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羽唯を守る同志だ。

 翌朝。


 羽唯(うい)と手を繋いで登校していると、


「おはようございま~す、ユリヤ様♪ウイさん♪お二人共仲良しさんで(うらや)ましいですねぇ」


 ニコニコと、校門前にユキシロが現れた。


「・・・おはよう、影井」

「お、おはようございます……影井先輩」


 びくびくとユキシロへ挨拶を返す羽唯。別に返さなくてもいいのだが、羽唯は優しい。


「もう、倖白(ユキシロ)って呼び捨てでいいのにぃ。そうじゃなかったら、可愛くユキちゃん♥て呼んでくれてもいいんですよ? ユ・リ・ヤ様♥あ、ウイさんはユキちゃん先輩とか、ユキ先輩でもいいですよ♪」


 にっこりと微笑むユキシロへ、


「君など、影井で十分だ。あまり羽唯に馴れ馴れしくするな。離れろ」


 シッシッと追い払うように手を振る。


「ユリヤ様がヒドいですっ・・・ユキは、ユリヤ様の妹でとっても美人さんなウイさんと仲良くしたいだけなのにっ・・・傷付いちゃいました!」


 悲しげに瞳を伏せ、そしてぷぅと頬を膨らませてわたしを見上げるユキシロ。相変わらずの美少女っ振り。そして、なんとも言えずあざとい。偽装男の娘のクセに。


「さて、行くぞ羽唯」


 ユキシロを放って歩き出そうとすると、


「おい、百合也(ユリヤ)。倖白のことはどうでもいい。しかし、親友であるこの俺に挨拶をしないで、あまつさえ無視をし続けるとは一体どういう了見だ! そして、相変わらずジャージ登校か?」


 ユキシロの後ろで今まで黙っていた自称(・・)わたしの親友という、面倒な奴が絡んで来た。


「ああ、いたのか土御門(つちみかど)。全く気付かなかった。まあ、ジャージは制服より楽だからな。おはよう、ではもう行くとする」


 折角(せっかく)スルーしようと思ったのに。


「待て! そして、気付けよっ! お前が真っ先に挨拶すべきは親友であるこの俺だろうがっ!?」


 ビシッと指される人差し指。朝っぱらから面倒な絡み方を・・・よし。


「・・・悪いな、土御門。羽唯と一緒にいるときには、警戒すべき相手に注意を払っていてな。特に問題無さそうな人物はあまり目に入らないんだ。君が羽唯になにかする筈など無いと思っているからな」

「フッ、当然だろう! 親友の妹を守りこそすれ、危害を加えることなどある筈が無い! 俺のことを信用してくれて嬉しいぞ百合也!」


 信用というか、土御門は女性恐怖症だからな。ぶっちゃけ、女性にはヘタレで自分からは近寄らないことを知っているので、警戒するまでも無い。普通に眼中に無かっただけだが・・・まあ、あれだ。


「わかってくれて嬉しいぞ、土御門。というワケで、羽唯と一緒のときには是非とも遠慮して、わたし達には話し掛けないでくれると嬉しい」


 にこりと土御門に告げると、なにやら小さく抑えたような黄色い声が周囲から聴こえた。今日も腐な女の子達は、朝から元気なようだ。


「相変わらず、ユリヤ様と高輝(タカキ)サマは人気者ですねぇ?」


 ニヤリと笑うユキシロ。そこへ、


「ゆーちゃん! ういちゃん!」


 大きな声でわたし達を呼ぶ声と共にパタパタと自転車を押しながらこちらへと走って来て、足を止める一年の男子。


「おはよう、二人共!」


 にっこりと可愛らしい笑顔で微笑むのは、栗色をしたふわふわの猫っ毛に薄茶の瞳の美少年。


「やあ、おはようルイ」

「おはよう、瑠威(ルイ)ちゃん」

「あのね、ゆーちゃん。ごめんね? 僕、ウイちゃんとクラス違うんだ。オマケに、昨日は先生の話長くてなかなかHR終わらないし。ちょっと用事もあって・・・」


 と、いきなりしゅんとして謝るルイ。


「ああ、それは羽唯から聞いた。少々残念だが、別にルイが悪いワケじゃない。謝らなくていいよ」


 ふわふわの頭をぽんと撫でると、


「うん。わかった、ゆーちゃん。クラスは違うけど、休み時間とかにちゃんとウイちゃんのクラスを見に行くからね。ウイちゃんに悪い虫が付かないよう、僕頑張るから。安心してね?」


