ピンクの象VS もこもこ羊ぴえん
今回は少し長いです。
パオォォォォン
ピンクの像がぶっとい前足を上げて私達を踏みつぶそうとする。
鈴花はスリープを抱いてゴロゴロと転がり前足を避ける。
バキバキバキー‼
倒れていた柱ごと踏み砕く。
まじかー‼
ピンクの像と目が合った。
澱んだその眼は深淵を覗き込んだ様にゾッとした。
鈴花はスリープの前足を引っ張って森の中に駆け込む。
「武器‼ 武器は無いの‼」
走りながら鈴花はスリープに尋ねる。
『あるぴえん』
スリープはキリリとした顔で答えるが。
「だが断る‼」
鈴花はスリープに即答する。
『まだ何も言ってないぴえん』
スリープは泣き出した。
『もうこれしかないぴえん』
「私の勘が辞めておけと告げている‼」
鈴花の脳裏に昨夜の言葉が浮かぶ。
聖鎧。
それを受け入れたら最後元の世界には完全に帰れない。
さっきまで木々をなぎ倒していた、ピンクの像がピタリと止まった。
鈴花は振り返り像が鼻を高々と上げるのを見る。
像は鼻から黒い霧をまき散らす。
黒い霧に触れた木々が、たちどころに腐り落ちる。
やばい‼ やばい‼ やばい‼
鈴花は走る‼ 走る‼ 走る‼
『ぴえん』
スリープは石に蹴躓いて転ぶ、鈴花も巻き添えで転んでしまう。
2人に向かって黒い霧が噴射された。
鈴花の左手の甲が光った。
パオン?
ピンクの像が首を傾げる。
確かに生物二匹に黒い霧がかかったはずだ。
だが黒い霧の中からすくっと立ち上がる白い物体。
腐り落ちていない?
黒い霧が晴れた。
そこに居るのは一匹だけ。
白いもこもこだけ。
もう一匹の生物は腐り落ちたか?
もこもこは黒い霧では仕留めきれなかった?
パオン
ならば踏みつぶすのみ‼
ピンクの像は前足を上げてもこもこを踏みつぶした‼
パオン
勝利の雄たけびを上げる。
だがもこもこは踏みつぶされない?
ピンクの像は更に力を籠める。
地面が蜘蛛の巣の様にひび割れる。
だがもこもこは潰れない。
もこもこは力を込めて片手でピンクの像を投げ飛ばした。
ズズズウウウゥゥゥ‼
木々をなぎ倒してピンクの像が神殿まで吹っ飛ばされる。
ガラガラと神殿は壊れた。
ピンクの像は腰をやられて立てない。
白いもこもこが音もたてずにピンクの像の所までやって来る。
まるで瞬間移動した様な速さだ。
たった一歩でピンクの像の所まで来たのだ。
その事実にピンクの像は驚く。
やばい‼
ピンクの像の生存本能が告げた。
これは関わり合ってはならない者だ。
もこもこはピンクの像の鼻を掴む。
デカい鼻だ。大木のようにデカい鼻だ。
だが、もこもこはバキバキと鼻を抱きかかえると。
ブウゥゥゥンンン‼
と投げ飛ばした。
二階ほどもあるピンクの像は100メートルの上空に投げ飛ばされる。
もこもこはピンクの像までジャンプする。
ピンクの像は己の命を狩ろうとする白いもこもこと目が合った。
パオン
怯えた声が出る。
ピンクの像は今まで命を蹂躙する側だった。
だが今は蹂躙される側に回ってしまった。
白いもこもこは容赦なくピンクの像を殴り始めた。
バキバキバキ‼
ピンクの像の体中の骨が枯れ木のように折れる。
ドオオォォォォォォ‼
ピンクの像は100メートル上空から頭から突っ込み首の骨を折った。
ピンクの像が最後に見た者は「このゴミが‼」と言う少女の侮蔑に満ちた瞳だった。
ピンクの像が敗北を悟る前にその体は灰となり消えていった。
最後に魔石と牙を残して。
「これは……」
鈴花は魔石と牙を拾う。
あのデカさからしたら小さいサイズだ。
魔石は大人の拳程で、牙は1メートル程の大きさだ。
鈴花は数分前の事を思い出す。
確か……ピンクの像に踏みつぶされそうになって……
左手に紋章が浮かび上がって……
気が付いたらもこもこになってて……
ピンクの像を凹殴りにして……倒した……
全てが夢の中の出来事の様だった……
考えるよりも体が勝手に動き……
鈴花は運動音痴だ……戦い方なんて知らない……
うん……考えるのは止めよう……
鈴花は思考放棄をする。
『魔石だぴえん』
スリープの言葉にハッとして魔石をよく見ると。
「綺麗……まるでワインのロゼみたい……」
『ロゼって何だ? ぴえん』
「ワインと言うお酒には赤色と白色があってね。ロゼはその中間の綺麗なピンク色をしたワインの事よ」
『美味いのか? ぴえん』
「私は子供だからお酒はダメなの。だからまだ飲んだ事無いわ」
『ご主人様はまだ子供なのか? ぴえん』
「16歳よ。あと半年したら17歳になるわ。私の国では20歳が成人よ」
『この世界の成人は15歳だぴえん』
「あ~~私の国でも昔はそのくらいでお嫁に行っていたらしいわね」
有名な童謡に15で姉が嫁に行った、と言う歌詞があったなと思い出す。
鈴花は魔石を色々な角度から見ていたが、ふと辺りを見渡し始めた。
「私のリュクサック何処行ったかしら? あの中にはまだ私の朝ご飯用のパンとお菓子があったのに……」
『何‼ お菓子がまだあったのか‼ 今探す‼ ぴえん』
