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エルネスト。

 シリアスパートです。

 なぜか()は、昔からなにか(・・・)を守りたかった。


 けれど同時に、そのなにか(・・・)を守れなかったという強く深い悔恨を胸に抱いていた。


 その理由を知らないまま、俺は・・・


**********


 わたし(・・・)は、守れなかった。


 大切にすると誓ったあの方を。


 純金を溶かし込んだような目映い金の髪に、スターサファイアのような輝きを宿す青の瞳。大層な美貌を生まれ持った清楚で可憐な姫君。


 初めて姫のその姿を見たとき、天使が地上に舞い降りたのかと思った程だ。


 その美しさに見蕩(みと)れてぼーっとしたわたしへ、鈴が鳴るような可愛らしい声が掛けられた。


「初めまして。未来の騎士様」


 天使の微笑みに、わたしは恋に落ちた。


 その頃は、なにも知らない子供だった。


 自分達が暮らすのが人口二千人にも満たないような、吹けば飛ぶような小さな国だということも。


 そんな小さな領のような小規模の国が幾つも(ひし)めき合い、小競り合いとその隙を突くような漁夫の利を狙い合い、小さな国達が日々滅びては生まれ、統合されてを繰り返しているような時代だということも――――


 わたしは、そんな時代のとある小さな国の王族を守る近衛の家に生まれた。

 

 王族というより、領主と呼ぶのが相応しいような、国民と王族の距離が近しい小さな国。


 姫の五歳の誕生日。お披露目のパーティーで、わたし達は出逢った。


 あの小さな会場で、姫の美しさに見蕩れていない少年はいなかったように思う。


 そしてわたしは、姫に「未来の騎士様」と言われ、姫を守る立派な騎士に成るのだと奮起した。


 それから(しばら)くして――――


 わたしは父に付いて城に出入りするようになり、それが姫の目に留まったようで、遊び相手に指名された。始めはとても緊張していたのだが・・・

 姫は美しく可憐な容姿でありながらも、なかなかのお転婆で、幾度もハラハラさせられたものだ。


 そんなお転婆なところもある姫は、年を重ねるごとに益々美しく育って行った。


 姫と知り合って五年が経つ頃、わたしは姫の婚約者として選ばれ、婚約を結んだ。


 姫がわたしを選んだのだと聞いたわたしは、舞い上がった。姫を知る少年達は皆、姫へと焦がれていたのだ。その、数多くいる少年達の中から姫自身に選ばれたことを、とても誇りに思った。


 だから、気付かなかったのだろう。いつの頃からか、姫の笑顔が(かげ)りを帯びて行ったことへ・・・


 そして、姫が九歳になったとき。


 姫に新しい母親ができた。姫を生んだ母君である王妃様は、姫を生んで数年で流行り病にかかって亡くなられており、それまでは姫と王の父一人子一人で暮らしていたのだ。しかし王は、姫と、そして国の為(・・・)に新しい妃を迎える決断をした。


 姫は、本当に幼い頃に母を亡くして、母という存在を知らずに育った。無論、乳母や侍女は姫の世話役としていたけれど。そんな姫を、新しい王妃様はよく気遣って、優しく接していた。

 やがて弟王子が生まれたが、王妃は二人へ分け隔て無く愛情を注いだように思う。姫もまた、年の離れた弟王子をとても可愛がっていた。


 しかし――――


 『金とサファイアの美しい姫、国の至宝』


 そんな風に誉められる度、曖昧に微笑むようになっていた姫は、やがて病弱となり、次第に表舞台にはあまり姿を現さなくなった。


 だからわたしは、姫を守る騎士として、より一層自身を鍛え上げることに打ち込んだ。

 そのせいで、姫と過ごす時間が益々減ったのだが、このとき(・・・・)わたしは、それが正しいことなのだと、信じていた。


 そして、美しい姫が臥せるようになると、とんでもない噂がひっそりと囁かれるようになった。新しく妃となった王妃が、「姫の美しさに嫉妬して……」または「自分の生んだ子へ王位を与える為に……」姫へと毒を盛ったのだ、と。


 無論、そんな噂はデタラメに決まっている。姫と継母である王妃は、その血こそ繋がってはいないが、とても仲睦まじい様子で、実の母娘のように過ごされていたというのに・・・


