旅立だぴえん
鈴花は丸太の上に腰掛けてズボンのすそあげをする。
ズボンの裾をハサミで切り落とし、ちくちくちくちくと縫っていく。
「ん……出来た」
鈴花は縫い目確認するとを裁縫道具をリュクサックの中に仕舞う。
スリープは蝶々を追いかけて楽しそうに遊んでいる。
平和である。
鈴花は草陰で着替える。
スリープしか居ないとは言え、鈴花も女の子である。
人目(羊目)は気にする。
「じゃ~~ん‼ どう? 似合う?」
茶色い服に黒いズボンを履いてベルトを締めた、鈴花はくるりとスリープの前で回る。
『凄いぴえん‼ 男の子にしか見えないぴえん』
おかしい、胸はそれなりにあるはずだが。
その答えにちょっと傷付く鈴花だった。
~~~*~~~~*~~~~
「さあ行こうかスリープ」
鈴花は2日いた神殿跡をぐるりと見渡した。
最初来た時と全く様変わりしてしまった。
辛うじて残っていた神殿は完全に崩壊していて。
僅かに残された神殿の柱でここに神殿が在ったことが分かる程度だ。
知らぬものが見たら瓦礫の山だ。
森に至ってはかなりの範囲で腐り落ちている。
元の森に戻るのに10年はかかるとスリープは答えた。
「ごめんなさい」
鈴花は神殿があった場所に一礼する。
それを見て慌ててスリープも一礼する。
一人と一匹は町に向かって旅立った。
~~~*~~~~*~~~~
「スリープ、この木の実は食べれるの?」
鈴花はオレンジ色の実を指さした。
琵琶に似たその実はとても美味しそうだ。
「ビイワの実だぴえん。甘くて美味しいぴえん。でも腐りやすいぴえん。アイテムボックスの中に入れて置けば腐らないぴえん」
「アイテムボックス最高だね~~~❤」
鈴花は皮をむいてスリープの口に入れる。
『ん~~~美味しいぴえん』
それを見て鈴花も口に入れた。
うん、美味しい。
琵琶に似た味だ。
『はっ‼ もしかしておいら毒見をさせられたぴえん‼』
「男は小さい事は気にしない」
鈴花はまた皮をむくとスリープの口にほり込む。
スリープは口をもぐもぐ動かして、ごっくんと飲み込んだ。
スリープの前足は蹄になって居るんだが。
器用に色んな物を持っていた?
ドラえもんのマジックハンドと同じ理屈かな?
5・6個食べると後は30個ほどをアイテムボックスに入れてもらう。
鈴花はさっき拾った木の枝を杖代わりに立ち上がる。
「さあ行きましょうか」
マントのフードを深くかぶりスリープと手をつなぐ。
小学校の登校で一年生の手をつないだ事を思い出した。
スリープの手は温かい。
「ねえ……スリープ……」
『なんだ鈴花? ぴえん』
「私のいた世界では私は行方不明になって居るのかな?」
『難しい事は良く分からないぴえん』
初めから居なかったとか死んだとかにはなって居ないのかも知れない。
帰れないのなら親が悲しまないように始めっから居なかったことにして欲しいと鈴花は思った。
『でもおいらを造った人ならば分かるかも知れないぴえん』
「200年も前の人でしょう。生きていないわよ」
『多分まだ生きていると思うぴえん』
「えっ?」
『エルフだから、まだ生きていると思うぴえん。魔王との戦争で亡くなっていても、弟子のエルフがいたはずだぴえん』
「スリープってエルフが作ったの?」
『そうだぴえん。エルフの賢者が造ったぴえん』
とてもそうは見えないと鈴花は思った。
エルフ? 賢者? 嘘はついていないのだろうが……
ほんまかいな~~~
と言うのが正直な気持ちだ。
「そのエルフの賢者は何処に居るの? 知っている?」
『白の森の奥にある【エルフの砦】にいるはずだぴえん』
「ここから遠いの?」
『遠いぴえん。馬車で半年かかるぴえん』
「馬車の速度がどれぐらいかは分からないけど。かなりかかる事は理解したわ」
鈴花は少し考えた。
「取り敢えず街に行って【冒険者ギルド】に行ってみょうか。そこでそのエルフの賢者の情報も聞こう」
『それが良いぴえん』
二人は黙々と歩く。
あれから魔物は襲ってこない。
そんなに魔物はいないんだろうか?