スリープはズザザァァァと辺りの瓦礫をかき分けて鈴花の泥だらけのリュクサックを探し出した。
「凄い‼ よく分かったわね」
『おいらの鼻は甘い匂いを見逃さないぴえん』
鈴花はポンポンと泥を払ったが汚い。
鈴花が縫った会心の出来なのに……
「ここら辺に川か泉はない?」
『こっちだぴえん。神殿の清めの泉があるぴえん』
スリープは鈴花を神殿の泉に案内する。
泉は神殿から5メートル離れた所にあったが、先ほどの戦闘で飛んできた柱で半分ほど埋まっていた。
「あ~~半分埋まっちやってるね。まっいいか」
鈴花はリュクサックの中を出して裁縫箱が壊れていないか見る。
うん。大丈夫、壊れていない。
水筒も壊れていないのでホッとする。
後で泉の水を入れておこう。
袋に残っている飴玉を取り出す。
飴玉をスリープの口に放り込み、自分も飴玉を舐める。
『ん~~~❤ 美味しいぴえん』
もこもこ羊は幸せそうに飴玉をガリガリと齧っている。
「美味しい」
そう言えば朝から何も食べていなかったわね。
あの色彩の暴力の様なピンクの像が現れたから、それ処では無かった。
「ねえ……スリープ……何が起きたの?」
『おいらはご主人様の聖鎧だぴえん。ご主人様は鎧を纏っただけだぴえん』
予想通りの答えが返ってきた。
「ふ~~ん。そうなんだ。所で誰が飴玉全部食べて良いって言った?」
いつの間にかスリープの手には空になった飴玉の袋があった。
鈴花はスリープの口を捻りあげた。
『痛い‼ 痛い‼ 痛い‼ 許して~~~ぴえん~~~』
甘い物が大好きなスリープであった。
鈴花はリュクサックを洗うと近くに生えていた低木に干した。
ハンカチを濡らすと顔や手を拭く。
本当は水浴びをしたいが、いつさっきの様な魔物が出てくるか分からない。
用心した方がいいだろう。
「ねえ。スリープ」
『なんだい? ご主人様ぴえん?』
「町に行けばこの魔石売れるかな?」
鈴花は魔石を見る。
あの色彩の暴力の様なピンクの像から出てきたと思えない、綺麗な色だ。
『町には商人ギルドや冒険者ギルドがあるぴえん』
「へ~~小説みたいに、やっぱりあるんだ。あっ牙も売れるね。あれ? 置きっぱなしにしてきた」
『大丈夫ぴえん。おいらが持ってきたぴえん』
「あ……ありがとう。って何処にあるのよ」
鈴花はスリープの周りを見たが何処にも見当たらない。
『ここに仕舞ってあるぴえん』
チリン
スリープは首輪に付いているベルから1メートル程の牙を取り出す。
「えっ? もしかしてアイテムボックスって奴?」
『そうだぴえん。ついでに言うとお金や旅支度も入っているぴえん』
「うわ凄い初めて見た‼️ 取り敢えずなにが入っているか出してみて」
鈴花はスリーブが出した物を見てから訪ねる。
「これはお金ね」
パンパンの皮袋からお金を出す。
金貨や銀貨それと小銭もあるが、金貨と銀貨の方が多そうだ。
「200年もたっているなら、使えないかも。でも金貨や銀貨は使えるかな?」
スリープは首を傾げる。
可愛い。ほっこりする。
貨幣制度は良く分からないのだろう。知っていても200年眠っていたのだし変わっているだろう。
兎に角、街に行って人の良さそうな宿屋のおばさんか、ギルドの受付嬢に聞くか。
最悪、お金を出して情報屋にでも尋ねた方が良いだろう。
スリープが次に出したのはマントと薄茶色の上着とベルトと黒いズボンだった。
男物で少しデカい。靴もあったがこれもデカい。
靴は自分は履いてるスニーカーで良いだろう。
鈴花は自分の制服を見てスカートを少し引っ張る。
セーラー服の制服は鈴花のお気に入りだが、この世界では丈が少し短いのかもしれない。
旅をするのなら女の子の姿より、男の子の格好の方が安全かも。
鈴花の髪はおかっぱで長くないから男の子とごまかしが効くだろう。
幸い裁縫箱がある。
裾を切ってサイズを調整しよう。
テントと皿やフォークや調理道具もあった。
「あっ‼ テントがあったんなら、昨夜出してくれたら良かったのに」
『あっ! うっかり忘れていたぴえん』
スリープはてへっと笑う。
何こいつ! 可愛い~~
いかんいかん。ちゃんと躾ねば。
だが……武器が無い。
ナイフや斧も無い。
聖鎧があれば武器は要らないだろうと言われればそうなんだろうが……
それとも召喚された者の好みで選ぶように用意されていたのだろうか?
鈴花は神殿の在った所を振り返るが……
無いだろうな、有ったとしても200年たっていたら錆びてボロボロだろうし。
諦めよう。
後で森から杖になりそうな木の枝を拾ってこよう。
鈴花はそう思った。
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2020/9/3 『小説家になろう』 どんC
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私の父はスリープと同じ飴玉を嚙み砕いて食べる派です。
私は舐める派です。
『赤とんぼ』の歌詞に姉は15歳で嫁に行ったと言うのがあります。
田舎の人は口減らしで早く追い出されたようですね。