巾着袋を作って置いたのだ。

 そして金貨と銀貨を数枚入れて置いた。

 パンパンに膨れた革袋を見せるのは危険だと思ったからだ。

 普通にスリがいそうだし、カツアゲもありそうだ。

 鈴花の様な小柄らな者は格好の餌食だ。


「あ~~金貨か~~。銀貨は無いのか?」


「えっとこれで良いですか?」


 鈴花は銀貨を渡した。


「よし、通っていいぞ」


「あの……」


「なんだ?」


「冒険者ギルドは何処にあるんですか?」


「ああ……冒険者ギルドはここを真っ直ぐ行って広場がある。そこの赤い建物だ」


「ありがとうございます」


 鈴花は頭を下げてスリープを見た。

 スリープはテーブルに手を置き珍しそうに、隊長の髭を見ていた。

 カイゼル髭という奴だ。

 スリープはテーブルに乗っかりそっと手を伸ばして髭を引っ張ろうとする。


「スリープ‼」


 慌てて鈴花はスリープを抱きかかえて。


「お邪魔しました~~~」


 と走り去る。

 鈴花で最後だったので門番達はテーブルと椅子をかたずけ門を閉めた。


「隊長。あの子にはビックリしましたね」


 副隊長が話しかけてくる。


「ああ……そうだな。あの黒髪と言い。水晶が虹色に輝いた事と言い」


「まるで伝説の聖女様か勇者ですね。それにあの羊は聖鎧セイント・アーマーでは無いですか?」


「今日は暇か? 後で冒険者ギルドに飲みに行くぞ」


「はい。ゴチになります」


「おいおい。こっちも給料前なんだぞ。少しは遠慮してくれ」


 隊長は苦笑した。







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  2020/9/11 『小説家になろう』 どんC

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最後までお読みいただきありがとうございます。

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