森の中を歩いていると舗装されていない道を見つける。
轍がある。馬車が通っていると言うことだ。
「轍があるわ。定期的に馬車が通ると言う事よね」
『キャラバン隊かも知れないぴえん』
「キャラバン?」
『商人が複数集まって隊列を組むんだぴえん』
「ああそうか。その方が安全だものね。もしかしたら食べ物を分けてもらったり、町まで荷馬車に乗せてもらえるかもしれないわね」
『奴隷商人じゃないと良いねぴえん』
「奴隷商人って居るの‼」
鈴花はまじか‼ と言う顔をした。
『昔は非合法でいたぴえん』
非合法でもいたのか。
「馬車を見てもうかつに声を掛けれないね。馬車を見かけたら取り敢えず隠れて様子を見るのが良いかも知れないわ」
一人と一匹はお腹がすくとビイワの実を食べ、のどが渇くとアイテムボックスから水を出して飲んだ。
旅の途中、食べられそうな果物を見つけてはアイテムボックスにほり込む。
ブドウぽい実とみかんぽい実だ。
魔物も時々現れるが、ピンクの象程の大物は現れず。
ガサガサと草が揺れひょっこりと角の生えたウサギが顔を出した。
「あっ‼ 見て見て‼ 可愛いウサギ❤ 角が生えている」
確かにウサギは可愛かったが、大型犬程デカかった。
『魔物だぴえん』
スリープは目のも止まらぬ速さでウサギの元に行くと蹄で殴り殺した。
「はあっ?」
ボー然とする鈴花を尻目にスリープはサクサクとウサギをアイテムボックスに入れた。
『おいら以外のもこもこは要らないぴえん』
スリープが何か呟いていたが鈴花は聞かなかったことにする。
また道を歩いて行くとガサガサと草が揺れた。
今度は灰色の狼が現れた。
しかも6匹も群れていた。
『おいら以外のもこもこは要らないぴえん』
また黒いオーラと共に下種顔で笑うと、スリープは狼を殴り殺しサクサクとアイテムボックスに狼を入れた。
この後も狼やウサギが出てきたが全てスリープの蹄に沈黙する。
(ひえぇぇぇぇぇ~~~‼ これぞまさしく【羊の沈黙】だ~~~‼ 人食いドクターもビックリの虐殺祭りだ~~‼)
鈴花は自分だってピンクの像を惨殺した事を棚に上げてドン引きした。
魔物数は20匹を超えた。
(ああ……でも……この世界で生きるなら生き物を殺すことに慣れなくちゃいけないんだ……生き物の皮を剥いだり解体したり……)
「あれ……???」
『どうしたご主人様ぴえん』
スリーブは最後の狼をアイテムボックスに放り込むと振り向いた。
蹄は赤く染まっている。
「ピンクの象を倒した時は魔石と牙しか残らなかったわ。でも……ウサギと狼の死体は残るの?」
『下級の魔物は死体が残るぴえん。中級からは魔石と牙とか爪とかしか残さないぴえん』
「不思議ね」
『大きい者ほど瘴気を一杯貯め込むせいだと言われているぴえん』
そうなのかな?
言うなれば瘴気太りか?
『魔物は動物が瘴気を貯め込んでなるんだと言われているぴえん』
「そ……そうなんだ……」
スリープがピタリと止まった。
『血の匂いがするぴえん』
一人と一匹は駆け出した。
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2020/9/10 『小説家になろう』 どんC
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