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神との対話は

 次の日、11時頃に目が覚めて、恵壱はまずSNSを開いた。

 なぜと問われれば、それが日課だから、としか言いようがない。そして、サラリとメインアカウントに流れている情報を読み下すと、サブアカウントを開いた。

 まさか――とは思うが念のために。

 だが、そのまさかは起こっていた。

 滅多に使うことのないサブアカウントに、DMが来ている。


(なんだか、開くのが恐いな)


 いや、だがもしこのDMが、別に昨日送ったDMの返信だったとして、それに返信する必要性はない。

 さらっと読むだけ読んでしまえばいいのだ。

 相手が、神――いや、宵見 星先生だったとしても。


『感想、ありがとうございました。とても気に入って使ってもらえたようで、光栄です』


 その返信の出だしから、恵壱は頭を抱えてしまう。

 気に入ってもらえたようで、で良かったんじゃないだろうか、と。

 『使ってもらえたようで』という言葉は必要だったのだろうか。いやむしろ、なぜ使ったと断言できるのだろうか。超能力でもあるのか。それとも本に、魔法でも掛かっているのか。

 ――でも、この感情はなんだろう。


(心臓がドキドキする)

 

 今まで味わったことのない、初めての感覚だった。


 恵壱は、感想を送る側の人間でも送られる側の人間でもない。

 彼は、()()()()()()()()である。

 

 感想サイトの中でも大手の『D‐1.EXE』という同人誌のオススメサイトをKENNYという名前で開いている。

 彼の紹介する本は、売れてきた。ことごとく。

 彼が手にする本は、それがどんな駆け出しの同人作家であっても、何か光るものがあり、そしてそれは誰かを魅了する。

 これまでは18歳以下だったので、18禁以外の健全系もしくは15禁までの同人誌の感想を書いてきた。

 大学に進学して一人暮らしを始め、とうとう初の18禁に手を出したのだ。

 どんなに読みたくても、彼は確固たる意志で、法は犯さなかった。

 18禁最初の批評は、某超大手たちの18禁と決めていたし、そう予告もしていた。

 予告までしていたが、結局その情報が予告日にアップされていないので、SNS上では「どうした、KENNY! 初めての18禁は刺激が強すぎたか?」だの「きっと疲れてまだ寝てるんだから、放っておいてあげよう」だの「若いっていいな。何回抜いたんだろう」、「猿って自慰を覚えると死ぬまでやり続けるというけど、あれはデマ。あと自然界で自慰をする動物はたくさんいる」などといった勝手な言葉で埋め尽くされていた。

 サイトを始めてから自分の年齢を出すと、『同人誌に魂を捧げるバカ高校生』だの、『親泣かせ系男子』だのと、恵壱を弄るコメントや某巨大掲示板などの晒しもあったが、それでもなんやかんや続いている自分のサイトを、誇りに思っている。


(とにかくDMの続きを読んで、それから買った同人誌を読んで、批評を書かないと……)

 

『私が自分でも一番気に入っているのは、12P目のなゆゆのおっぱいに勇者のナニを挟んだまま白濁が飛び散ったところです。自画自賛ですが、あそこは上手く掛けた――いえ、描けたと思っています』


(――なぜ、俺のお気に入りの場所と被っているんだ……? あと、文章を修正した風に書いておいて、消さないのかよ)

 

 なんとなく読み進めるのをためらってしまった。

 こんな風にこれから先の文章も、赤裸々に自分の書いた物の良かった所などを、神は恵壱に綴ってくるのだろうかと思うと。

 本人を知っているだけに、それはなんだか興奮す――よくないことに思えたのだ。


「やめた……」


 そう呟いて、恵壱はそっとDMを閉じた。


 その先に、衝撃的なことが書かれていたのに、気付かないままで。

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『彼女はマスクを外さない』
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