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異世界転移ってマジかぴえん

 ミ―ンミーン

 五月蠅く蝉が泣いている日だった。

 カンカン照りの中、走って学校に来たから汗だくだ。

 私は二階にある部室に向かう。

 夏休みの真っ最中なので人影は少ない。

 文化祭にある出品物についてミーテングがある。

 昨日は出品のサンプル品を作っていた。

 で……遅くまで作品を作っていたからすっかり寝坊してしまった。

 手芸部は弱小部なので予算も少ない。

 手芸部にくま大好きっ子がいて、10㎝ほどの大きさのくまをたくさん作っていた。

 そのくまと衣装を売ろうと言う計画を立てた。

 鈴花はその見本として可愛い服を作って来たのだ。


「遅れてごめ~~ん」


 鈴花はドアに手を伸ばした。

 その時、鈴花の足元が光った。


「えっ?」


 足元には光り輝く魔法陣が展開している。


「綺麗……」


 場違いな言葉ではあるが、鈴花はそう呟く。

 夏の夜空の花火のように、魔法陣は輝くと唐突にまた消えた。

 鈴花と共に。


「鈴花部長……?」


「今鈴花部長の声がしたよね?」


「それより今、廊下光らなかった?」


 三人の女の子が廊下に顔を覗かせる。

 手芸部の部員だ。

 三つ編みの小泉彩香こいずみあやかと矢部うらら(やべうらら)と如月美香きさらぎみかだ。


「?」


 そして彼女達が鈴花に会うことは二度となかった。




 ~~~*~~~~*~~~~



 鈴花は落ちていく。

 暗い暗い闇の中を。

 昔読んだ漫画に無限落下地獄に落ちるって言うのがあったな。

 鈴花はのんびり考えた。

 あれ……なんて言う地獄だったっけ?

 私は地獄に落ちているの?

 何やったっけ?

 地獄に落とされる罪って?

 それに……私はいつ死んだの?

 いつ閻魔様に会って裁かれたの?

 永遠と思われる落下の中下の方に光が見えた。

 やがて光は大きくなり。

 余りの眩しさに、鈴花は目を閉じた。



 ~~~*~~~~*~~~~



 ここは……どこ……私は助かったの?

 鈴花は手芸箱の入ったバックをしっかり抱えている自分に可笑しくなって。

 くすりと笑ってしまった。

 徐々に目が慣れてきて鈴花は目を開く。

 たいがい異世界転移した者は神殿の魔法陣の上に現れて周りに神官やら魔法使いやら王様や聖女(お姫様)なんかがいるはずなんだけど。

 鈴鹿の周りには神官どころか人っ子一人居なかった。


「廃墟?」


 鈴花は辺りを見渡し足元を見る。

 足元にはひび割れた魔法陣? かなり古い物だ。

 所々草が生えている。

 どこぞの映画の魔宮の様だった。

 地下室はかなり広いが、半分土砂に埋もれていた。

 入口らしき所も土砂で塞がっている。

 壁は巨大な根が生えていて。

 根は天井を突き破っていた。

 ワサワサと茂った葉っぱから木漏れ日が指している。

 どうやらここは地下の様だった。

 鈴花は巨大な根っ子を掴み、よいしょよいしょと上に昇。

 かなり高いが何とか登りきる。

 葉っぱをかき分けて外に出ると。


 そこは……


 ギリシャ神話に出てくるような神殿の廃墟だ。

 どこもかしこも崩れ賭けで人の気配がない。


「ん~~どうしたもんか~~~」


 こう言う事に詳しい幼馴染のノンちゃんならどう行動するだろう?

 大体【異世界転移】なら途中で神様に会ってチート能力をもらったり、白や神殿の魔法陣の上に召喚されてここが何処か他ずれる事が出来たが……

 全く人がいない。

 鈴花は自分がよじ登ってきた巨木を見る。

 この木をよじ登ればこの辺りの地形を把握できるだろう。

 だが……日はかなり傾き、辺りを赤く染めている。

 今から登っても暗くなってよく見えないだろう。

 それならば野宿の準備をした方がいいだろう。

 鈴花は袋をガサガサと探る。

 幸い水の入ったペットボトルと花火に使うライターを持っている。

 部活が終わったらみんなと一緒に、土手で花火をするつもりだった。

 取り敢えず鈴花は草を毟り丸く石を置き、乾いた木切れと落ち葉を集める。

 子供会でキャンプをした知識が役に立ったな~~~

 そう思いながら葉っぱの上に木を組みライターで火を付ける。

 パチパチと火が付いた。

 辺りはかなり暗くなり、鈴花はホッとため息をついた。

 知らない廃墟で火があるのと無いのとでは雲泥の差がある。

 椅子にちょうどいい大きさの石を転がしてきて焚き火の近くに置く。

 今までの行動を顧みて身体能力が上がったようには見えなかった。


「ステータス‼」


 鈴花は右手を挙げて叫んだ。


 しーん……


 鈴花は恥ずかしそうに辺りをキョロキヨロ見て、誰も居ない事を確かめると。

 恥ずかしさのあまりゴロゴロと地面を転がりまくった。


「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ~~~~~! 恥ずかしい‼」


 ひとしきり転がるとすくっと立ち上がりパッパッと制服に着いたゴミを払うと。

 スタスタと石の椅子まで歩き何事も無かったように座った。


「これからどうしょう~~~取り敢えずご飯を食べよう」


 鈴花はコンビニで買って来ていた牛丼を出し箸を割る。


「いただきます」


 もっきゅもっきゅと食べる。

 牛丼は冷たかったが、暑かったので余り気にはならなかった。

 ごくごくと麦茶を水筒から出して飲む。


「んん~~~美味しい~~~」


 かなり動いたのでお腹が空いていた。


「寒い。腹減った。死にたい。不幸はこの順番にやって来ると漫画に描いてあったけど……」


 焼き鳥を焼く主人公のおばあちゃんが言っていた。

 名言だと思う。

 またもっきゅもっきゅと牛丼を食べる。

 パチパチと焚き火が爆ぜる。


「困った状況ではあるが、不幸じゃない」


 鈴花はごちそうさまをすると牛丼のパックを焚き火に放り込んだ。

 箸はまた後で使うかもしれないから置いておこう。

 そしてゴソゴソと袋を漁り中の物を確認する。

 手芸箱には昨日作った物とかなりの端切れが入ってある。

 水筒にハンカチにタオルとポケットティッシュ。

 花火にライターと財布と携帯。

 携帯を取り上げるが県外で電話は使えない。

 スイッチを消す。充電器が無いんだ。節電しないと。

 あと飴玉とクッキーとカレーパン。

 うん。大切に食べないと、食料がいつ手に入るか分からないからね。

 また袋に入れる。

 この袋は鈴花のお手製でリュクサックにもなる。

 鈴花はまた少し焚き火に木を放り込む。

 危険な生き物が居るんだろうか?

 誰も居ないので尋ねる事も出来ない。

 明日明るくなったら巨木に登り、近くに町が無いか探してみよう。

 欠伸がでた。

 今は寝て体力を回復しなければ。

 鈴花がウトウトし始めた時。

 ガサガサと草が揺れた。

 鈴花はハッとして音の方を見る。

 しまった‼

 異世界転移によく居る魔物か‼

 裁縫箱からハサミを出しておくんだった‼

 慌てて袋を手に取るが、慌てていたのでバラバラと地面にぶちまけてしまった。


「はっ‼」


 草むらから出てきた金の角を持つ獣と目が合った。


『ぴえん……』


 獣はそう泣いた。











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 2020/8/28 『小説家になろう』 どんC

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