武器屋だピえん
その武器屋は裏通りにあった。
裏通りでも道は綺麗に掃き清められている。
職人街にあるその店はこじんまりしていて、うっかりすると見過ごしてしまいそうだ。
窓から所狭しと武器が並べられているのが見える。
チリン
ドアベルが鳴る。
「おじさんいる?」
「おう、ポーじゃないかどうした?」
髭だらけの男が出てきた。
髭のせいで老けて見えるが肌の張りからまだ30代だろう。
彼らは顔見知りらしい。気やすい感じで挨拶をする。
「今日はお客さんを連れてきたよ」
「こんにちは。解体用のナイフと鉈と杖が欲しいんですけれど」
「ん~~。嬢ちゃん手を見せてくれないか?」
「 ? 」
鈴花は手を差し出した。
鈴花の手は小さい。
その手をおじさんは触る。
「小さくて柔らかな手だな。武器なんかろくすぽ持ったことないだろう」
「はい。でも旅をしなければならないから。武器は必要です」
「そうか……」
おじさんは頷くとテーブルに解体用ナイフを5本並べる。
20㎝から40㎝ぐらいの大きさのナイフだ。
「お嬢ちやんの手の大きさならこれらぐらいだろう」
鈴花はナイフを手に取った。
素人目にもナイフは無駄な装飾が無く、実用的でバランスが良かった。
全てのナイフを持って、握り具合や重さを確かめる。
鈴花は30㎝のナイフを手に取った。
大きすぎず小さすぎず、これ位が丁度いい。
腰から下げれば、武器になる。
筋肉の無い鈴花が剣など持てば自分を傷つけかねない。
「ナイフはこれを貰います」
「そうか。じゃ次は鉈だな」
ナイフが片付けられて鉈が並ぶ。
「焚き火の為に木を切ったり道を作るために蔓払ったりするだけだから少し重くても良いかな?」
「そうだな。お嬢ちゃんが使うならこれ位かな」
おじさんは真ん中に置いてある鉈を鈴鹿に渡した。
鈴花は鉈を2・3回振る。
「振りやすいわ。これにします。後は杖ね」
「杖はこっちだよ」
ポーが案内してくれた所に杖があった。
何本も樽の中に入っている。
「武器として使うのなら奥に鉄やらオリハルコンやらで作った物があるが?」
「いえ。私、棒術使えませんし。旅で拾ったこの木の棒より堅ければいいんです」
森で拾った木の棒は生渇きだったのかあちこちにひびが入っている。
数日もしない内に割れて焚き火の薪ぐらいしか役に立たないだろう。
丁度いい長さで硬い棒があった。
「ここら辺の棒は先に、綿を詰めた丸い布をかぶせて槍の練習用に使うものだよ」
ポーが答える。
「槍の方が扱いやすいんだよ。剣は扱いにコツがいるし。下手な奴は折ったり、刃毀れさせたりするから」
「練習用ならその棒より、木剣の方がよく売れるがな」
剣とか絶対無理だと鈴花は思う。
男の転移者なら剣一択だろうな。
「そうなんですか? 槍の方が扱いが楽なんですね。ああ。それと包丁はありますか?」
「旅で使うなら小型のナイフが良くないか?」
鈴花は折り畳みのナイフを見せてもらう。
「わあ~~~。おっちゃん新作かい? 凄い初めて見る‼ おっちやん天才か‼」
ポーが絶賛する。
この世界では折り畳みのナイフは出回っていないらしい。
これだったらポケットに入れて置けるし、隠し武器としても使えるだろう。
「これ凄く良いわ。手になじむ」
「これは俺の自信作だからちょっとお高いぞ金貨4枚だ。それから鞘と吊り下げるベルトはどうする?」
おっさんが鞘とベルトを出す。
「これは両方で金貨1枚に負けてやるよ」
「わ~~ありがとうございます。これで足りるかな?」
鈴花はズボンの裾を切って作った巾着袋から金貨を7枚取り出した。
昨夜、買い物するからとアイテムボックスから、金貨を15枚取り出して袋に入れておいたのだ。
スリープが眠っていても鈴花が望めば、鈴花の手のひらに金貨は現れた。
「おう。折り畳みのナイフが金貨4枚で解体用のナイフが銀貨7枚で鉈が銀貨2枚それと棒と鞘とベルトは銀貨4枚だ。ちょっと待ってくれ。合計で金貨5枚と銀貨3枚だ。ほら釣りだ」
武器屋の主人はテーブルの下に置いてある木箱から銀貨を7枚を差し出した。
「ありがとう」
「うちの商品は少し高いと思うかもしれないが、錆止めのバフがしてあるんだ」
「それは凄いですね。鉄だけだと直ぐに錆びてしまいますから、手入れが楽でいいです」
「品物はどうする?」
「鉈と解体用のナイフはスリープが持ってくれるから」
スリープはマントの下に隠すように鞘に入ったナイフとベルトと鉈を仕舞う。
「あんたアイテムボックス持ちかい?」
「いえ。スリープのスキルです」
ひびの入った杖もスリープに渡す。
「姉ちゃんはテイマーなんだよ」
「ほう。このちっこいのがアイテムボックスのスキル持ちか」
おっさんはまじまじとスリープを見る。
最初店に入って来た時。
1mほどの大きさのその生き物は、マントを深く被っていたから。
人間の子供かと思ったが。
よくよく見るとマントから蹄が見える。
喋らないので口が聞けないのかと思ったが、魔獣なのか?
「それにしても大人しいな。良く慣れている」
おじさんはスリープに赤い果物を渡した。
赤いリンゴに似た果物だが、中の種は桃ぐらい大きく硬い。
スリープは両手でそれを受け取るとにこりと笑い、頭を下げた。
キラキラして凄くうれしそうだ。魔物なのに表情が豊かだ。
おじさんの手がワキワキと動く。
___ もふりたい ___
いや、だが……そんな事をすればクールでナイスガイの大人の漢のイメ-ジが崩れてしまう。
「おじさん俺にも果物くれよ」
ポーが手を差し出した。
「お前今日はガイドの仕事中だろ。別の日にやるよ」
「ちぇ~~~」
スリープは果物を半分に割ると、半分ポーに差し出した。
おじさんは目を丸くする。
魔獣が分け与える?
「スリープが上げるって」
鈴花は笑ってポーそう言った。
「ありがとう。お前良い奴なんだな」
スリープは顔を赤らめテレテレと頭を掻いた。
___ いやいや。今のどうやった? ___
__ 金の蹄がナイフみたいに尖って種まで割ったぞ ___
一人と一匹が果物を食べている姿をした眺めながら、おっさんは昔教会で聞いたおとぎ話を思い出した。
勇者の傍らにいた聖鎧。
それは動物の姿をしていて、勇者に従っていたとか。
「ありがとうございます」
「おじさん。また来るよ」
『ぴえん』
___ まさかな…… ___
おっさんは手を振りながらぼんやりそう思った。
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2020/9/17 『小説家になろう』 どんC
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