 病弱になり、表舞台にはあまり出なくなっても、姫の美しさは(いや)増すばかり。姫のその美しさを、国民達は皆誇りに思い、噂した。


 それが、あんなことになるとは思わずに・・・


 『(たぐ)(まれ)なる美貌を宿した、金とサファイアの至宝の姫君』その噂は近隣諸国に鳴り渡り、姫への縁談の申し込みがずっと絶えなかったという。


 けれど、姫を近隣の小国へ嫁がせるメリットが無い為、わたしとの婚約を理由に、全て断っていたのだという。


 わたしは、知らなかったことだが・・・


 しかし、姫が十六のとき。とうとうそれが通用しない相手が姫を妾にと、望んだのだった。


 姫の身体がもう少し丈夫になったら、わたしと結婚式を挙げると準備を進めていたのに。


 戦で近隣の小国を併呑し、領土を広げて大国となった国の王が、姫を寄越せと我が国へ要求した。


 その国は、我が国からは離れた位置にあったが、その戦上手振りはかなり有名だった。


 もし、姫を寄越せという要求を蹴れば、()の国が攻めて来るかもしれない……と。誰ともなく、そんな噂が城で囁かれるようになった。


 そして国王は、その要求を飲んだ。


 それからわたしは姫に呼び出され――――


「わたくしがあなたを選んだのは、単に候補者の中であなたが一番扱い易いと思ったからです。けれど、もうわたくしにあなたは必要ありません。要らないので解放して差し上げますわ」


 冷たく引導を渡されたのだった。姫が病弱になってからはあまり話す機会が無く、久々に顔を合わせて言われたのが、この言葉。


「わたくしは元々、あなたなんて愛しておりません。では、用も済んだので、下がりなさい」


 わたしは姫の冷たい態度と言葉、そして婚約解消という事実に打ちのめされた。しかし、姫に必要無いと告げられても、わたしが姫を守りたいという気持ちは変わらなかった。


 姫にはわたしが不要でも、姫の御身を守りたいと国王へ直訴し、姫の近衛騎士に志願した。向こうの国で、何名もいるという側室の一員となる姫の味方となる為に。


 姫は、わたしの近衛入りを嫌がったというが、それでもわたしの実力を買っていた国王が、姫にわたしを付けると決めてくれた。わたしは、益々姫に冷たい視線を向けられてしまったが・・・


 それから(しばら)くして、姫は大仰にしたくないと嫌がったというが、わたしを含めた十名程の騎士と侍従を数名連れ、輿入れというには少ない人数でひっそりと旅立ち、()の国へと向かった。


 その途中。わたし達は刺客へ取り囲まれ――――


 わたしは、姫を庇って刺客の刃を受けた。


 崩れ落ちる瞬間、見開くスターサファイア。


「なんで、庇ったっ!? なぜ逃げなかったっ!? だから、来るなって言ったのにっ……」


 姫の、悔しげに震える声を最後に、わたし(・・・)の意識は闇へと落ちて行った。


「エルネストの、馬鹿っ!!!」


 幼い頃以来の、姫の罵倒。


 それを聞いたとき、わたしはまだ姫に嫌われていなかったのだと気付いた。


 本当に、わたしは馬鹿だった。


 死の間際で気付くなんて、遅過ぎる。


 ああ、もしも次があるのなら・・・


 幼い頃のように、姫ともっと本音で語り合いたかった。と、そう思いながら・・・


**********


 彼女の顔(・・・・)を見た瞬間、なぜか(・・・)深い悔恨と苦しさを孕んだ強い想いが、胸に弾けた。


 同じクラスになった姫津羽唯(うい)さんを見て、守りたいと、なぜか(・・・)強く思ってしまった。


 それからはとても落ち着かず、居ても立ってもいられなくなり、姫津さんと二人きりになった瞬間、よくわからないことを口走った気がする。


 その後の記憶が、どうにも曖昧だ。


 気付いたら病院にいて、なぜか精密検査を受けさせられていた。なんでも、廊下で倒れていたのを、風紀委員の先輩に発見されたという。


 なので、異常が無いかの検査だそうだ。


 頭を打っている可能性があるとのことで、自分の名前を覚えているか? という質問。


「岸原直刃(スグハ)です」


 と答えたら、なぜか『エルネスト』? という名前に聞き覚えがないか? と何度も訊かれた。


 よくわからないが、マンガやゲーム、アニメなどのキャラの話だろうか?


 それにしても、なぜか耳に残る名前のような・・・?

 読んでくださり、ありがとうございました。

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