僕の方が余程罪深いのですから・・・
すみません、遅くなりました。
そして、現代パートなのにちょっとシリアスに……
ウイに気のありそうな土御門タカキを連れて校舎へ向かったユリヤ達との別れ際、影井ユキシロと名乗っていた人が、『エルネスト』とユリヤに呟いたのが聴こえた。
昨日、なにかあったのだろうか?
「・・・」
「どうしたの? 瑠威ちゃん」
「え? あ、僕、自転車置きに行かなきゃ。ウイちゃんはどうする?」
「じゃあ、わたしも一緒に行こうかな」
と、ウイが僕に付いて来た。
「えっと、ごめんね? ウイちゃん」
「ううん、気にしないで」
それから自転車を置いて、校舎へ向かう。その間ウイと他愛ない話をしながらも、気になるのはさっき聴こえた『エルネスト』という名前。
「それじゃ、ウイちゃん。休み時間にね」
「うん、ありがとうルイちゃん。後でね」
ウイを教室へ送り、自分の教室へと向かう。
「『エルネスト』、ですか……」
考えていると、思わず零れる溜め息。
それはアニメやマンガ、ゲームのキャラの話だという可能性の方がとても高いが……
その名前は、よく知っている名前だった。
『大宮瑠威』には、物心付く前から、なぜか知っていたことがある。物語のようにありふれた・・・悲劇の姫と騎士の話。
物語のようなのに、なぜかその出来事が事実なのだと、ずっと確信していた。きっと自分が、『大宮瑠威』となるずっと以前のことだと。
だから、ユリヤとウイと出逢うことができて、どれ程嬉しかったことか・・・あの二人はきっと、なにも知らないだろうけど。
『エルネスト』
それは悲劇の姫の、婚約者だった騎士の名前。腕が立ち、優しい性格で・・・けれど、彼はとても間抜けな男だったと、記憶している。
姫のことをなにも知らなかった、間抜けな男。
その裏表の無い誠実さに、姫はある意味では救われていたけれど・・・本当の意味では、姫を救えなかった男。
姫が……冷たくして、わざと嫌いな振りをしてまで守ろうとしたのに、結局それら全てを台無しにして、姫と一緒に散って逝った愚かな男。
最期まで姫を守れなかった・・・
姫を救ってくれなかった、大馬鹿で間抜けな男の名前。
「後で、それとなく聞いてみますか……」
色々と動く予定を組み立てる。
まずは、新しい学校の新学期なのでウイに近付く男達への牽制と、女子達の情報を集めなくてはいけない。高校なので、あちこちから人が来ている。中学のときよりも少し骨が折れることだろう。昨日に引き続き、情報収集を頑張らなくては。
まあ、少しばかり前のことを覚えている自分には、同年代の男達をあしらうことはワケもない。二、三年の差など、大した誤差でもない。
過保護なユリヤはウイのことをか弱いと思っているけど・・・ウイは男が苦手なだけで、実は案外逞しい。同年代の女子相手に負けることはそうそう無い。女子達の嫉妬なんて、ユリヤが気付かないうちに自分でなんとかしてしまうことだろう。まあ、情報で手助けはするけど。
それより、ユリヤの同級生だというのあの二人も気になる。ウイに気のありそうな土御門タカキ。そして、明らかに猫かぶりな影井ユキシロ。影井はどこか、自分と同じ匂いを感じる。腹黒というか……おそらくは、なかなか厄介な相手だろう。
ウイのことでユリヤも大変そうだけど・・・
しなくてはならないことが、少し多い。
けれど、自分は姫だったあの人を愛しているので、『彼女』の為ならばなんだってしようと思っている。『彼女』の、喜ぶ顔を見たいから・・・
前は、『彼女』になにもできなかった分。前よりも年が近くて一緒にいられている今度こそは、絶対に。
守ると、決めている。
もう、なにもできなかったことを嘆き続けた前とは、なにもかもが違うのだから。
「ですが……貴方は相変わらずですね。聡いのに、どこか無神経と言いますか……」
『前からの僕』は、貴方を愛してもいますが、憎んでもいるのですよ? 『僕』を置いて逝った貴方達を、ね。愛しい愛しい・・・
「……アンナ姫」
まあ、『今の貴方』は『僕のこと』を覚えてはいないのでしょうけど……
そのことを、寂しくも思いますが・・・
どこかで安堵している自分もいる。
「貴方を守れなかった『エルネスト』よりも、僕の方が余程罪深いのですから・・・だからこそ、貴方には幸せでいてほしい」
姫であった貴方の命は、あのとき意図的に奪われたのだから・・・
読んでくださり、ありがとうございました。
ルイは腹黒で、実は丁寧語キャラです。百合也と羽唯の前ではかなり猫被ってます。
一応ラブコメ?予定…なのですが、前世パートが重い上に、もっとシリアスな方向になるかもしれません。