 頷いて顔を上げるルイ。素直で可愛い。そして、さすがはルイだ。


「頼んだぞ、ルイ」

「任せて、ゆーちゃん」


 少し低い位置からキリッとわたしを見上げる薄茶の瞳を見詰め、頷き合っていると、またしても抑えたような黄色い声がした。腐な女の子達がざわめいているような気がする。なんだかちょっと、ルイに悪いと思わないでもないが……


「おい、百合也。ソイツはなんだ? やけにお前に馴れ馴れしくないか?」


 不機嫌そうな低い声が割り込んだ。


「うん? 馴れ馴れしいもなにも、彼はわたし達のご近所さんで、十数年来の幼馴染みだ。仲が良くて当然だろう? 去年からの浅い付き合いの君らとは、年期が違うのだよ。ちなみに、羽唯の同級生だ。なあ、ルイ」


 確か四、五歳くらいの頃からの付き合いだと記憶している。まあ、ルイは早生まれだから、実質的な年齢は二つ程下ということになる。純日本人とのことだが、天然で元から色素が薄いらしい。

 そして、知り合った小さな頃からわたしとルイは、羽唯を守る同志だ。ルイはわたしにとても懐いてくれた上、羽唯とは同学年なので、わたしの手が回らない辺りを長年フォローしてくれて、随分助かっている。とても頼りになる可愛い弟分だ。


「うん」


 と頷いたルイに、


「なんだとっ!? 未だに俺の名を呼ばない百合也に呼び捨てにされている貴様っ、名を名乗れっ!」


 なぜか指を突き付ける土御門。


「おい、変な理由でルイに絡むな。土御門」

「百合也は黙っていろ!」

「え~っと、大宮瑠威です」

「大宮ルイか。よし、覚えたぞ。俺の名は土御門高輝だ。いいかっ、大宮ルイ! 幼馴染みだとて、百合也の親友の座は渡さんからなっ!?」

「・・・ゆーちゃんのお友達、ですか?」


 土御門を不思議そうに見上げるルイに、


「はい、高輝サマはユリヤ様の自称(・・)親友なんですよ。ちなみに、ユキは影井倖白。そして、ユリヤ様の自称(・・)親友な高輝サマとは違って、ユキはユリヤ様とはホントの仲良しさんです♪」


 にっこりと割り込んだユキシロ。


「おい、待て倖白。誰が自称親友だ。俺は歴とした百合也の親友だぞ」

「はいはい、ユリヤ様には認められてませんし、高輝様がそう言ってるだけですよねぇ♪」

「そんなことはない! そうだろう? 百合也」

「いや、そんなことはあるのだが」

「百合也よ。そう照れることはないと、何度も言っているだろう?」


 照れているワケではないのだが・・・


「……ゆーちゃんの自称(・・)親友? それは、純粋にゆーちゃんの友達ってことですか? ゆーちゃん、ウイちゃん目当ての人は大嫌いだし」

「なんだと! そうなのかっ? 百合也!」

「まぁ、言うまでも無いことだろう? 君らも、家や金、顔目当てという手合いをどう思う? ましてや、身内狙いの輩など最悪ではないか」


 羽唯は美少女なんだぞ?


「成る程。まあ、親友の妹を守ることは(やぶさ)かではない。なにせ俺は風紀委員でもあるからな。なにかあれば遠慮無く頼るがいい、姫津妹よ!」

「え? あ、はい。ありがとう、ございます?」

「まあ、特になにも無くても、どんどん俺を頼ってくれても構わないがな!」


 若干目を逸らしつつ、羽唯の方へ視線を向ける土御門。その顔が、僅か赤いような気がする。


「・・・おい、土御門」

「フッ、なんだ? 百合也。俺の、親友の妹への気遣いに感動でもしたか?」

「ンなワケあるか。けれど、貴様とは少し、大事な話をしなくてはならないようだ。土御門」


 この野郎、女性恐怖症はどうしやがった……


「? 改まって大事な話とはなんだ? 百合也」

「それは後でじっくりしようではないか。というワケで、ルイ。羽唯を頼んだ」

「うん、じゃあお昼にね? ゆーちゃん」

「ああ、羽唯も後でな」

「うん」


 二人に手を振って歩き出すと、


「そう言えば、昨日の『エルネスト』でしたっけ? 気になりませんかぁ? ユリヤ様♪」


 ニヤリとユキシロが笑った。

 読んでくださり、ありがとうございました。

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